:Tornado-Remember me,1
「花火だ!!!!」
と、出会った早々、シュウが言う。言うというか、声高らかに宣言した。
「明日花火だぞでかっちょー!!!!聞いてるか、おいー!!」
「聞いてるってんだようっせーな!!」
「年に一回の花火だぞ!これ見逃したら来年まで見れないんだかんな!!遅れたりすんなよ!!」
シロンの怒声にめげる事なく、それどころかシロンにしっかり釘を刺した。
「解ってるって、解ってるって。お前今からはしゃいでたら、当日体力無くなんぞ」
座ってる状態なのに、さっきから足がぶらぶらと前後に揺れて止まるという事をしない。
こいつって、そんなに花火が好きだったかなぁ、と前の記憶を穿り出して、そう言えばその付近は自分は姿を晦ませていたのを思い出した。
----あぁ、そう言えば。
あの時もこいつの為にと遠ざかり、結局は側に居る事にしたんだっけ。
割りと今と状況が似ている。
ただ違うのは、その先に最悪の結末が潜んでいるのを知っている事だ。
さすがに戦争を起こしたりはもうしないが……多分……こいつが苦しんで泣く可能性は捨てきれない。
あんな風に泣いて欲しくない。
こんなに、こんなに毎日、生きている喜びを身体全部で感じている子を、あんな風に泣かせたくない。それに自分は、自らの死以上の恐怖を感じている。
「でかっちょ!聞いてんのかよ!!」
「……え?……あ、悪ぃ、何だ?」
シュウは話を聞いていないシロンに少し腹を立てたが、すぐに謝ったのでよしとした。
「だから、明日浴衣の着付けしてやっから、3時オレん家集合な!!忘れんなよ!!!」
「………それ、何度も聞いたって」
怒る気力も無くし、シロンはげんなりした。
「いいぞぉー!花火は!ヒューっと上がってバーンてなってドババババーってもうすげぇんだからな!!!」
「はいはい……」
さぁこのテンション何処まで続くか。
自棄になったシロンは見守る事にした。
此処は北緯40度43分・西経74度1分の位置に存在するニューヨークなのだが、シュウの周辺のみちょっとジャパニスク。だって皆、浴衣に身を包んでいるのだから。
「なんか、ここまで集まると壮観だなぁー」
シロンはいっそ感心してしまった。
「ははは、シロンの浴衣姿、なんかビミョー!」
リーオンが膝を叩いてあっはっはと笑う。気の短いシロンは、当然ブチっとなる。
「なんだとぉ?お前なんかどこかに討ち入りするヤクザみたいじゃねーか!」
「何ぃ!?グリたんとウーたんを悪く言うなよ!」
『お前だぁ-------!!!』
着物を着崩す事無く、2人は綺麗にリーオンに回し蹴りを食らわせた。
「……つぅか、お前ら浴衣どーしたんだよ。買ったのか?」
「いや、ディーノのお袋さんが作ってくれたんだ」
あぁ、あの恰幅のいいオバさんね、とシロンは思った。改めて恩を感じているのか、目を綴じてじぃんとしているグリードーには突っ込みを入れないで。
「本当になぁ、こんなバカでかい身体してんのを、3つも」
ウォルフィもしみじみと言う。
「今日もお昼を頂いちゃったし」
「そしてまたお前は4回おかわりしてな」
「ウーたん、今は浴衣だから。着崩れしちゃうから」
「うん、だから組み手じゃなくて打撲系で行く」
ウォルフィの笑った目が据わっているので、リーオンが半泣きでぎゃふんとなった。
「また、改めて礼を言わねぇとな」
と、言ったのはグリードーだ。リーオンは後ろでウォルフィからクレイジーサイクロン(自ら高速で右回転し、自分の右手の平(手と手首の付け根の辺り)で、相手の胸を目掛けて殴りつける技。自分の右腕は左方向に捻る形で打ち当てる)を食らっていた。
「そんな、グリードー、お礼なんて僕からも言いたいよ。バラの世話とか一杯手伝って貰ってるし、キッチンの棚とかも直してもらって、とても助かってるんだ」
「ディーノ……」
そのセリフに、またグリードーはじぃん、となった。おいお前ら聞いてるか?と心の中でそっと呼びかけた2名は、ボディソバット(横回転して足の裏で相手の腹を蹴りつける技)やドラゴンウィップ(右足で蹴りを繰り出して相手がキャッチし、回避しようと横に振り回した反動を利用して、ニールキックを放つ技)をやったりやられたりしていた。
「メグの浴衣、可愛い!!」
そんな打撃音なんかこれっぽっちも気にしないで、ズオウがメグに賛辞を送る。
「ズオウも可愛いわー。でも、ズオウも浴衣着てくるなんて」
「えへへー、メグが着るっていうから、ガリオンにお願いしてお揃いにしてみた!」
てな訳でガリオンも浴衣な訳だ。ちなみに着付けは器用な彼女がしたらしい。ちゃんと形になっているのが、さすがと言うか。
「ガリオンの髪は黒いから、着物の色にとっても映えるんだな」
マックもにっこり笑ってガリオンにそう言う。
「そ、そうか?」
容姿を褒められてか、ガリオンが薄っすら頬を染めている。それを目撃したウォルフィとリーオンは一時戦闘を中断した。驚きのあまりに。
「うんうん、全員中々いいけど、でもやっぱり今年の浴衣オブザイヤーはこのオレ、シュウゾウ・マツタニだよな!」
ポーズを取ってキラリ☆と目を光らせるシュウ。
「あー、はいはい」
と、気の無い返事をしたのはシロンである。
「ポイントはこれな、この背中にある団扇!これが大事なんだよ〜。わかる?」
「おーい、アホな事言っててはぐれたら、馬鹿以下だぞオマエ」
ポーズを取ったまま人波に飲まれそうになったシュウを、シロンが慌てて腕を掴んだ。
「だんだん人が増えてきたんだな〜」
マックの言葉そのままに、花火の時間が近づくにつれ、人も多くなってきた。
「そうね。これじゃ記念写真も撮れないわ」
カメラをスタンバイしてたメグだが、巾着の中に戻した。
「これは全員で動くのはキツいかも……」
ディーノも流されないそうに踏ん張って言う。
「よし!んじゃ各自行動な!花火の時くらいに、秘密基地集合!って事で!!」
ぶんぶんと無意味にやたら手を振り、シュウが言う。それにはーい、わかりましたー、と返事をし、各自雑踏に飲まれて行った。
本当に、何処からこれだけ集まってきたんだ、というくらい、通りには人が溢れ返っていた。
「なぁ、何処に行くんだ?」
シュウは屋台には目もくれず、どんどんと進んでいく。
シロンの言葉に振り返り、何言ってんの、て顔で言った。
「秘密基地に決まってんじゃん。オレらが一番乗りしないでどーすんだよ!」
「いや、してもどーすんだよって感じだけど。
何か買わなくてもいいのか?ジュースとか」
「それなら秘密基地に置いてあるって!いーから行くの!早く!!」
「お、おい!」
ぐいぐいと腕を取られ、その位置が大分低いのでシロンは危うくこけそうになる。
「あぶねーって!……ホラ、手ぇ繋ぐから」
腕を鷲掴みにされてたら、バランス悪くて仕様が無い。小さな手を一旦離し、自分の手を差し伸べた。
「………」
シュウはその手を一回見て。
シロンにニカッと笑ってみせて、しっかり繋いだ。
そして。
「さー、行くぜシロンー!!!」
「だから走るなって言ってんだろーがぁッ!!」
しかし勢いのついたシュウは、もうどうにも止まらないのは解っているので、せめて足で蹴らないように、必死で距離を取るシロンだった。
そんな2人を追いかけるような風が、通りに走る。
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