その日街に風が吹いた



:Tornado-Don't cry




 今日、秘密基地に居るのは自分とシュウだけだった。他の皆は用があるらしい。それも、各パートナーと、だ。
 あぁもう、本当に自分達は何をしているんだ。記憶を刺激するような真似はしまいと、誓った側からなんだこりゃ。誰か仕組んでんのか。きっと今サーガに動向している仲間もそう悩んでいるに違いない。それを思うと、少し頭も軽くなったようなシロンだ。ぶっちゃけ現実逃避とも言う。
 そんな風に重い葛藤しているシロンとは対照的に、シュウは鼻歌を歌いながら紙に何かを書いている。また象形文字になり損ねたサインでも書き殴ってんだろうか、と何気に見てみたら、
「……お前、何だソレ」
「へ?これ?ねずっちょ」
 あっさりと言われ、思わずシロンはふざけんな、と怒鳴りたくなったが、自分がしたら可笑しいのでぐっと我慢した。
「……あー、その、街に薄く積もった雪を無理やり集めて作ったような雪玉2つを上下に並べたよーなのが、ねずっちょ?」
 今は違うが、かつての自分の姿だと思うと、何だか悲しくなってくる。
「ポスター作ってんだ。こうして一杯作って貼っておけば、誰か心当たりのある人が出るかもしれないだろ?」
 さも名案、と目を光らせる。そうして、紙の束をシロンの前にも置いて、
「て事だからお前も手伝えよな。がんばりたまえ!!」
「がんばりたまえって、俺実物知らねーよ」
「だったら、オレの見てかけばいいだろ」
「それを忠実に描いたら、ポスターとしての役割を果たせないと思うぜ。俺は」
「どーゆー意味だよ!!」
「超下手」
 ずばっと言ってしまえば、ムッカー!とシュウは顔を真っ赤にして怒った。ぎゃんぎゃん噛み付いてきたが、それを適当に流して。
「……居なくなったのって、もう1ヶ月前だろ。それで見つからないってんなら、どっかで飼われてたりしてんじゃねぇの?」
 だからもう気にするなよ、とシロンは暗に言ってみる。いくら探しても無駄なのだ。
 だってその「ねずっちょ」は、今こうして、目の前に座っているのだから。
「……うん、そーかもしれない。そーかもしんないけどさ……」
 何となく握ったままの用紙をぎゅ、と掴んだまま、やや俯いて呟く。
「でも、もしかしたらさ、迷ってるかもしんないじゃん。どっか遠くでさ、ひとりぼっちで、腹とか空かしてて……」
「………」
 言ってる内に、シュウの目に涙が浮かんできた。
「……オレが探しに来るの、待ってくるかもしんないじゃんか……!」
 言い終わった後、ついに目から涙が零れ、後から後から流れて来るのを、手の甲でごしごしと拭った。
「……馬鹿。目が傷つく」
「……うー……」
 手をゆっくりと外し、腕を巻き込んできつく抱き締めた。シャツが涙で濡れていくのが、解る。
 シロンの腕の中で、シュウが小さく嗚咽を漏らす。
「……ねずっちょが死んでたら、どーしよー………!!」
 我慢してた台詞なのか、それを言い終えた時に一段と大きな声で泣き始めた。この子供は気づいているのだろうか。そのネズミをそんなにも大事に想っているのが、どうしてか。
「……泣くなよ。泣くな」
 ぎこちない動きで、シュウの頭を優しく、何度も撫でる。
 泣かなくてもいいんだと、言ってやりたい。ねずっちょは此処に居る。死んでないから、泣かなくてもいいのだと。
「……ごめん」
 シュウの泣き声に混じり、シロンはこっそり謝罪した。
 ごめん。
 ごめん。
 本当の事、言えなくて、ごめん。
 辛い思いをさせて、ごめん……
 言ってしまおうか。
 言ってしまえば、こんな風に泣くような事は、無くなるだろうか……
「ごめん、」
 と、もう一度シロンは呟いた。
 泣かせない自信が無くて、ごめん。
 でも本当は、泣かしたくはないんだよ。
 笑っていて欲しいんだ。

 丸い窓から、風が優しく舞い込んだ。





実の所、最初に浮かんだ話はこれなんですね。
一発の短編〜と考えたんですが、これでは部長が泣いたままではないか!そりはいかん!って事で前後の話を考えて、シロンだけじゃなく皆も復活する事にしました。
だって復活するならシロンだけじゃなくて皆居た方が部長嬉しいじゃないですか。
シロンはシュウの幸せの為に居ればいい。略してシロシュウです。