mission,3





 勿論、それは本部長の死体だ。
 首元の後ろにぐっさり刺さったナイフ。これが命を奪った。
「他に傷も無い。……相手は、プロか?」
 死体を見て、リオンが呟いた。
 普通、どうしても刺すとなれば腹部へいってしまう。そして、とにかく素人は往々にして頭や心臓等の急所しか見ない。
  それにしてもし、随分窮屈な格好だなー。
 腕を後ろに回し、膝は胸までくっ付けた、そんな姿勢だ。横向きに倒れていた。
「前に冷蔵庫に仕舞われた死体を見たことがありますけど、こんな格好をしてましたよ」
 色々と聞き捨てならないツッコミと所満載のセリフはネイルだ。
「しかし、これは何処かへ仕舞われた形成はありませんね」
 そうだな、皮膚や服に汚れた跡は無い。
「争った形跡も無い、サイフはポケットに突っ込まれたまま………」
 リオンのセリフは、そのままこれが通り魔や物取りのような通りすがりの犯罪でなく、はっきり動機のあるものだと告げていた。
「……どうする?」
「帰るぞ」
 聞く私に、ジルコニアは簡単に答えた。




 一旦、詰め所に戻る。
 叔父さんは、留守だった。最も、此処に居る方が珍しいんだが(元は叔父さんの部屋なのに)。
 事件の容疑者が死体となって現れて……
 こんな時、「事件は振り出しに戻った」ってフレーズを使うんだろうな。
「ジルコニア、何か浮かんだ?」
 私がそう聞くと、
「今は情報が少ない」
 ぽつり、と言う。
「こんな時こそ、現場百回というヤツだな」
 颯爽と立ち上がっったジルコニアの傍には、「あやつり左近」があった。(まだ推理モノがマイブームらしいよ)




 現場には、死体のあった事を示す白いチョークで描かれた図があった。
 形としては人が倒れた形跡としては少し変で、まるで何か多きな水溜りみたいだった。
「使われたナイフは、近くに落ちていた物だったそうだ。指紋は付いていない。
 昨夜にどこぞの若者が落としたらしい。ナイフに見覚えがあったという証言で、そいつはもう発見されている。事件には、無関係みたいだ。犯行時刻の今朝は、ずっと寝っ放しだったらしい」
「それはアリバイとして、成立するんですか?」
「寝っ放しというか、2日酔いだそうだ。取り調べも、酒が抜けるまで時間を取ったそうだ。
 こんな状態で、数時間前に人が殺せるか?」
 リオンが説明する。……て、何でそんな事を知っている。
「とある筋から、この事件の調書を借りている」
 ……いいの?借りて。
 リオンは上を見上げて、また言った。
「本部長の家は、このマンションの最上階だ」
 このマンションは、絶対ローンじゃなくて分譲だろうな。
 私は、どうもマンションは好かんなぁ。
 人は地面を離れて生けられないって、「天空の城○ピュタ」でそんなセリフがあったし。
 それはともかく。
「あれ…………?」
 最初、此処に来た時は寝惚けて気づかなかったのだが。
「あのアパートから、此処、近いじゃん」
 近いと言ってもご近所さんって訳じゃないのだが、車で10分もあれば着ける距離だ。
 こんな近くに愛人設けるなんて……便利といえば便利だけど、悪趣味と言えば悪趣味な。
「それじゃ、最初の被害者の所へ行くか」
 ジルコニアが言い出す。
「ジルコニアは、この2つが関連していると思っているんですね」
「それは全員一致じゃないのか」
 まぁ、ね。確かな証拠も無いけど、ある事件の容疑者が間も置かず、続いて死んだとなったら、それも殺人だと解ったら、結びつけて考えるだろう。
 だとしたら、動機は怨恨……だろう。おそらくは、前のは本部長の単独行動だ。1人でも、十分に出きるものだったから。
 殺された被害者の敵討ち、か……
 でも、そうだとしたら、こんなに早く行動起こせたのなら、それは犯行現場目撃するしかないぞ。
 あの時、私の他に誰か居たかなぁ………
 しかし、この公園は広いな。道路に出るまで、うわー、歩いたなーって思うくらい歩かないとならないだろう。
 せめて、横に突っ切れたらなー。そんな私の願い儚く、その方向には腰くらいまである草がぼうぼうと……
 ……お?
「獣道発見ー♪」
「通れるのか?」
 そう、聞かれると。
 ……少しキツいかな。ジルコニアなら何とかいけるだろうけど。
「地道に歩くか。仕方ない」
 事件現場だが、人は少ない。ま、死体が転がったところなんて、実際は来たくないだろう。
 通りに出たら、この公園が使えなくなった事で新たな場所を探す子供達の姿があった。




 さて、あの忌まわしいアパート到着。
 本部長殺害事件でこっちは後回しにされているのか、誰も居なかった。
 キープアウトのテープを潜り、室内へ入る私達。
「このベットですか」
 二度と見まい、と思っていたベットが目の前に現れる。私は渋い顔で頷く。
「この血の跡は被害者のものだとして……あっちの血溜まりは何なんです?」
 部屋の片隅に、対して大きくない血溜まりの跡があった。
「其処には……ネコの死体があったそうだ」
 調書を捲りながら言うリオン。もう、この行動に何も思うまい。
「死因は、圧死……どさくさに、踏み潰されてしまったようだな」
「………ネコ」
 ジルコニアが確かめるように言う。
「ちょくちょく餌とかやっていたみたいだな。管理人が迷惑そうに言っていた」
 ジルコニアが、もう一度ネコ、と呟いた。
 ネコに何か深い関係があるんだろうか………
「セルフィユ」 
 唐突に名前を呼ばれて赴く私。
「おぶえ」
「は?」
「おんぶをしろ、と言ったんだ」
「誰を」
「オレが呼んで、オレ以外のヤツにしろと思うか?」
 機嫌が悪くなる前に、素直に従おう。
 ジルコニアに、背中を向けてしゃがみこむ。
 と。
 ドゲシ!!
 蹴られた。
 全くの予想もしない行動に、危うく鼻からぶつかる所を、なんとか横に受身を取った。
「いった〜!!何すんだって!!」
 抗議を上げる私を……何故だか、凝視していたリオンとネイル。
 何だ?
 ぽつり、とリオンが言う。
「背負おうとして、倒れた時の格好……今朝見た、本部長にそっくりだ」
「……………」
 て事は。
 て事で。
 ……て事だ。




 本部長は、おんぶをしようとした相手に刺された。
 だから、その場所が首の付け根だったんだ。
 て事は、相手は必ずしもプロって事じゃない訳だ。
 ……と、言うか………
 ………うーん。
 まず、考えてみよう。
 誰かが、足を汚したりして、蹲っている。
 だとしたら……普通の人相手だと、背負うより肩を貸すんじゃないだろうか。
 おんぶをする相手なら、……女性か、老人。そして、子供。
 で、だ。
 どうして、犯人はおんぶをしてもらったのか。
 人を殺そうとする時だ。余分な事は、しないに超したものはない。
 だとしたら、それはしなければ自分の計画が成立しないような事だったのでは、と思われる。
 何故、しないとならないか。
 ……相手は、私を運べる程の人物だ。体格はいいし、身長もある。
 もしも、だ。
 おんぶをしてもらった理由が。
 そうしないと、命を奪うまでに至る致命傷を、与えられないのだとしたら。
 普通に向かい合って刺しても、届かないのだったら。
 それは、おんぶしてもらうしかないわけで。
 そんな事をしてもらう必要のある相手は。
 相手は。




「……動機は、」
 謎が解けたと解ったら、リオンもネイルも薄情なものだ。
 あっさり帰りやがった。
「それは勿論、復讐だろうな」
 ジルコニアが私の疑問に答えをくれる。
「共通点が解らんな」
「……被害者は、お前の横に居たヤツだけじゃない」
「…………………」
 部屋の片隅にあった、小さな血溜まり。
 ………私が襲われた時、注意が他に向いていたからだ。
 それは、鈴の音。
 鈴を使う物と言ったら………
「あ。居た」
 雑居ビルの合間に、凄い場違いな女の子。よく見れば、かなりいい身だしなみをしていた。
 私達がその子に近寄ると、気づいたのか、こっちを見上げる。
 その子は、自分が大人に何を求められているかを、知ってしまったような目をしている。
 ……ネコは、何も期待しないから。構った分だけ、構ってくれる。
「別に、誰にも言う気はない。面倒な事は嫌いだ」
 ジルコニアが、その子に向けて言う。
「ただ、もうあまりしない方がいい」
 その子は。
 解ったと、言った。




 帰り道、ジルコニアが誰に言うでもなく、独り言でもなく言う。
「人の命を救うことは尊い事。命を奪うのは惨い事………」
 でも、と続ける。
「人の命を奪った者の命を護るのは……どうなんだろうな」
 その答えは。
 誰も、解らない。




<END>





さて、オリジナルでした。
いやね、本当はもう一本あるオリジの話し用だったんですが、作風的にあっちは人死が出るのは合わないかな、と思ったんで。
本気でリサイクル用の話だば、オリジ1は。
次はこれ専用の話を書いてあげようと思います。……多分。