ふと周りを見渡して、リーオンを探している事に気づいて苦笑する。これでは自分に引っ付いてくるリーオンにとやかく言えないではないか。
 などと思っていたすぐ傍から、リーオンが何処からか自分を呼びながら走って来た。
「ウーたーん!」
「だからその呼び方……ってまた妙な格好だなオイ」
 いつものやり取りを中断し、ウォルフィは目を見開いた。いつものリーオンは、タンクトップにズボン、とあっさりした格好なのだが。
 リーオンはえへへ、と顔を綻ばせて。
「おかーさんに着物着せて貰っちゃった」
 白を基調に、朱色の線が川の流れみたいに描かれている。そんな浴衣を着ていた。
「今日の花火大会に、ってさ」
「へー、お前ちゃんと礼言ったか?」
「言ったよー」
 子供扱いしないでよ、と少し剥れる。
「ま、ぼっちゃん達と楽しんで来いよ」
 あやす様にぽんぽん、と頭を叩いたが、リーオンの機嫌は回復しない。それどころか、表情がさっきより曇っている。
「オレ、ウーたんと行きたい」
「んな事言われても……俺とだったら、屋台とか回れねぇぞ?」
 人間の姿になったリーオンと違って、自分はレジェンズのままなのだから。それでも外に行けない事はないが、あまり人目につくような場所へは行けない。
 でも、リーオンは。
「いーもん。ウーたんと一緒がいいの!」
 絶対に譲らない、とウォルフィにひし、と抱きついた。
「……ったく」
 困ったように笑みを漏らし、回りに人が居ないのを確かめてから、ウォルフィはリーオンの腰に手を回した。片方で髪を撫でる。優しく、愛しく。その手の感触に、リーオンがほにゃ、と顔を崩す。
「てかさ、その格好でこのバンダナは合わないと思うけど?」
「そう?」
「そうだって」
 リーオンは相変わらず、青と黄色の稲妻柄のバンダナを、上瞼にかかるくらい巻いていた。派手なその柄は、風流なこの服には合わない。
「解くぞ」
「うん」
 リーオンが返事をすると同時に、すでにバンダナに手をかけていた。軽く引っ張ると、しゅるり、と解ける。頭を巻いていると同時に、後ろの髪を結んでもいたので、その髪がばさりと肩に落ちた。
「へぇー……」
 と、思わず声が零れた。情事の最中、横にする時は解いていたが、こうしてまじまじと見たのは初めてのような気がする。
 眉毛があるお前って、何か新鮮だな。そう言おうとしたのだが、その前にすでにリーオンは顔を真っ赤に染めていた。
「どうした?」
 と、聞くとリーオンは自分の胸元でもじもじと身じろぎして、
「ぅ〜……なんかバンダナ無いのって、裸見られてるみたいで恥ずかしい〜〜……」
 そのセリフに、ウォルフィはぶはっと噴出した。
「裸の方が倍以上見られてんじゃねーかよ」
「そうだけど〜」
 バンダナ返して、と手を伸ばしたが、ウォルフィはその手を避けた。
「何すんだよ」
 手を伸ばす、避けられる、と2,3回繰り返したら、リーオンがむぅ、となった。
「折角だから、もーちょっと見ておこうかな、と」
「折角って……別に、見たいんなら、いつでも見せるってば」
「じゃ、今見たい」
 しれっとそう言ってやると、ウーたん我侭、と頬を紅潮させて言う。やっぱり恥ずかしいんだ、と口元が緩む。視線を下に下げると、少し動いたせいか胸元が肌蹴て胸の谷間が見えた。
 って、谷間?
「おいリーオン、ちゃんと下着つけてるか?」
「えっ?つ、つけてるけど?」
 その反応を見て解った。つけてないな、と。
「……お前な。あれ程、あれっ程毎回毎回ちゃんとつけろって、」
 じとっと睨んで言う。
「だ、だって身体にぴたって着いてるのってなんか変な感じだし〜」
「だからってなぁ、いつもならともかく、これじゃ風が吹いただけで……何だ下も着てないのかよ」
「わっ!」
 着物の合わせ目からするり、とウォルフィの手が入り込んだ。内股の柔らかい所に触れられ、身体がビクンと撓る。
「ちょ、あんま触らないでって!」
 足を撫でられているだけだが、ゾクゾクとした疼きが沸き起こってきた。足の間がぬるっとしたのを感じると、自覚したせいかどんどん溢れてきた。
「……だ……だめぇー………っ!」
 力の抜けそうになる身体で、必死にウォルフィに縋りつく。最も、ウォルフィがしっかり腰を抱いているから、リーオンがしがみ付かなくてもその場に崩れるような事にはならないだろうけど。
「嫌か?」
 そう尋ねると、ふるふると首を振った。
「違……着物が汚れちゃうから」
 今の所、ウィルフィの手で止められているが、それの許容を超えるまで出てしまうのは、今までからで解ってる。いつもは気にしないが、こういう時はなんでこんなに溢れちゃうんだろう、と思わずには居られない。
「それもそうだな」
 と、ウォルフィはとりあえずその場に、リーオンと一緒に座り込んだ。上手い具合に日陰でもあったし。
「ほら、跨げって。んで、裾後ろに回して。あー、着物崩さない程度にな。着せ方わからねーし」
「うん……」
 ごそごそと、言われた通りの体制を取る。そうすると前がすっかり開いてしまい、熱く疼く箇所が完全に曝け出されている。足を開いているせいで、襞も広がっていて外気が内部にまで入ってくるみたいで、リーオンが身震いをした。それと同時に、つぃ、と足に透明な液が伝う。あ、と小さく声を上げてリーオンが慌てて、ウォルフィが拭った。その手をそのまま、濡れた局部へ持って行く。
「あっ!ぁ!……んんんーッ!」
 手を動かす度に、それに合わせてリーオンの身体が引き攣る。
「はぁっ……ウ、ウーたんっ、……早く、挿れてよ……っ!」
 くちゅくちゅとした水音がはっきり聞き取れる頃になった時、リーオンがそう言う。
「何急がせてんだよ。そんなに欲しいか?」
 それもあるけど、このまま前戯が続くと着物を汚してしまうくらいに溢れてしまいそうで。それなのに、そうなったらダメだ、と思うとなんだか余計に溢れてくる。なのでこの場はさっくり済ませて欲しいのだ。
「……早くー………」
 意図して強請ってみると、ウォルフィが自分の腰を掴んで移動させる。入って来る時の圧迫感を思い出し、中がきゅぅ、と締まる。
 ぬる、と固くて熱いウォルフィの先端が潜る。
「ふぁ……っ」
 はふ、と息を軽く吐き出し、無意識にリーオンは受け入れる準備をした。なのに、先端が潜ったと思えば、それ以上入って来ず、す、と離れていく。
「ぇ、な、何……あ、あぅっん!」
 また意地悪して挿れないつもりなのか、と思えばそうでもなく、つぷり、と襞を掻き分けてウォルフィが埋まる。けれど、全部ではなく、先端部だけが抜き差しされる。
「あ、ぁ……や、やだぁっ……!」
 中を満たされる感覚が来なくて、リーオンはとてもじれったい。これじゃイけない、と思っていたら、す、とウォルフィの手が伸びてきて、刺激で膨らんだ粒を摘むように弄る。途端、強い快感がリーオンを襲う。
「ひぁっ!!あぁぁぁ-------ッッ!」
 緩い痺れが背筋を伝い、ウォルフィを浅く加えている入り口が伸縮を繰り返す。溢れた熱い液は、半分以上外にあるウォルフィに伝う。その感覚に、ウォルフィが息を詰らせた。
「……ぁ……ぅ………」
 凄く中途半端に達したせいか、いつもみたいな虚脱感に見舞われない。もやもやしたものが中に溜まったままだ。酷くもどかしい。
「ウーた……っン、あッ!」
 何か言う前に、ウォルフィがまた揺さぶりだす。けれど、やっぱり先端だけで。
 リーオンが快感の名残を引きずった顔を、泣きそうに歪めた。
「や……やだぁ〜〜〜っ!先っぽだけじゃなくて、全部挿れてよぉーッ!」
 緩く揺さぶられながら、リーオンが言う。自分で動こうにも、ウォルフィががっちり掴んでいるせいでそうもいかないのだ。
「……もーっ、ウーたんが変に焦らすから、この辺もうぐしょぐしょじゃんかーっ」
 繋がっている所に手を添えて、リーオンが困ったように訴える。それはその通りで、ウォルフィのズボンにも、目立つ大きな染みが出来ていた。
「着物が、汚れちゃうー……」
「平気だって。俺がちゃんと持ってるから」
 不意に、ウォルフィがククッと喉だけで笑って、
「汚しちゃだめだ、って思うと、余計に濡れるか?」
 そのセリフは否定しないで、リーオンは顔を真っ赤に染め上げた。事実は打ち消せない。ウォルフィが埋まっている付近は、水でも掛けたかみたいに濡れそぼっている。
「濡れてるって解ってんなら、奥まで挿れてよ。中がまだうずうずしてんの……ウーたんので擦って」
 くすん、と小さく鼻を鳴らす。
 元々こういった事は包み隠したりしないで、明け透けなリーオンだが、今日は特に顕著だ。無防備で淫乱なセリフを聞かされて、ウォルフィも堪えるのが厳しくなってきた。
「……そこまではっきり強請られたら、跳ね除けるのも難しいなー」
 掴んでいるリーオンの腰を、ゆっくり下に降ろしていく。今更のようにゆっくりと。先の太い部分を飲み込んでしまえば、後は惰性でそのまま入って行ってしまいそうだ。
「ぁ、あ……あぁぁー……んっ…………」
 じりじりと中に埋まって行くに合わせて、リーオンからか細い嬌声が上がる。
「んぁ……おっき………気持ちいーよぉ……」
「ホントに気持ち良さそうだな、お前」
 小さく笑って、首筋に顔を埋める。跡はつけないで、ただ丹念に舐め上げた。
 全部を埋め込んで、リーオンの身体がくっ付く。そうして、ぎりぎりまで今度は一気に勢いよく引き抜くと、ひぃ、と甘い悲鳴が聞こえた。
「きゃんっ!はぅっ、ひ、ひぁッ!あぁぁぁッ!」
 最奥を突く度に、リーオンが達しているような気がする。それほどにまで感じ入っている。
「あぅ、ぁ……ど、しよ、止まらないよ、ウーたぁん……」
 抜き差しされる度に、水音が大きくなっている。それはつまり、中から溢れてくる量が増えてるという事だ。解ってるが、意識して抑える事が出来る筈も無い。
「大丈夫だ。着物は汚れてねーよ」
「ふゃぁ……はん………っ」
 息が上がってきた中で、ウォルフィがそう言ってやると、リーオンは安心したようだった。緊張していたのが解けるのが密着した身体越しに伝う。
 どのくらいそうしていたか、リーオンが口を開いた。
「……んね、ウーたん……胸触ってぇ………」
 背中を撓らせ、胸をウォルフィに強調させる。
「いや、それはお前」
 そんな風に誘われて、ウォルフィも困ってしまう。そりゃ、自分だって触りたい。弾力があって、でも柔らかくて張りのある胸を揉みしだいて感触を楽しみ、先端を弄ってリーオンを乱してやりたい。さっきから思っているが、そんな事をすれば浴衣が肌蹴てしまう。リーオンだって気にしていた筈なのだが。
「お願いってば……布が擦って、変な感じなの……」
「……っ、」
 蕩けきったリーオンの顔は凶器だ。などとウォルフィは思った。
 少しくらいなら、とウォルフィは浴衣の合わせ目に鼻先を潜り込ます。布をかき分けた先に、甘い香りのするしっとりとした肌があった。舌を伸ばして、舐める。乾いた犬が喉を潤すみたいに、何度も何度も舌で拭った。
「んんっ……ちがう……其処じゃなくって、」
 ウォルフィは胸の真ん中から、膨らみ始めた所に舌を這わせている。けれど、リーオンが欲しいのは其処じゃないのだ。さっきからの快感に、つんと尖っている先端を舐って欲しい。それはウォルフィも解ってる。しかし、着崩れてしまうという事がウォルフィを躊躇わせる。しかしリーオンは期待を込めた目で見つめている。しょうがねぇな、と誰かにいい訳するみたいに、ウォルフィはさらに顔を潜らせて、綺麗に色づいている先端を口に含む。
「あっ……んっ……ウーたんの舌、気持ちいい………」
 顔は見れないが、リーオンが悦んでいるのは解る。
 没頭してしまいそうになる中で、汚してはいけないと、それだけは頭に止めておいた。


 そんな風にウォルフィが努力した甲斐あってか、浴衣はどうにか無事だった。どうにか。
 しかし、終わってみたら、着崩れている所か、殆ど脱げているに等しい状態だった。仕方ないので、再びメリッサに着せて貰うよう、2人は頼みに行く事にした。とりあえず、シャワーを浴びて、いつもの服に着替えて。
「……ねぇ、ウーたん。オレだけでいいって」
 ちょっと顔を赤くして、リーオンが言う。自分だけが勝手に乱れて、浴衣の事が頭から消えてしまっていた。それでこの結果だ。ウォルフィはちゃんと気にしてくれていたので、巻き込むようで心苦しい。
「オレが勝手にはしゃいでた事にすればさー……」
「バカ。お前だけに押し付けるようなまねできるか」
 ちょっとムスっとしているのは、照れているからだ。ウォルフィも、自分の想像より浴衣が崩れていたのを気にしているようだ。
 そして2人は、控えめにノックをし、メリッサのいる部屋へと入っていった。
「おや、どうしたんだい?」
 何かの雑誌を見ていたメリッサが、2人に気づいた。
「それが、その……、俺がちょっとふざけ過ぎちゃって、帯を強く引っ張ちゃったせいで、着物が崩れちゃったんです。……すいませんが、もう一回着させてやってください」
「ごめんなさい」
 嘘の事情を話し、ぺこり、と2人揃って頭を下げると、メリッサの笑い声がした。
「深刻な顔してるからなんだと思えば、そんな事かい!いいよ、気にしなさんな」
 ほら、こっち来な、とリーオンを手招きする。
 自分は退室した方がいいのかな、とウォルフィが考えて居ると、
「ちょいと、ウォルフィ!」
 メリッサに呼ばれた。
「アンタに着付け教えておくよ。その方がいいだろ?」
「あ、はい、そうッスね…………って、えっ?へっ?」
 あっさり言われたセリフを、一旦は表面的にだけとってしまったが。
 今のって、もしかして。
(……バ、バレてる?)
 別に解ってしまった所で、特に不都合はないんだが、それでもやっぱり隠しているものを言い当てられると、焦る。痕はつけてないんだが、やっぱり雰囲気とかで解ってしまうんだろうか。
 リーオンは気づきもしないで、困惑している自分を不思議そうに見ている。メリッサはただ笑っているだけだ。
 まぁ、この問題はひとまず置いといて、今は着付けを覚える事に専念しよう。
 そして、それは早速今夜活用する事になった。



****