:Volcano-Remember me
花火を待つ人で賑わう中を、ディーノはグリードーと並んで歩いていた。途中、リーオンがはぐれてしまったので、ウォルフィはそれを探しに行ってしまった。そんな訳で、グリードーと2人きりだ。いや、こんな雑踏のなかで2人きり、という表現は少し可笑しいかもしれないが。
「ウォルフィ、ちゃんとリーオンを見つけられるかな?」
沈黙が気になるディーノは、そう言った。
「まぁ、大丈夫なんじゃねぇか。それに見つからなくても、行き着く先は同じだしな」
「それもそうだね」
それなのに、ウォルフィはリーオンを探しに行ったのだ。それと思うと、ディーノの口元が綻ぶ。
「ディーノも逸れねぇように気をつけな」
「解ってるよ」
最も、ちょっと目を離してしまっても、ちょっと探せばすぐに見つかるだろう。何せグリードーは、平均身長より10センチくらい高い。
それなのに、何故だろうか。ディーノはそんなグリードーを少し小さい、と思う時がある。正確に言えば、もっと大きかったような気がするのだ。
こんな風に、感情と記憶が合致しない事が、しばしばある。グリードー達に出会う前からあったことだが、会ってからはかなり頻繁になった。そして強くなった。だから、ディーノはその封印されているような思い出の中には、グリードーに関する事が詰っているのだと思っている。だから、あるいはグリードーに直接訊けば、自分は袋小路の中から解放されるかもしれない。それなのにしないのは、怖いからだ。そうでなかった時が。
眠っている記憶の中にあるのが、グリードーでなかったらどうしよう。こんな風に不安になっている自分を、その記憶の中の自分が見たらどう思うだろう。とんだ杞憂をしていると、笑い転げるだろうか。その通りだと、頷くだろうか。
「しかし、すげぇ人だな、こりゃ」
ふいに頭上から声がかかった。グリードーだ。人ごみを見て、顔を顰めている。それはまるで初めて人の群れを見るような、知っていたけどこの中に混じるのは初めてのような、そんな不可思議な印象をディーノに与えた。
「花火が始まる前に、辿り着けるか?」
「出来ればシュウより早く着きたいね。いつも遅れるくせに、自分が間に合ったら鬼の首を取ったみたいに勝ち誇るんだよ、きっと」
「違いねぇな」
それが想像出来たのか、グリードーの返事には笑みが含まれている。
そんな事を話していたら、丁度その時に花火が上がった。始まっちゃったか、と顔を顰めながらも、その夜空に咲いた大輪の華を眺める。素直に綺麗だと、グリードーは思った。花火ってのはこんなに綺麗だったんだな、と。1週間くらい前からシュウが騒いでいたが、それが少し解るような気がした。
花火を見るのはこれで2度目だ。打ち上げられる花火は去年見た物と同じだ、と思う。けれどその時は綺麗だとか思ってはいなかった。潔いくらいにぱっと消えるその様を、自分とを照らし合わせて。まさかまた、こうして眺められるなんて露にも思っていなかった。
ディーノと並んで花火が見れた。それで満足しなければいけないとは思う。これ以上を望めば、今ある幸せが崩れてしまうかもしれない。
けれどやっぱり、問われてしまえば。
ディーノの記憶が、戻ればいいと、そう答えてしまうのだ。
「綺麗だね」
「あぁ」
考え事をしていたのを悟られたく無く、すぐに返事をしたが、何処か無愛想になってしまった。
しかしディーノは、グリードーは素っ気無い返事だが、それが嬉しい。
彼が横に居るだけで嬉しいのだ。自分は。
それがどうしてかは、説明が出来ないけど。
「………?」
花火の音に混じり、ひゅぅ、と微かな空気の摩擦音が聴こえたような気がした。それへ耳を澄ませる前に、強風が襲い掛かる。
「っ、」
それはあまりにも強い風で、息が詰る。このまま吹き飛ばされそうだ、と本気で思ったくらいだ。グリードーが腕を伸ばし、ディーノを抱き込むようにして吹く風の盾となった。
しばらくし、風は治まった。治まったというより、通り過ぎて行った。
「すげぇ風だったな。竜巻でも起きたか?」
周囲の人々も、グリードーと似たような事を言っている。
「…………」
そんな中、ディーノは黙り込んだままだ。グリードーの胸に頭を押し付けるようにし、そのままでいる。
「おいディーノ、どうした?」
目にゴミでも入ったのだろうか、と思っていたら。
トン、とディーノの拳が打ち付けられる。とても弱い力でだが、自分に打ち込んでいる。
「……ッ、グリードー……ッ、グリー……ドー………!グリードッ………!!!」
そして、途切れ途切れに自分を呼んだ。まるで嗚咽の合間で言っているように、途切れ途切れに。引き攣る喉を必死に動かして。
「……ディーノ……」
弱々しく叩き込まれた拳は、今は浴衣を掴んでいる。ぎゅぅ、と、間接が白くなるくらい。
グリードーは、そんなディーノの頭の上にぽん、と大きな手の平を乗せる。そして、こう言った。
「思いっきり泣けよ。俺はもう消えねぇんだ」
そう言えば、ディーノの身体が大きく震え、地面に涙が落ちた。
グリードーは泣き止むのを待ちながら、最初に言うべき言葉を、考えた。
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