「ざけんなテメェェェェェェェェェ-----------!!!!」
とかいうがなり声が聴こえたので、ダンボールを運んでいたグリードーは危うく荷物を落としそうになった。
「……何だ?」
とりあえずよっこいしょ、とダンボールは置く。
声がシロンなのは解る。と、いうかそれしか解らない。
グリードーが確認しに行く前、それがこっちにやって来た。
「わぁぁぁぁぁぁッ!会計委員---------!!」
「どぉッ!?部長?」
丁度身長差で鳩尾に当たったので、小さい子供と言えども当たればちょっと息が詰る。
走って(それはもう必死に)やって来たのはシュウで、その顔は豪快に泣きっ面になっている。
「助けてッ!オレ殺される〜〜〜〜!!」
「はぁ〜? おいおい鼻水付けるな。落ちにくいんだよ」
そうして、グリードーがどうした、と聞く前にまたしても原因が駆け込んできた。
「待てぃこのガキャ-------!!」
「ぎゃー来たーッツ!!」
シロンはシュウの首根っこを掴んで、シュウはグリードーの服を掴んで。
「やめろって!服が伸びるだろ!」
さっきから服の心配ばっかりのグリードーさんだ。
シロンはグリードーを睨んだ。
「オイ、離せよグリードー!俺はこいつに話があるんだ!!」
「無いよ〜!話す事なんか無いよ〜〜〜ッッ!!」
「あーもう、ちょっとお前落ち着け!あと離さなきゃならないのは俺じゃなくて部長だろ!」
「わっかんねーやつだな!!話すのは俺だっての!」
「話すと離すが違うだろ!わざとやってるのか!!」
「助けてー!たぁぁすぅぅけぇぇてぇぇぇぇッッ!!!」
「…………。 何がどーなってんだ」
1人出遅れたウォルフィは、混沌としている3人を前に、少し途方に暮れた。
で。
「部長とシロンは知り合いなのか」
「そうだよ」
「違うよ」
と、ウォルフィの問いに、2人全く同じタイミングで正反対の返事をした。
それにシロンはこめかみをヒクつかせて。
「お前なぁ……本当、いい加減にしろよ?」
「ひぃぃぃぃぃぃッ!!?」
ギロ、と小さい生き物くらい殺せそうな眼光に睨まれ、シュウは堪らずウォルフィの後ろに非難する。
シュウ(とりあえず名前解った)が自分を綺麗さっぱり忘れてるのも気に食わないし、それを疑いもしないのも気に食わないし、今ウォルフィの後ろについたのも気に食わないし、ようするに何もかもが気に食わなかった。
「へー、オレが病院行ってる間に随分劇的な事があったんだなー」
左手にギプスをしてもらったリーオンがとても呑気に言った。
「劇的というか破壊的というか……で、お前その手はどうだって?」
グリードーはリーオンに訊いた。
「あーうん、特に問題は無いって。凄く綺麗に折れてるってお医者さんに感心されたよ!」
「まぁ、俺が折ったからな」
そこは得意がるところなのだろうか。
「くっ付くのはどれくらいだ?」
「えーと、三ヶ月」
「なら、一ヶ月で付くな」
凄い会話だなぁ……とこの時ばかりはシロンは思った。思わずには居られなかった。
「これって労災かな?」
「やぁ、人災じゃね?」
「お汁粉に似たヤツ」
「そりゃぜんざいだろ」
「-----だぁー!ぜんざいもバンザイもバンバンジーもあるか-------!!」
それまくる会話に、ついにシロンがキレる。しかしリーオンはハテナマークを浮かべて。
「バンバンジー?」
「室町時代の海賊が使ってた武器で、ってそんな事はどうでもいい!」
「てかなんで知ってるんだよ」
「やかましい!」
がぁ!といらんツッコミをするウォルフィを一喝して、改めてシュウに向き直り(この時またシュウが悲鳴をあげる)。
「おい!テメェ!!」
「は、はい、なんでしょうか!」
「1年くらい前、会ったよな!?」
「ううん、知らない」
ゴズ。
あっさり返ったセリフに、シロンは机に轟沈する。
そしてむくりと起き上がり、怒気を孕んだ声で。
「……会ったよなぁ?……会ったよなぁぁぁ??」
はー、と拳に息を吹きかけ(よく見る光景だがなんの効果があるのだろう……)イエス以外言ったら殴るぞ、なシロンにシュウは再び泣け叫んでグリードーに縋りついた。
「だって、知らないものは知らないんだよ-------!!」
「せめて忘れたくらい言いやがれ!」
「うっそぉ、忘れる訳ねーもん、オマエみたいな怖い顔のオニーサン」
「俺はワイルド系なんだよ!怖い顔ってのは此処に居る3人の事だろーがふざけた事抜かすな!!」
一番ふざけてるのはオマエだよ、と3人は口元を引き攣らせて同時に思った。
「……そう言えば、」
それまで極力関わらないようにしていたディーノ(居た)が、ふと思い至ったかのように口を開いた。
「随分前だけど……何か、誰かに会った、みたいな事言ってなかったっけ?」
「えー?」
シュウは今は目の前のクッキーの方が大事だ。ぼりぼり食っている。それに気づいたディーノは一時シュウの前からクッキーをどける。
「そうだよ、確か男の人に会ったって僕らに言ったよ。いつも女の人の事ばっかり言ってるから、うん、確かに記憶にある」
ディーノのセリフに、シロンは胸を張る。
「ほれ見ろ。やっぱり俺が正しい」
「でもその人がシロンだと限らないんじゃない?」
シュウがぼりぼり食っていたクッキーは、今リーオンの前にあるのでぼりぼり食いながらリーオンが言う。それを見てウォルフィが食ったまま喋るな、と殴ってからクッキーを遠ざけた。するとシュウの前にやってきたので、シュウは当然ぼりぼり食う。
「ディーノ。部長は他に何か言ってなかったか?」
「うぅーん………」
と、ディーノは考え込む。その傍らでどうしてシュウの記憶に関する事を僕が必死に頭ひねって思いだなきゃならないんだ?とか思ったけど、そうでもしないと事態が収集しなさそうなので頑張ってみた。当のシュウはリーオンとクッキーの奪い合いしてるし。
「……はっきりとは覚えてないんだけど……確か格好いいとか綺麗だった、みたいな事だったと思うよ」
マイナスなイメージは無かった、とディーノは言う。
「…………」
格好いい……
綺麗……
……てへ。
「うわ、シロンが照れてる!!」
「今晩の夢見は最悪だな……!」
今は人の家だから、帰ってから殴ろうとシロンは思った。
「で、キミは何も思い出さないの?」
若干冷ややかに、ディーノはシュウを見た。しかし、本人は悪びれもせず。
「だからしつこいなー。オレはこんな人知らないの!知りません!」
「……ポンコツな機械は殴ると調子よくなるんだよな、グリードー……?」
「おい、落ち着け。拳を仕舞え」
滾るシロンを宥めるグリードー。それを見て、リーオンが言う。
「もーいいじゃんか。部長がシロンの事忘れてるからって、そんな怒る事ないだろ?」
「そうだぜ、シロン。誰もお前がうそつきだなんて思って居ないから。俺様で我侭で強引で自己中心で身勝手なヤツで時々死んでくれとは思うけど」
ウォルフィ、さっきの合わせて2発殴る、とシロンはカウントした。
「……そーゆー問題じゃねぇんだよ。そういう問題じゃ、」
ぽつり、とシロンが言う。
「じゃぁ、何なんだよ」
とグリードーは当たり前の質問をした。
「…………」
それにはシロンは黙るしかなかった。
自分でそんな事言ったくせに、何が重要なのかがよく解らない。
覚えてるとか忘れてるとか、そういう事じゃなくて、でもやっぱり問題は其処なんだろうけども。うーん。
と、考え深けているシロンをほっといて、気づけば勝手に違う話題に移っていた。なんかもう、声を荒げるのも面倒くさくなって手元の温くなってしまった紅茶を一気に飲み干した。
カップを戻した時、シュウとふいに目が合ったが、解る程に慌てて目を逸らされた。
「…………」
どういう問題なのか、何が重要なのかは解らない。
けれど、今のこの状態が気に食わないのは、はっきりしていた。
<END>
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