おーぷんざはーと





 ソファに座りながら、なんだか久しぶりに顔を見れたような父親は、何かをかちゃこちゃと直しているのか分解しているのか。
「父さん、それ、何?」
 好奇心の塊そのものののシュウは、当然訊いた。
「ん?これかい?」
 と、サスケが見せてくれたものは、ハートの形をしたコンパクトのようなもので、それに小型のマイクがくっ付いていた。
「これはね、人の本心が解るオモチャなんだよ」
「あー、なんか見た事あるなぁ」
 という息子にサスケはぱたぱたと手を振って。
「それよりももっとグレードアップしたもので、正真正銘、人の本音が解るんだ。
 このマイクに向かって何か喋ってもらうだろ?すると、ここのディスプレイにその人が本当に言いたかった事が出るんだ」
「へー、凄いなー。でも此処にあるって事は失敗したの?」
 はっきり言ってくれたシュウに、サスケはそうなんだよ〜と泣き笑いに顔を崩して言う。
「どうも個人差が酷いようでね、出る人は出るんだけど、出ない人は全く出ないんだ」
「本音が解った人って、居たの?」
「いや、それが、まだ」
「やっぱり、失敗なんじゃない?」
「失敗かなぁ」
 実にのんびりした会話だ。
 シュウが試しに「あーあー、本日は晴天なり。シュウゾウ・マツタニ世界一!」とか吹き込んで見たら「ナマムギナマゴメナマタマゴ」と出た。本音が出る出ない以前の問題である。
 しばしその機械と戯れて、ぽんととある顔が思い浮かんだ。
「父さん!これすこし借りていい?」
「あぁ、いいよ」
「それと、ちょっと遊びに行ってきまーす!!」
「いってらっしゃーい」
 のほほんとした挨拶を受け、シュウはキックボードで街に飛び出した。




 一体また何が始まったのだろう、とシロンは思った。
「突撃!隣のインタビュ〜!」
 とか色々混ざったようなセリフを吐きながら、突如秘密基地に現れたシュウは、そのままシロンの昼寝を妨げた。
 文句を言ってやろうとしたら、すぐにリボーンされ、ずぃ、と小さなマイクを向けられた。
「何の真似だ?」
 昼寝を邪魔されて自分はとっても不機嫌な顔をしているはずなのだが、目の前のシュウは臆する事無く自分のしたい事を確実にしていく。
「インタビューでっす!ずばり!シロンさんはシュウゾウくんの事をどー思っていますか!」
「はぁぁ?」
「だーかーらー!でかっちょはオレの事、どー思ってんのか、って訊いてんの!」
「いや、解らねぇのは其処じゃねぇよ」
「はい、答えどーぞ!」
「昼寝したいから帰れ」
「じゃあ答えて!」
 ずんずん、と小さいマイクが自分に接近する。
 これは。毎度の事だが、言う事をきかない限り引き下がらなさそうだ。
 あーぁ、このガキ本当に手がかかるぜ、って感じに溜息を、これ見よがしについてからシロンは言った。
「馬鹿で間抜けでアホタレで、ギャーギャー煩くて落ち着きの無いガキンチョ」
 そのセリフに、インタビュアースマイルだったシュウの顔にぴき、と亀裂が走る。
「なんだとでかっちょー!!もう一度………」
 言ってみやがれ、と続くはずのセリフが消えた。
 そっぽ向いていたシロンは気になり、シュウの方を向く。と、なにやらシュウは手の中にあるコンパクトを凝視している。
「……………」
「おい、風のサーガ?」
「…………」
 返答は無し。
 今度は強く言ってみる。
「おい!無視すんなよ!!」
 その声にはっとなり、シュウはシロンを向く。
 そして。
 ぼひ。とか音がしそうに顔を赤くした。
「???」
 いよいよ訳が解らない。そのリアクションに相当するような事を、自分はしたか?
 シュウは相変わらず意味不明な事をしているし。自分の顔とコンパクトを、交互に見比べている。
「……え、え、……… えぇぇぇぇぇぇ?」
「おい。ついに頭壊れたか?」
 と、シロンが覗き込むと。
「!!!!」
 高速で後ずさるシュウ。
「じゃ……じゃ、さいなら〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「あ!おいっ!!風のサーガ!!!」
 シロンが捕まえる隙を見せる事無く、シュウは文字通り消えるように居なくなった。
「本当に……一体なんだってんだ」
 疑問だけを詰め込んだシロンを残して。




 秘密基地から飛び出したシュウは、その速度を落とす事無く自宅へと舞い戻っていた。
「父さん!父さん父さん父さ-------ん!!!」
「父さんは此処だよ、シュウ〜」
 庭で水を撒いていたサスケは、戸口からひょっこり顔を出した。
「あ!父さん!」
 サスケの元へ駆け寄るやいなや、シュウは先ほどのオモチャをその手に押し付けるように返した。
「これ、ありがと!それとこれ本当に壊れてるから!ありえないくらい壊れてるから!!うん、絶対壊れてる!壊れてるぞー!!」
「え、あ、う、うん?」
 何となく、シュウの勢いに頷いてしまったサスケだ。
 息子はそのまま、自分の部屋へと駆け込んでしまった。
 どうしたんだろう?とサスケは首を捻る。
 と、ディスプレイにセリフらしきものが表示されていた。
「…………『愛シテイルヨ。コノ地球ノ誰ヨリモ』………誰のセリフだろう?」
 やっぱり失敗なのかな、と手の中のオモチャを見つめるサスケの頭上で、カムバックしてもらいに来たシロンが通り過ぎた。




<おわり>





わりかしほのぼのです。……何か物足りねぇ……!!
サスケとシュウの親子関係がサーガっ子の中でいっちゃん好きです。ヨウコさんもね。

シロンを見てはこいつ素直じゃねーとジタバタしますが、素直なシロンさんはとても気色悪いと思う。