:Tornado-Ranshtiin
眩い閃光に包まれ、それが収まった時、自分は片割れと酷似した小さい姿になっていた。そしてそれに見合った小さい手足、翼。途中でネッカチーフも回収できて、後は只管地球を目指した。
もっというなら、あの子供の下へ。
そうしたら、突然強い風に引っ張られた。
そして。
自分は、此処に立っている。
しかし、何処に居るかは解らない。
「…………」
上を見れば、満天の星空。下を見れば、赤茶色の土。前を見れば、岩山の群れ。
そして何より、人となった自分の姿。
ネズミにしては視界が高いが、竜の時よりは低い。今度はどんな姿になったのかと視線を下に移すと、それは紛れも無く人間の身体だった。鏡はないので手で触れるしか確かめようがないが、顔もちゃんと人間らしい。どんな造形をしているかは知らないが、風のサーガと並んだ時ちゃんと釣り合いがとれているといい。その秀麗な顔でランシーンは考え混んだ。
まぁそれはひとまず置いておいて。
これからどうすればいいのか。
ジャバウォックが復活した時だって、こんなに途方に暮れた事は無かった。
地球に降り立てた事はいい。でも、どうしてこの姿にしてくれたのか。
例えどんなに小さくても、やはり翼が無くなったデメリットは拭い得ない。必ず地面の何処かに着いていないと、移動出来ないこの姿では行動に限りが出来る。それにこっそり荷物に潜り込む事もままならない。
せめて、NYに着いてから人間にしくれればいいものを。それならば諸手を上げて歓迎したというのに。
何故人の姿になったのか。心当たりが無いでもない。
時間を遡り、やり直した際にシロンはスピリチャルの面々に会っている。他の誰も知らない----時間を巻き戻してなかった事にしたのだから、当然だが----事を、ランシーンは知っている。何故なら、あの時自分も「居た」からだ。
その時、シロンが頼み事をしたのも知っている。絶対、あれに関係する。
あの娯楽主義の典型みたいな連中が、存在させる事は出来るけど、記憶はないよ。ごめんね。で終わる筈があるだろうか!あんなに風のサーガを賞賛していた輩が、風のサーガにとって残念な結末を与えるだろうか!(あまり関係ないが、あの時もっとシロンを扱き下ろしても良かったと思う。そう、15分ほど)
いや、断じてそれはない!!ある筈が無い!!
自分の考えに力が入る余り、拳もグググッ!と握っていたランシーンだ。それを思うと、全く人気の無いところに卸されたのは正解だろう。
そうだ。この姿になったのは、風のサーガと共に居るためだ。
だから、この道を進んでいけば、きっと風のサーガに会える。それは自分の存在が証明してくれている。
でもそれなら、やっぱりNYに自分を送ってくれてもいいじゃないか、あいつらめ。次に会ったらその辺りの事をやかましく抗議してくれる。
言うべき文句を考えながら、ランシーンは歩き始めた。
今は夜、あるいは夜中のせいもあってか、誰とも会わない。その分、星空がやたらと存在を主張しているように思えた。
空から見た地球も美しいが、地球から見る空も美しい。
「----今行きますからね、風のサーガ……」
そっと大事そうに呟いたランシーンの言葉は、風に乗って遥か先を飛んでいった。
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