夜のピークは越ているのに朝の気配は見えない。そんな時間帯に、ぶらぶら外を歩く。
それ自体は、まぁ、そんなに特異な事でもないだろうけど、それの理由が情けない。
なんでヤッたばっかの女と喧嘩するかな。
でもって、どうしてそいつの部屋に財布忘れるかな。
あー、と溜息にも声にもならないものが口から零れ、足元に落ちた。
しかも今日は相手の車で行ったので、こうして徒歩で戻らなければならない。車で10分足らずの道のりも、足で行けばかなりの距離になるものだ。
何か陽気な唄でも歌って、気分でも盛り上げようかと思ったが、何を唄ってもドナドナのメロディーになってしまうので早々に止めた。
ウォルフィの受難は続く。
(………鍵忘れてるぅ〜〜〜…………)
忘れたというか、持ってくるのを忘れたというか。ウォルフィの欲している鍵は、まさにそれで開く扉の向こう側にある。
仲間が中に居るから、ドアを叩けば出てくるだろうけど、とてもそんな事をする体力というか、気力は無かった。
いいや。どうせ後何時間で朝になるんだから。それまで待つよ。待てばいいんだろ、と誰に向けるでもなく喧嘩腰になる。
なんでこんな事になったんだっけ。座り込みを決めたウォルフィは、ふと思い返してみる。
いつも通りに、シた。で、その後確かずっと側に居てとかなんとか言われたような気がする。
それに自分は反射的にそれは出来ないとか言ったんだ。そうして拗れに拗れて、自分はここで朝を待つ羽目になった。
全く何をやってんだが。そんな事、適当に話合わせちゃえばよかったのに。
俺は何を意地になったんだ?
つらつらとそんな風に考えていた時だった。
ドアが開いたのは。
赤い。
バンダナの配色も派手だが、やっぱりまず目を引くのはその色彩だと思う。
「……………」
なんでこいつが今起きてくる?という事ばかりに気を取られ、声をかけるのをうっかり忘れているウォルフィを、きょろきょろと間抜けな仕種で辺りを見渡していたリーオンが見つける。
「あ、ウーたん」
「ウーたん止めぃ」
ツッコミを貰っても、へほにゃ〜と間抜けに笑うだけだった。今は寝起き……寝惚けているのでそれがいつもの3割り増しだ。
「やっぱりウーたんだ」
やっぱり?と首を捻る。
「何か物音がしたからさ、ウーたんかと思ったんだー」
……………
「リーオン………」
「ん?」
「俺は野良猫か何かか?あぁ?」
「いひゃいいひゃいいひゃいほぅ〜」
みぎゅむ〜と頬を抓る。
「ウーたん酷いぃ………」
べっそり、と泣きっ面になったリーオン。
「いーからとっとと寝るぞ」
「いーからって何。いーからって」
「いーんだよ」
なんか誤魔化されてる……とぶちぶち言うリーオンを、押し込めるように室内に入る。
「グリードーは?」
ラフな格好に着替えながら。
「寝てるよ。早番だから起こさないようにね」
「お前じゃるまいし」
「む。オレだってそんな事しないよ」
「この前テレビに合わせて馬鹿でかい声で歌って俺を起こしてくれたの、どこの誰だ?」
「うわー、ウーたん、ほらほらもうすぐ夜明けだよ!」
どこの誰は必死に話題を逸らそうとした。全くこいつは、と寝酒にブランデーをラッパ飲みした。そうしていると、後ろでリーオンが大きな欠伸をした。会話が途切れて、睡魔が襲ってきたのだろう。
「んじゃね、オレ寝るから」
文字通り、ベットに引寄せられるかのようにふらふらと歩く。
「……なぁ、」
と、その背中に声をかける。んあ?と眠気限界で惚けた顔したリーオンが振り向く。
「……訊かないのか?」
どうしてこんな時間に帰って来たのとか、何処に居たの、とか。
それに、んにー、て感じに首を傾け。
「訊く必要無いんじゃない?目の前にウーたんが居れば、それでいいよ」
「……………」
「てか今はそんなのどーでもいいくらい眠い」
「殴るぞ」
「……って、何でウーたんまでオレの所来るのー」
「あーもう自分のベットに行くのめんどい」
「たった数メートルじゃんか!今のウーたん酒臭いから嫌だ!」
「酒飲んで酒臭くなって何が悪いんだよ!お前もいい加減慣れとけ!」
「だあぁぁぁぁぁぁッ!!お前ら煩いぞ--------!!!」
「ぎゃー!グリたんキタ--------!!」
「と、とりあえず空瓶置こうぜ、グリードー?なっ?」
あぁそうだ
俺は此処に帰って来なくちゃならないんだ
此処に
<END>
|