:All-Legendz
自分がこうして復活したのなら、他の者もそうかもしれない。
そう思い立って、向かってみたのはワニの穴。皆が集まっていそうな場所は、此処しか思い浮かばなかった。
来てみれば、明かりは灯っていて営業しているようには見える。
果たして経営者は仲間か、はたまた別人か。
緊張しながらドアノブを捻り、中に入ると----
「いらっしゃい、アニキ!……ですよね?」
ヴィリディアンの髪をオールバックにしたバーテンが、自分を見て(正確には飛行帽を見て)そう言った。
店内はひしめき合っていた。その面々は、かなり容貌は変わったが、けれどもどこか面影を残していた。
多数の双眸が一斉にこっちを見る。
シロンは、なんだか被告人席に立たされた、罪人の気分になった。
「……で、どういう事だ?シロン」
それぞれ、目覚めてから今までの行動を報告した後、代表するようにガリオンがシロンに聞いた。自分が罪人なら、裁判官はガリオンだろうな、とシロンは思う。
「どういう事って……それを俺に訊くのか?」
「当然だろう。そなたが目覚めたから、我らも目覚めた。以前も言った筈だ。常に始まりはそなたが告げると。今回とて例外ではない」
「んな事言われたって、俺だってなろうとしてなった訳じゃねーよ」
自分だって今の状況がよく解らないのだ。それなのに詰られるみたいに言われ、シロンの機嫌は降下した。
「さっきも言っただろ。気づいたら居たんだ。どういう事って、そりゃこっちが訊きたいよ」
「----ふん、まぁそれはとりあえずいい」
ガリオンもまたシロンと同じようで、ぴりぴりしている。鼻を鳴らし、周囲の面々を見渡した。
「考えるべきは、今後の身の置き方だな。
まさか、皆が皆、サーガ達と接触しているとは……」
そう言われ、気まずそうに皆は首を竦めた。
少しは自分達の立場を考えなかったのか?呆れたように溜息を吐いたガリオンに、シロンの不機嫌メーターの針がついに振り切れる。
「なんだよさっきから偉そうに!自分だって結局マックに会ってんじゃねーか!!」
「あ、あれは……!私の場合は不可抗力だ!マックの方から近づいて来たのだから仕方あるまい!おぬしらは自ら会いに行ったのだろうが!」
「そーゆーの、日本語の諺で「目くそ鼻くそを笑う」って言うんだぜ!つまりどっちも変わねぇって事だこのオカメインコ!」
「……て事は、この場合シロンが目くそで姐さんが鼻くそ?」
「姐さんに鼻くそはねぇだろ。シロンが鼻くそだよ」
「でもさ、鼻くそと目くそで、耳くそはどうなってんだろうな」
「差別はいかんよなー」
「そこのWニコル煩せぇ!!!!」
『はーいすいませーん』
2名は誠意の無い謝罪をした。
「ま、考える事と言ったらあれだよな。サーガ達の記憶を、戻す!」
びしぃ!とウォルフィは人差し指上げて高らかに宣言したのだが、賛同しなければならない4大レジェンズの面々は黙りこくったままだ。
「……おい、何だよこの反応」
人差し指を戻したウォルフィが言う。
「俺だって自分が此処に居ていいのか、正直解らねぇよ。でも、もう会う会わないじゃなくて、会っちまったんだから腹括るしかないだろ!?思い出してもらって、また前みたいに……!」
「……俺だって、出来れば思い出してもらいてーよ」
低く、グリードーは呟いた。
「なら!」
「けどな、そうさせようとして、特に何かをする気にはなれねぇ」
きっぱりと、この意思は変えないと頑なにグリードーが言った。他の3名もそれに同意するような表情を見せた。
「……なんでだよ。お前らが何かアクション起こせば、坊ちゃん達だって思い出すかもしれないだろ?」
「……思い出していいものばかりでもない」
ぽつ、と言ったのはガリオンだった。
「我らに関する思い出なぞ、所詮は戦いの記憶だ。傷つけて傷つけられて----」
「……それに、記憶が無くても、あいつらはあいつらだ。説明すりゃ解ってくれるだろうけど、そうしたら今度は思い出せないことを気に病む」
「メグが辛い顔するの、見たくない………」
「…………」
グリードーは沈痛な表情で下を向いている。
「馬鹿だね、アンタら」
ふいに横から声がした。肩肘ついて、アンナが心底あきれ果てたように言う。
「馬鹿だよ。サーガの為とか思ってるんだろうけど、思い出させようとして、思い出せなかった時が怖いだけじゃないか。馬鹿だ。大馬鹿さ」
「全くだな」
ウォルフィが続けるように言った。
「お前らあのバカでかい図体じゃなくなったせいで、弱気にでもなってんのか?情けないったらねぇよ。
おいリーオン、行くぜ」
お前らの顔なんか見たくねぇや、とばかりに立ち去ろうとしたウォルフィだが、
「え?何処に?」
リーオンは実に素朴に訊いた。
「……………」
そーいやここを出たら他に行く当てがないなー、と気づいたウォルフィは、踵を返してつかつかとリーオンに近寄り、頭を思いっきり殴った。
「いったー!!何で殴る!!!?」
「やかましい!八つ当たりくらいさせろ!!」
「ひ、酷ー!!」
またWニコルが騒ぎ始めたが、今度はシロンは止めなかった。
確かにアンナの言う通り、自分達は予想される最悪の結末から逃げている。やってないから、出来なかったと、逃げ道を作っている。
けれど、あの笑顔を曇らせたくないと思う事も愚かだろうか。
自分の横で、シュウは沢山笑っていた。
けれど、同じくらい泣いていた。
怖い、と、叫んで。
「……………」
あれを思い出させるくらいなら、いっそこのまま一から関係をやり直したほうが賢い……のだろうか。
あんな殺伐した存在じゃなければよかったのに、とシロンは思っても仕様の無い事を思っている。
そうでなければ出会えなかった事も棚に上げて。
そろそろ人の入る時間帯になったので、邪魔しちゃ悪いから、とみんなは一旦外へとぞろぞろと赴いた。
「……ま、とりあえず。俺らが知り合いだってのは、秘密にしといた方がいいだろうな」
「そうだな……」
シロンの言葉に、グリードーが頷く。
そして曲がり角を曲がった時、
「あ!でかっちょ!!」
「グリードー!それにウォルフィとリーオン!」
「ズオウ!奇遇ね!!」
「ガリオンさん、こんばんわなんだな」
『…………………』
途端サーガ達全員に出くわし、全員凝固する。
「……お前ら、何してんの」
辛うじてシロンが問う。
「ん?学校の宿題で夏の星空調べてんの」
「……あぁ、そぉ………」
意識が何処か遠くに飛びそうになるのを必死に堪えながら、シロンは返事した。
「丁度いいや!こいつがさっき行ってたシロンな!」
「え?そうなのかい?あの横に居るのが僕の話してたグリードーだよ。それとウォルフィとリーオン」
「あら、あたしの言ってたズオウも其処に居るあの子よ」
「あの女の人がガリオンさんなんだな」
「うぉー、全員大集合じゃねぇか!ん?もしかして、お前ら知り合い?」
「……あぁまぁね、うん、そんな感じ……」
そんな訳で一発でバレた。
空の高い所で、ひゅうひゅうと風が騒ぐ。
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