:WN-Remember me
やっぱり、放っておけばよかったかもしれない、とウォルフィは少し、いや大分後悔し始めた。
あっちこっちに目移りしているようなリーオンに気づいてはいたが、まさかはぐれてしまうまでに気を取られたりしないだろう、と思った事がすでに間違いだった。一段と濃い人ごみに揉まれ、ちゃんとあいつは来ているだろうか、と後ろを振り向けば、見事なまでにその姿は居なかった。
そんな訳でウォルフィはリーオンを探している。
しかし、行き先は同じなのだから、さっさと行って待っている方が良かった。だいたい俺は人ごみは嫌いなんだよ、と険悪になっていく表情で、ウォルフィは思った。
けれど野放しにしていて、たちの悪いヤツらと問題でも起こしたら、ディーノの迷惑になる。だから探しに行くのだ、と誰かにいい訳するみたいに思ってウォルフィは人ごみを掻き分けた。
そうしていると、ドン、と大砲みたいな音が聴こえて、ウォルフィの顔がますます顰められる。
この雑踏の中で、目立つ色彩はしているものの、人一人を見つけるのは無理だろうか、とも思ったが、意外にあっさりとリーオンは見つかった。街頭の下で、行く場を無くしたみたいにぽつんと立っている。ぼんやりと上を見ていたリーオンが、自分に気づいてパっと顔を輝かせた。
「あ!ウーたん!良かったー、見つかって」
「俺がお前を見つけたんだろーがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
惚けた事を抜かすリーオンの頭に、ウォルフィの会心の一撃が決まる。いってぇー!と悶えるが知った事か。むしろもっと痛がればいい。
「すぐ殴るー」
「殴ったんじゃねぇ。チョップしたんだ」
「……屁理屈」
「何か言ったか?」
ぼそ、と呟かれた言葉に、再びチョップの姿勢を取れば、いえ、何でもありませんとリーオンは首と手を振った。
「ほら、さっさと行くぞ。俺らが最後かもしねーし」
「うん」
と、言ってリーオンは自分の手をがし、と掴んだ。
「…………」
あまりに自然な動作に、一瞬見逃しそうになったが。しかし。ウォルフィは繋がれた手と、リーオンの顔を交互に見た。リーオンは何がいけないのか、と不思議そうに首を傾げている。その表情を見たら、なんか気にしているのがバカバカしくなり、ウォルフィはなんでもない、とだけ言って、手を引いて歩き出そうとした。
だが。
「あ、」
と、リーオンが唐突な声を出す。
「どうした?」
サイフでもと落としたのか。そう、言おうとしたら。
ゴゥッ!とこの場から攫いだしてしまいそうなくらい、強い風がこの場に襲い掛かる。
「うわッ!なんだぁ!?」
酸素すら奪っていきそうな風に、ウォルフィは顔をガートしようと手を上げたが、片手は、リーオンと繋がれている手は動かなかった。リーオンがしっかり握っているからだ。
そういえば、こういう時にすぐ騒ぎそうなリーオンが、こんなに静かなのは何だか可笑しい。そして可笑しい事がもうひとつ。こんなに風が吹き荒れているのに、ちっとも息苦しくなかった。
やがて、風は去る。その威力は、騒ぎ出した周囲の反応で窺い知れる。
「……何だったんだ、今の風--------ッッ!?」
ほっと息をつく間もなく、ウォルフィは引っ張られ、倒れそうになった身体を必死に起した。引っ張っているのは、当然リーオンだ。手を繋いだ状態のまま、走り出したのだ。
「っ、お、おい!?何だ急に-----!!」
「いーから早く!とっととぼっちゃん達の所行くぞ!」
なんだ偉そうに!そもそもお前が逸れたのが悪ぃんだろうが!!そういう言葉は浮かんだけれど、それより確かめたい事がある。
リーオンがこんなに必死に、ディーノの所へと行く訳は、やっぱり。
「……おい、信じていいんだな?それ、信じてもいいんだな?」
願って、諦めて、また願って。それに終止符が着くと。
姿形は違っても、リーオンはトルネードだ。自分より、今の風の意味を感じ取ったに違いない。
「よく解らないけど、多分きっと間違いないと思う!」
「なんだ、そりゃぁ」
けれど、リーオンらしい言葉に、ウォルフィは苦笑を浮かべた。
早く皆と合流しよう。其処で、前の続きが待っている。
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