ただいま、と帰ってみれば、丁度リーオンが電話を終えた時だった。
「誰?」
「グリたん。今日、帰れないってさ」
「あー、やっぱり」
訊いて、苦笑のような表情になる。この前スパークス邸に行った時、ブルーノの姿が無かったのを思い出す。いよいよ大詰めで部屋に篭りきっているのだろう。
グリードーには正直その手の技術は、手助けになる程ではない。彼の仕事は脇目振らずに打ち込むブルーノの日常生活習慣の斡旋(「食事の時間ですよ」「風呂に入りましょう」「たまには日を浴びないと」等)、半分自分の趣味で温室の薔薇の世話をディーノと共にしている。
「なんかもう、あいつ半分あっちに住んでるよーなもんだなぁ」
「だねぇ」
もぎゅもぎゅとポップコーンを食べながら言う。さっきごそごそしてたのはそれを作ってたのか、とウォルフィは思うった。
「あのまま住んじまえばいいのにね」
「あー、それこの前言ったら、何か適当に流された」
「なんで」
「居候ってのが情けなくて嫌なんじゃねーの?」
「でもさ、今でも十分それだと思う」
「俺もそう思う」
うんうん、と頷くウォルフィだ。
「なぁ、リーオン」
「なぁにー?ウーたん」
「ウーたんじゃねっての。
で、だ」
うん、とリーオンは頷いたりポップコーン食べたり忙しい。
「お前もついでに上がりこんじまえば?そうしたら、グリードーもお前の面倒見って体の言い訳出来るじゃん?」
スパークス家の人々に、グリードーは頼られている感じだが、リーオンは可愛がられている感じだ。特にメリッサは、その食いっぷりを大いに気に入っているだろから、絶対歓迎してくれる。
ごくん、と口の中のものを飲み込んでから(そうしないと教育的指導(強パンチ)が飛んでくる)リーオンは言う。
「え、それじゃウーたんは?」
「さすがに3人行ったんじゃ迷惑だろ。俺はここでひとりで呑気にやってるさ」
「……………」
ウォルフィの顔をじっと見たリーオンは、次に天井を仰いで膝もとのポップコーンの箱に移り、手を入れて一掴みしたのを口に放りこんだ。
それから言う。
「じゃ、行かない」
それはとてもきっぱりした口調だった。
「ウーたんが行かないなら、オレは行かないよ」
「は? どうして」
「だって、ウーたんはオレが居ないとだめだから」
「…………はぁぁぁぁあああああ?」
最初、聞き間違いかと思ったが、どうもそうではないらしい。
「ちょっと、待て。それ言うなら逆だろ?」
「ウーたんがそれでいいなら、それでもいいよ」
「何だその上からの意見」
「とにかく、オレはウーたんをひとりにさせなくないの」
解った?というような口調で言われ、なんだが自分が聞き分けの無い子供みたいに思える。
「それ違うだろ?単にお前が俺と一緒に居たいだけって事なんじゃねーの?」
「だから、それでもいいって言ってるじゃん」
「偉そうな物言いだなー、リーオンの癖に」
「癖に、って何だよ癖に、って!!!」
「あー、煩い煩い。ってお前ばっか食ってんじゃねーよ!」
「あぁっ!オレのポップコーン--------!!!」
ごそっと箱ごと持っていかれ、悲痛な声を上げる。大の大人がンな情けない声すんな!と突っ込んでから自分もがばっと口に入れて、
凝固。
「〜〜〜〜ッッッ!!!」
「貰いッ!」
ウォルフィが固まってる隙に、奪還。ウォルフィはそれを気にするでもなく、むしろそれどころじゃないって感じで冷蔵庫まで駆けて行き、ペリエを一気飲みした。
「………っ、っっ、」
ぜはーぜはーと荒く呼吸する後ろで、リーオンが幸せそうに食べている。それの後ろ頭を全力で引っぱたくのに、ウォルフィは何のためらいもなかった。
「何すんだよ!!!」
ずばしーん!と凄い音がしただけあって、リーオンは涙眼だ。叩いたこっちの手も痛いくらいだから無理も無いだろう。
「何食ってんだオマエ--------!!」
「え、ポップコーン」
「甘い!すげー甘かったぞそれ!?」
「だって、キャラメルで味付けたもん」
「歯が浮くかと思ったわ-----!!」
言って、その甘さを思い出したのか、うへぇと身悶える。美味しいのに、とむしゃもしゃと食べるリーオンにうっかり本気で殺意を抱いてしまったが。
口直しに自分もポップコーンを作って食べよう。ペッパーととガーリックをうんと効かせてだな。
しかし、それがある筈の戸棚を除いても、何も無く。
「………………」
背後からむしゃむしゃという音がする。
………こいつ、もしかして。
いや絶対。
全部。
「…………テメェェェェェ--------ッッ!!!」
パンチが炸裂するまであと5秒。
あぁもう本当に、こいつどっかに押し付けてしまおうか
そうは思ってみても、隣にこいつが居るイメージが消えてくれない
<おわり>
|