「……あの、さ……ウーたん……」
声を出すのも、辛い。そんな感じの声でリーオンは圧し掛かってるウォルフィに言う。
「なんだよ」
「……なんだよ、じゃなくてさ……ちょっと、コレ、オレ的にヤバいんだけど……ッッ!!」
「そうか?」
「……だって………いつもこんな深く入れてなかったじゃんかぁ……!!」
「んー、久しぶりだから感覚忘れたかな」
「だからっ!そんな呑気に言ってないで………ッ!!痛いッ!痛いってば〜〜〜!!
てか、おとーさん!おとーさーん!!!!!」
助けを呼ぶように、というか本気で助けを求めて声を上げる。
「おやどうしたんだい、リーオン君」
それに応え、ブルーノがディスプレイの裏からひょっこり顔を出した。
「おやどーしたんだい、じゃなくて!まだ動き取れないんですかぁぁぁ〜〜〜〜?!!」
「だから、さっきから機械の調子がちょっと悪いって言ってるじゃねーかよ」
「だったら力緩めてよ!」
「それは出来ない」
「なんでー!!」
と、まぁそういう事で、ウォルフィとリーオンは格闘ゲームのソフト開発の為のキャプチャリングをされていた。真似事ではく、本当に掛けられてる訳だから、それなりのダメージはありリーオンは喚くのだ。聞いてもらえないけど。
「ウーたん技かけてる方だからいいんだろうけど、掛けられてる方は地味に確実に痛いんだよ!!!こンのウスラバカ!!!」
「……へぇ、そういう事、言う?」
「いだだだだだだあだだだだだ!!ミシっていったミシっていったぁぁぁぁ!!」
「あああ、リーオン君なるべく動かないで!!」
……何か間際らしい会話やらさりげに無茶なセリフが聴こえたなぁ、と薄い壁を隔てた別室にシロンは居た。グリードーに招かれる形で。
今から30分くらい前に此処を訪れ、雇い主であろう男性に、すいません情けない話ですがお給料の前借させてくださいそれの担保にコイツ(シロン)の労働力を提供しますから、と3人は頭を下げて、シロンは3人に無理やり頭を下げさせられた。
そして、ウォルフィとリーオンは早速仕事に取り掛かり、シロンは此処で会社の方針やら仕事内容やらざっと教えて貰っている訳だ。
「……てか、お前らおもちゃ屋なんかに勤めてたんだな」
「そうだ」
「可愛い着ぐるみの中身がむさいオッサンだったみたいな気分だ」
「どーゆー意味だ。ってまぁ、そのままだろうが………
と、言うか、今まで気づかなかったのか?別に隠してた訳じゃないんだが」
「ごめんだけど、俺自分に興味無い事は頭を素通りするんだ」
「……それは本当にごめんだな……」
ホワイトボードは当たったら痛いかな?とグリードーはふと思う。
「でー?俺は何をしたらいいんですか」
耳を穿りながらの態度に、かつてこいつにも学生だった時代があったのだろうか、と疑問に感じた。
「そうだな。まぁ色々あるが、とりあえず………」
ボギン!!
「あ゛ぎゃ-----------ッッ!!!!」
「あ、ごめん」
「………とりあえず、骨折したリーオンの代理だ」
「………了解」
いってー!と叫ぶ声が、昼の日差しに照らされる。
「さて、ひと段落した事だし、続き行こうか!」
と、ブルーノは言った。ここでのひと段落とは救急車がやって来てリーオンが運ばれた事を言う。
「……なんか、壮絶だなぁ、あのおじさん……」
「おじさん言うんじゃねぇ。雇い主だぞ」
「だってよぉ、怪我人が出たってのに、普通に続きって」
「まぁー、これが初めてじゃねーしなぁー。骨折るくらい、それこそ普通?」
「……あ、そぉ」
これ以上話題を掘り下げるのが嫌になったので、シロンは早々切り上げた。
「それで、何だよコレ」
と、シロンは改めて手渡されたものをまじまじと見た。なんか、木の棒に綿が巻かれてそれからその上に布を巻きつけている。
「剣の代わりだよ。それ使うキャラ用も居るからな」
「さっき関節技キメてたじゃねーの」
「あれはあれで取れたって」
そうか。なら、まんざらリーオンの怪我も無駄ではない……のかな?
「で、どう動けばいいんだ?」
「あぁ、適当でいい。全部受けれるからよ」
「なんだー?いい加減だな。怪我しても知らねーぜ?」
「素人の太刀捌きじゃ、俺にかすり傷だって負わせねぇよ」
そのセリフに(無駄に)プライドの高いシロンはカチンと来た。
「言ってくれるじゃねぇか。大怪我ぶっこいても文句言うんじゃねーぞ」
「いらねぇ見栄は恥かくだけだぜ、シロン」
トントン、と剣(仮)で肩を叩いて余裕を見せるウォルフィ。
「……………」
す、と剣(仮)構えるシロン。ウォルフィも体勢を立て直した。とてもゲーム開発の一環作業とは思えない緊迫した空気の中、2人の足が大地を蹴る。
そして。
「う〜らむ〜 ふ〜らむ〜♪」
と、いきなり降ってきた間抜けな歌声(?)に力全部持っていかられ、2人は見事にずべっしゃぁ!とこけた。
「おっ、今のこけっぷりいいねぇ、採用だ!」
「使うんですか」
「勿論!」
何処で、とは訊けなかったグリードーだった。
「……なっ、」
と、ようやくシロンは復活した。
「なんだ今の……!!近づきつつあるけど………!!」
そう、例の歌声は尚も続いてかつ、こちらへ近寄っている。
「あー、部長だ。部長」
苦笑いのような表情で、起き上がったウォルフィは頭をかいていた。
「部長?」
と、言われシロンの頭の中で恰幅のいいダブルノスーツ着た中年男性が葉巻をふかしているイメージが浮かんだが(古典的)、聴こえる声はどうみても子供の声だ。変声期も迎えてない、子供の。
何が部長かはさておき、どんなアホなガキがやって来たんだか、とそちらと向くと。
ふわり、と風が。
「…………」
風なんて極論かましてしまえば単に動いている空気でしかなくて、それにさっきのと今のとで何も違いは無いんだけど。
無いはずなんだけど。
この風は違う。
違うんだ。
探してたんだ。ずっと。
「…………」
ドッドッド、とベース音みたいな鼓動が耳に響く。確信している癖に何を今更緊張するのか。
この風はあの子供から吹いている、と。
ちょんまげ頭に趣味のよく解らないTシャツ。
その双眸はとても澄んでいて、笑顔はどこまでも優しくて眩しくて-----
あぁ、やっぱり。
こいつだ。
目の前で止まった子供を見て、シロンは思う。
「……よぉ、また会ったな」
向き合って、シロンが子供を見ているのだから、当然子供だってシロンを見ている。最初にシロンの気を引いた、大きな眼で姿を受け止めて。
シロンのセリフを聞いて、目をぱちくりさせる。子供の口が微かに動いて、自分に話し掛ける気なのだ、と解った。
そうして子供はシロンに言う。
「あんた、誰?」
シロンはずがしゃー!!とずっこけた。
「おお、今のもいいねぇ」
「やっぱり使う気ですか」
「当然!」
またしても何処で、とは訊けないグリードーだった。
<END>
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