:Tornado-Mr.&Mrs.matutani
今日、マツタニ家の主のサスケはいつもよりうんと早い時刻に帰宅出来た。が、息子の顔は拝めなかった。何故かとゆーと、友達と連れ立って花火を見に行っているのであった。
最近シュウは、大きい友達が出来たらしく(しかも一度に沢山)、顔を合わせた時に喋る内容は大抵がそれだった。おかげでサスケもヨウコも、まだ見ない相手の行動や人柄がある程度知れている。
しかし、話だけでしか知らない相手と一緒に行くと言って、いってらっしゃいで済ますのは少し無責任かと思われるかもしれない。
それでも、その相手が、信用するに値すると、確信するとかではなく、極々自然にそう思っていた。
まるで以前から知っていたみたいに。
それの気持ちが大きくなるにつれ、気になる事があった。今日はなんだかそれが解けそうな気がすると、サスケは本棚から一冊のアルバムを抜き出した。
キッチンに立って今日の片付けと明日の仕込を終え、居間に向かうと、サスケがソファで座っていた。考え込むような顔をしていて。
どうしたのかしら、と思いながら横に座ると、彼の見ていたのはアルバムだった。そのページには、幼馴染の女の子が撮った写真が載っていた。どうって事ない写真だ、と思う。シュウがこっちに向かい、Vサインを出しているだけの写真だ。ただ、その位置が中央よりやや左にずれているだけで。
「……どうかしたの?」
と、控えめに訊いてみると、サスケはその写真の、空いたスペースを指した。
「此処。何かあったような気がして」
「此処……?」
と、ヨウコも覗き込んだ。どんなに目を凝らしてみても、何も見えない。
「うん……何かあったんだ。今は無いけど、確かにあった」
「そう言えば……そんな気もしてきたわ」
顎に人差し指を添えて、ヨウコは遠いほうを眺めるように顔を上げた。そして、思い出してみる。
「何があったんだろう」
サスケが言う。
「確か……白くなかったかしら?」
「あぁ、うん。白かった」
「青くもあったわ」
「青かったね」
頷くサスケ。
「……小さかったっけ」
「大きかったような気もするわ」
「小さくて、大きい」
外で、ドン、と大きな音がした。花火が始まったのだ。
「名前……あったわね」
「あったね」
「凄くいい名前なのよ」
「僕もそう思うよ」
「えぇと……最初は、……シ。 シから始まって……」
「シ………シ、シロ………」
「シロ………」
そこで2人はは、と顔を上げ、お互いを見詰めて同時に言った。
『シロンさん!』
そのセリフと同時に、バン!と窓が全て開いた。其処から、勢いのある風が入り込み、サスケの膝の上にあるアルバムのページを、バタバタと捲っていく。部屋の中を一巡したような風は、入って来たと同様、突然に治まった。いや、また外に出たのだ。
あれだけ強い風だったのに、室内に荒れた様子は1つもなかった。
アルバムも、開いていたページに戻っている。
それに、2人は目を落とし。
ほらやっぱり、と顔を見合わせて微笑んだ。
写真の中、Vサインを突き出す息子の横に、ネズミ姿のシロンがあった。
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