「今日の差し入れ!シャーベット持ってきたの!!」
と、メグは意気揚々と言った。のだが。
「そりゃ、確かに持ってきたのはメグだろうけど〜」
「運んできたのは僕らなんだな……」
結構大きめサイズのクーラーボックスを秘密基地まで持ってきた2人は、少し疲れていた。ディーノはこっそり、学校が違ってよかったと、思ったとか思わなかったとか。
「てか、ねずっちょ!!お前も運ぶの手伝えよな!」
「ガガガ〜」
もう運んじまったんだから、言っても遅いんだよ、とてもいうようにすぃ〜と室内を飛んでいる。それを見て、シュウは悔しそうに足踏みした。
ちなみにランシーンと言えば、今日は秘密基地に篭りっぱなしだった。何か、気を引く文献を見つけたらしく、静かな所を求めて此処へやって来た。
「しかも!あたしの手作りなんだからね!心して味わいなさい!」
かぱり、と蓋を開けると、もや〜と白い湯気みたいなものが溢れかえる。ドライアイスの冷気だ。
「なんか、じーさんになりそうだよなー」
とかシュウが呟く。
中にはカップが人数分入っていた。
「あのね、これがストロベリー、これがマスカットで、これが……って、聞きなさ------い!!」
「マックー、後で半分交換しよー」
「うん。いいんだな」
メグの説明そこそこに、2人はすでに蓋を開けている。全くもう!とぷりぷり憤慨しながら、メグも取った。ディーノも。シロンなんかもう食べちゃって、誰かのお零れをもらえないかと皆の頭上をぱたぱた飛び回っている。
で、そんな中。
「あれ。メグー、一個残ってるぜ?」
アイスボックスを覗き込んで、シュウが言った。
「うそ。あたし、ちゃんと人数分持って来たもの」
「たぶん、それはランシーンの分なんだな」
と、マックが指摘する。それは事実で、ランシーンは部屋の片隅、というかテーブルの片隅で背中を向け、黙々と本を読んでいた。文庫サイズのそれは、わるっちょが読んでいると貸し出し禁止サイズの大辞典に見える。
「わるっちょ、わるっちょ」
ちょんちょん、と肩をつついて振り向かせる。
「食べないの?」
いえ、勿論頂きますよ。でも、今いい所なんで、一息つかせてからいただきます。きちんと保冷出来てますから、すぐに溶けはしませんよ、というのをグググ語でランシーンは言い、マックが同時通訳した。
「ふーん。何の本読んでるんだ?」
シュウが覗き込むと、ランシーンがちょっと身体をずらして中身を見せた。
そこには、シュウが今まで見た事の無い、というか縁すらない単語がずらりと並んでいた。
「………。ごめんなさい」
シュウは謹んで撤退した。
「…………」
シュウが退くと、ランシーンはまた本に読み耽った。
おんなじウィンドラゴンなのに、違うなぁ、とディーノのシャーベットを虎視眈々と狙っているシロンを見比べて思った。
「…………」
シュウはちょっと考え、徐にランシーンの分のシャーベットを取った。
そして。
ひやりとした冷たい空気に混じって、果物特有の爽快な甘い香りがする。
なんだ?と思えば、直ぐ横にスプーンで掬われたシャーベットがあった。その手を辿ってみれば、当たり前というか、シュウの顔が。
「………?」
欲しいのだろうか。なら、あげる事はやぶさかではない、と言おうとする前に。
「はいわるっちょ。あーん!」
「………。
……グッ!!!?」
「ガガッ!!!!?」
シュウの言葉に、2人が反応する。
「こうすれば、本読みながら食べれるだろ?やっぱ、こういうもんは早く食べなきゃだしな!
……で、ちょこっと貰っていい?」
やっぱり目的はそこか、とメグは溜息をついた。全部自分の物にしようとしないのは、シュウらしいと言えばそうだけど。
「ほら、早く食えよ」
ほい、とさらにスプーンを差し出す。
ランシーンは何度も、何度もスプーンとシュウの顔を往復した。忙しなく。
「…………」
覚悟を決めたのか、あーん、と口を開いて顔を近づける。
で。
ぱくん、と食べる。
「…………」
食べるというより、口の中で溶かす。頬が熱いせいか、とても冷たく感じられる。
「なんだか、朝出勤前に新聞を読み耽っている旦那さまに世話焼いている奥さんみたいなんだな」
マックが無邪気に言ってみた。シロンがピク、と反応する。
もごもご、と口を動かすランシーンに、シュウは尋ねる。
「な、美味い?何味?」
「……グググ」
パイナップルです、とランシーンは几帳面に答え、マックが几帳面に通訳した。
「ふーん、オレのはキウイだったんだ。あ、勿論美味かったよ。
ちょこっと、貰っていい?」
「……ググ」
はい、どうぞ。こっくり頷くのを見て、シュウは嬉々とスプーンを口に運ぶ。
「んじゃ、いただきまーす」
それを見て、シロンは思う。
ワル山の食ったのをシュウが口付ける。
これって間接キスなんじゃ。
「!!!!!」
それはさせてなるものか------!!とシロンは物凄い勢いで飛び、シュウの手をべしぃ!と叩いた。落ちるスプーン。よかった、危機は回避された……訳じゃなく。
「あ------------!!!」
すぐさま、シュウが抗議の声をあげる。まぁ当然なんだけど。
「何すんだよねずっちょ!!!おまえ、さっきディーノの分まで食っておいて(食べたらしい)まだ足りないってのか-----!!!」
「ガガ------!!!」
違-------う!!
「……って言ってるんだな」
「マック。あんたもいちいち通訳しなくていいから」
「じゃぁ何なんだよ!おまえ、最近訳解んねーぞ!!」
俺が訳解らないんじゃなくて、お前が物分りなさすぎるんだ------!!という魂の咆哮は心の中でだけ止めたので、マックに通訳はされなかった。
「最近?」
その単語が少し気になったディーノが訊いた。
「あぁ、うん。なんかこいつ、最近急に怒ったりどついたりしてさー。オレは何もしてないのに。わるっちょにも当たるんだぜ」
ふーん、と聞くディーノ。
「やっぱ複数居ると、ナワバリ意識とかするのかな?」
「うーん、僕の所はそうでもないけど……あぁ、でも最近、グリードーがやけにぐったりしている時があるかな」
その原因はさっき貴方のシャーベットを分捕ったヤツなんですよ、ぼっちゃん。
「あ、ボク、ちょっと理由が解ったような気がするんだな」
マックが不意に言い出す。
「えー、何?」
うん、とマックは一回頷き、
「きっと、シロンはシュウをランシーンさんに取られたみたいで、やきもち妬いているんだな」
…………
はいぃぃ!?とシロンは瞠目した。
ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとおい!お前通訳だけじゃなく心の中まで読むのかよー!!!
多分意味合いは違うのだろうけど、セリフだけ取ればほぼその通りのセリフに、シロンは悶絶した。
ばれるにしてももっとシチュエーションを選びたかった。何もこんな秘密基地でシャーベット食べてる時にだなんてー!!
うぉううぉうとじたばたしているシロンの後ろで、色々読書どころで無くなったのでもくもくとシャーベットを食べていた。うん、美味しい(若干現実逃避になっている所を見ると、やっぱりシロンの半身というか)。
「………へぇぇぇ〜〜〜〜」
表情が思う浮かべれそうなセリフに、シロンがギク、と肩を強張らせた。
振り向けば、やっぱりシュウが、とっても面白そうな顔でそこに居た。
「そーかそーか、ねずっちょ、そーだのかー」
違う!いや、あまり違わないかもしれないけど今は違う!!!!
シュウは勝手にうんうん頷きながら、
「そういやオレも、慣れないだろうからってわるっちょばかりに世話焼きすぎたかなー。
ごめんなー、ねずっちょ」
くそう、その絶対優位な笑顔は俺のもんだろーがぁぁぁぁぁぁぁ!!!
しかし今は何も言っても負け犬なんで、頭を沸騰させているしかない。
「よしよし。じゃぁ、今日はシュウゾウ兄さんにたっぷり甘えなさい。
ごはん食べさせててやってー、頬ずりしてちゅうしてやろうv」
え!?いいんですか!!?とか思わず敬語になっちゃったが、堪えろシロン。堪えるんだ。ここで堪えなければ、自分の何かが終わる!!ていうか確実にワル山に馬鹿にされる一生が待っている!!
「ガガガッ!ガッ!!ガガー!!ガガガ!!!」
何言ってんだよ馬鹿じゃねーか!?そんな訳ねーだろ!って感じにシロンはガガガと喚いた。
「何だよ、素直になれよ〜」
はい、と両手を広げられ、シロンは頭がくらっとした。あぁ、あの手の中に飛び込んで行けば、甘美な一時が……!!!
「………ググ、」
と、その時、後ろから甘えさせれ貰えばいいじゃないですか、と失笑を含んだ声がした。シャーベットを食べ終わったランシーンだった。
そのセリフに、シロンがは!!っと我に返る。
「…………」
「どーした、ねずっちょ〜。んん?照れてるのかな〜?」
にしし、とか笑いながら、自分の方から寄っていく。
が。
「あ、」
という声がハモった。
シュウの手に収まる寸前、ばたたたーと飛び立ったのだ。
そしてそのまま、外へ飛び去ってしまった。一瞬、シロンの顔が据え膳逃したような顔だったのだが、多分誰も気づかないだろう(ランシーン以外)。
「あーあ、シュウ、からかい過ぎよ」
「オレのせいか!?あいつの方が、普段もっともっともーっと何倍も性質悪いんだぞ!!」
「シロン、何処行ったんだな?」
「……方角だけ見れば、僕の家に行ったような……?」
……………。
4人はしばし、空を見上げ。
ま、いーやと本日予定していた遊びを遂行したのだった。
「うんうん。そうだな。お前がサーガにそうするのはヤキモチだけじゃなく、ランシーンからサーガの身を護る為にやってる事なんだな。
それに気づかないサーガがどうかしてるんだってのも、それでもサーガが好きで好きでたまらないってのも解ったから、俺はドラえもんじゃないし、お前だってのび太じゃないんだから、そんなジャイアンにいじめられたかスネ夫に自慢されたかみたいに泣きつかれに来られても、ビックライトも通り抜けフープも出してやれなからとっとと帰ってくれないだろうか」
「ガガガ--------!!!!」
胡坐組んだグリードーの前のシロンは、男泣きしながら地面に拳をだんだんと打ち付けていた。
その様子を見て、当分まだだめっぽい、とグリードーは極めてその過酷な現実を、冷静に受け止めた。
彼が悟りを拓く日は、近い。
「ガガガッ!?ガガ------!?」
「だから。サーガがお前をどう思ってるかなんて、俺が知ってる訳ないだろ」
<おしまい>
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