きっかけは、そもそも今日が雨だった事。
大人だったら車でもばびゅーんとかっ飛ばせれただろうけど、シュウは子供で移動器具と言えばキックボードだし。
そんなこんなで、シュウはテレビを見る事にした。
「ん〜、何かいいのやってないかな〜」
頭の上に鎮座しているシロンに言っているのかいないのか、そんな事を呟きながらチャンネルを変えていく。
で。
いくつか回している内に、派手な銃撃戦が展開されている場面に出くわして、お?とシュウの気を引いた。
そうして、それを見る事にした。
そのストーリーは、とある人物がとある一身上の都合でとある組織に対立する立場になってしまい、身の安全を確保する為その組織の壊滅させるべく奔走する……と、まぁありがちと言えばありがちなものだった。
バンバンとひっきりなしに続く銃撃、次々現れる敵。主人公あわや、という場面になる度にシュウは「あぁ!」とか「おぉ?!」とかいちち声をあげる。人類全部がこんなヤツだったら、テレビ製作者はさぞかし楽な仕事になるだろうなぁとかシロンは思う。
で。
まぁ、そこまでは良かったんだけど。
場面が夜に切り替わり、女性が出てきて、でもって、ムーディーなBGMになり、それで、あー、まぁ、そのー、な展開になって。
(おおっ!?)
と、身を乗り出したのはシロンだった。
シュウとの関係を一歩どころか10歩100歩でも進ませたい所なのに、未だそれが踏み切れてないのは、シュウがお子様で場の雰囲気を読み取ってくれないからだ(しかし大半はシロンにそうさせる技巧が無いからに違いない)。
何せ成功に結びつかせる為の経験も知識も無い。文字通り手探りで突き進んでみればあっけなく奈落に落ちる、大抵こんなパターンだ。
だから、これは願ってもいないチャンスってやつで。
人間同士で男女、という若干の差異はあるが、とりあえず人が作ったものだ。て事は人はこのよーな場面の時に発情するんだろうな、とシロンは興味深げに熱心に見詰めた。それはもう穴が開く勢いで。
なるほど、手は腰にか。これは俺は間違って無かったな、と本当に真剣に見ていると。
「ガッ?」
いきなりシュウが立ち上がったのだ。
トイレかな?まぁいいや自分は勉強(もはや勉強)を続けようと、頭から飛び立とうとしたのだが、ぐわし!と掴まれてしまって。
「ガガッ?」
「ね、ねずっちょ!」
なんだか、シュウは慌てたみたいに。例えれば秘密基地に隠した悪い点数のテストの答案をメグに見つかった時のよーな顔だ。
「もーすぐおやつだから、食お!」
「ガーガガ?」
もうすぐ?ってまぁ、そうとも言えなくも無いけどあと20分も……てか俺はまだ勉強したいんだけど。じっくり。
なんて思っているうちに、シュウは即興の今日のおやつはなんだろなソングを口ずさみ、強制的におやつタイムになってしまった。当然、テレビは消されて。
シロンはガガーと呟きながら再びテレビに向かったのだが、シュウの、「ねずっちょの分も食っちまうぞー!」というセリフにとんぼ返りした。
シロンは事に持ち運ぶ知識を得る事より、おやつを優先した。この辺、失敗だらけの原因かもしれない……と、いうかほぼ間違いなかった。
今日のおやつはミルクプリンだった。
「ん〜vv美味いっvv」
セリフにハートマークが何個も飛び散るくらい、それは美味だった。となりのねずっちょも口に運ぶ度顔が蕩けている。さすがに、いつもしているような、周囲に撒き散らすような食べ方はしなかった。プリンだからね。
と、いつものようにシュウの美味しい顔を眺めようとしたら、口元にプリンの欠片がついているのが見えた。本人、気づいて無いらしい。
ガキだなぁ全く、と毒つきながらそれを舐め取ってやろうとそっと近寄る。舐め取るのは当然の事らしい。
シュウはシロンが近づいたのは解ったが、目的が解らなくてプリン片手に首を傾げている。
しかし、シロンが口元に近づいた途端。
「-------ッッツ!わぁぁっ!!」
ばし!っと虫にでもするみたいにシロンを叩き落した。
全くの不意打ちで、シロンがガッ!?とか驚きながらテーブルにべちゃっっ!と激着地した。
「ガ……ガガ……」
今のはちょっと痛かった。うつぶせになったまま、呻くシロン。
「…………。あ、あーっ!!」
自分のした事にちょっと唖然していたのか。少しの間を置いてシュウが叫んだ。
「ごっ!ごめん!ねずっちょごめ------ん!!!」
謝罪の声が、ただただ雨の音に混じって室内に響く。
一体、なんでいきなり叩き落されてしまったんだろう。
シロンはそんな疑問を、頭どころか身体の中まで一杯にして考える。そうされた事に対する怒りはシュウの分の残りのプリンを持ったことで解消済みだ。
まだ喧嘩はなく、和やかないつもの日常が続いていた……と、思うのだが、それはシロンだけだったのだろうか。シュウの中では、何か変化があったのだろうか。
「なぁ、おまえ、どう思う?」
「帰りたい」
「まあ、直接の原因は口元に寄ったってのは解るんだけどよ、いつもだったら舐められる前まで気づかねーんだよ。それが、なんで今日に限って?」
意見を求められ、ようやく口を挟む隙が出来たのでグリードーは思っている事を率直に言ってみたが、やっぱりというか聞いては貰えなかったようだ。
嫌な予感はしたんだ。と、いうかそれしか無いんだ。こいつから飲みに誘われる理由なんて。
首を傾げるシロンを見て、その角度をもっと急角度にしたろかい、と思わずにはいられない。酒をがぶ飲みしても酔えないのだ。隣があまりにも鬱陶しすぎて。
「なんだろうなぁ……全くよ………」
考えに老け込むシロン。このまま置いて帰ってもこの場は切り抜けそうだが、次会った時が煩いのであまりしたくない。
て事は。
嫌だが、本当に嫌だが、ある程度相談に乗って解決口を見つけなければならないのだろう。本当に嫌だが(2回目)。
ふむ、と隣のシロンの存在は極力視界から外してグリードーもシュウの行動を追って、その心境の推移を推理してみる。嫌々聞いているのだが、そうすると却って意識してしまうせいかよく覚えてしまって、帰ってからも魘されるのだ。
考えた末、ひとつの仮説に行き着く。
「おい、シロン」
「あぁ?」
「お前、おやつ食う前何してたって言ったか?」
「だから、テレビ見てたんだよ。今後の参考の為に」
詳しい内容は知らないが(というか聞きたくないが)、とりあえず「そういう」シーンなのは確認出来た。
「……意識した、て事か……?」
「意識?」
「そういう場面だったんだろ?ようやく、風のサーガも求愛行動……と、いうのか食欲と睡眠欲以外の欲望があるってのを知ったんじゃないのか?お前が参考してたようによ」
「…………」
「口を付けるのは全部捕食目的じゃないってのがさ……って、おい?」
今まで何をしても止まらなかったはずなのに、シロンが沈黙をしている。不気味なくらい。
「……そうか……そうだったのか……てか、それ以外在りえないよな……」
そう呟いているシロンは、カナリアを目の前にしたネコの如し。
いかん。
こいつの中で仮定が確定となり、真理とまでなっている!!
「ちょ、ちょっと待てよ!あくまで仮説だ仮説!本当の所なんてまるで解っちゃいねーんだから先走った真似は!!」
「じゃあな、グリードー!今日は助かったぜ!俺の奢りだ!!」
「うわー、先大疾走!!!」
そうして、言うが早いか、まさに風のようにシロンは去って行った。
「…………」
グリードーは呆然とそれを見送った。
もしかして。俺は、俺は核爆弾のスイッチを押してしまったのか……?
(…………
風のサーガ……… ごめん)(←ごめんじゃないだろ)
心の中でシュウにぺこりを頭を下げたグリードーは、次の瞬間、非常に大変な事に気づいてしまった。
(あいつ……っ!!奢りつったくせに払ってねぇ---------!!!)
実は自分の分すら払ってなかったりするのだが、それにグリードーが気づくのはもうちょっと後。
シロン、今日は帰って来ないのかな?
長めの髪をごしごし拭き、窓の外を見てシュウは思う。
その後、色々こちゃこちゃしてから寝床に潜り、明かりを消そうと。
「おい」
した時に、シロンが現れた。
「でかっちょ!お前こんな時間まで〜!!もう、次から鍵掛けて寝る!!」
脅すような物言いに、笑いが込上げる。消耗の激しいこの姿のままで放って置くなんて事が、出来るはずも無いのだ。
(やっぱこれって、愛?)
グリードーが聞いていたなら、「違う!それは大間違いだ!」と即座に反論してくれただろうに。最もした所で聞く耳なんて持っていないのだが。
「そんじゃ、カムバッ………」
ク、と最後の一言を、手で塞いで阻止する。
「………?何だよ?」
「………」
シロンは何も言わず、笑みを湛えたまま、近寄る。
そうして。
ぺろん、と頬を撫でた。舌で。
「ッッッ!!!!?」
反射的に腰を引いたシロンを、そうはさせまいとすかさず引寄せる。腰に手を回して(学習の成果)。
「逃げるなよ」
「!!? !? シ、シロ、シロ、ン!!!?」
首筋から頬へ、あるいは逆に辿る舌に、シュウは頭が沸騰して目が回りそうだ。て言うかそうなりつつある。
「意味、解ってんだろ?」
「…………ッツ!!」
一旦行為を止めて、間近に、これ以上は無い間近のシュウを見る。目は潤んで、頬は上気して。
幼い身体には熱が篭っている事だろう。
さぁ、それをどうしてやろうか。
まずは、素直に達しさせてやるか。それとも、思いっきり焦らしてやるか。
シュウの体内の事なのに、自分に決定権があると思うとそれだけでゾクゾクしてくる。今でこんななのに、本懐を果たした時はどれほどのものが訪れるんだろうか。
「言っとくけどな、今日は遊びじゃねぇぜ?本気だ」
耳元でそう囁くと、ひっ、と声にならない声が上がり、体がひきつる。
あぁ、この反応、と感じ入ってシロンは耳を甘噛みする。
そして。
「ぎゃ……ぎゃぁぁ〜〜〜〜!!くっ、食われる〜〜〜〜!!!!」
やっぱり通じてなかったという。
結局、シュウが濡れ場に中てられたのは、テレビ見てたあの時だったという訳で。
翌朝。
「ほらねずっちょの分!大盛りにしてやったからな!でも足りなかったら、ちゃんと言えよ!間違ってもオレを食おうなんて思うなよ!!」
「…………」
いやいや、間違ってるのは貴方の方ですよシュウゾウ・マツタニさん。
絵本に載ってるご飯みたいにてんこ盛りにされた茶碗を前に、シロンは遠い目をしていた。
やっぱり噛んだのがいかんかったんだろうか。噛んだのが。
なんて事を思いながら。
<おしまい>
|