現状把握、そして一存
酔っ払いは自分の事を酔っていないと言い張るらしい。
なら、狂っているという自覚がる自分は狂っては居ないのだろうか。
いや、それは在り得ない。
今、自嘲で歪めた口元同様、私の心も歪んでいる。
何故なら私には、比較対象があるからだ。
「なぁ、おい。ワル夫」
その比較対象が私を呼んだ。
「何だ」
自分から話しかけて置いて、シロンは渋い顔をするだけでなかなか口を開こうとしない。相手にするのが面倒でどこかへ飛んで行ってしまおうか、と思い、それを実行する直前に、ようやくシロンが言葉を発した。
「お前なぁ……風のサーガにあまり物騒な事、思うなよ」
なるほど、そう来たか。あまりに強い感情だ。半身であるこいつに、もしかしたら漏れているかもしれない、とは思っていた。
「確かにそれは否定はせんがな。けれども風のサーガにふしだらな思いを抱いている貴様には言われたくは無い」
ぴしゃり、とそう言うと、シロンは目に見えて激昂した。解り易いヤツだ。
「それと今は関係無いだろ!お前、本気で風のサーガを殺してやりたいとか、思ってんのか!?」
「愛しさ故ですよ。それならお前も納得出来るだろう?」
私の本気を悟ったのか、シロンは押し黙った。
「……まともじゃねぇよ、お前」
やっとの事で、それだけ言った。全くボキャブラリーの貧困なヤツだ。毎日何の為にテレビを見ているのか。
「お前はそう思った事は無いのか?シロン。あの子が愛しくて愛しくて全てが欲しくなって、その未来や可能性までもを自分のこの手で塞き止める事を」
「ねぇよ」
シロンもまた、さっきの私みたいにキッパリと言った。付け入る隙を見せないその言い方は、私とよく似ている。
「なら、それでいいだろう」
「あぁ?」
解らんのか。鈍いヤツ。
「妄想に片寄った恋慕は私に任せて、お前は体当たりで風のサーガに告白でもすればいい」
「……何か、その言い方だと俺が行動するしか長所の無い行動派バカみたいじゃねーか」
ふむ、まるきりのバカでもないようだ。まぁ、それはさておき。(指摘したらまた腹を立てるだけだ)
「お前に出来ない事を私がして、私が出来ない事をお前がする。だからこそ、私達は分離したんだ。でなければ意味が無い」
「……そういうもんかぁ?」
シロンはいまいち納得出来ていないらしい。
「私が思ってる事と、お前の思っている事の両方がひとつにあった”前”じゃ、上手くいかなかったんだろ。世の中には、解る事より解らない方がいい事もあるんだ」
「けっ。急に大人ぶりやがる」
「時間的に言えば、お前より大分先に現れたからな。その分考えてきた事も多い」
「考える事も大事だけどよ、でもそれって行動する為の準備なんじゃねーの?考えてばっかじゃしてる意味が無ぇじゃねーか」
「さすが行動派バカ。言う内容に重みがある」
「……毎回だけど、お前ってマジに腹が立つな」
「気にするな。お互い様だ」
「何をどう気に……!っっあー!もういい!外行って来る!」
短気に自分で自分のセリフを打ち切り、丸い窓枠に立つ。
「風のサーガを迎えに行くのか」
丁度、そんな時間帯だった。
「…………」
シロンはすぐには答えず、私を振り返り、そして逆に訊いて来た。
「……だったら、お前も来るか?」
……………
「……いや、私は待ちますよ」
「……そうか」
「はい」
そのやり取りを最後に、シロンは飛び立って行った。風がヤツの後ろに吹くのを、何となく眺める。
あいつは迎えに行く。私は来るまで待つ。
お前に出来ない事を私がして、私が出来ない事をお前がする。
私の持つこの感情は、どう頑張った所であいつが持つ事は出来まい。
仮に、この先私が狂うどころか自我まで失ってしまい、実際に風のサーガを殺しにかかっても、シロン、その時はお前が私を止めるだろう?
その為に私達は、「自分」が二つ在るのだからな。
だから私は目を綴じ、あの子を手にかける瞬間をひたすら想像する。
肌に食い込む手。開かない双眸。動かない心臓。冷たくなる温もり。
本物のあの子を目にし、浄化するようにその狂った妄執が一気に霧散する、その時まで。
<END>
また笑いがありませんが、ねずみ姿だと思うと「ぶふっ!」って噴出したくなりますね。
つーかシュウが出ないのが辛い。