それらは私の血となり、肉となり、





 成長しきってない、筋肉もろくについていないその肢体は、きっとしなやかで柔らかいに違いない。
 酒や煙草といった嗜好品をまだ知らない血は、何よりも甘露だろう。
 そんな発想をついしてしまう自分も可笑しいが、自分がそんな事を考えて居るだなんて夢にも思っていないだろう、目の前の子供もまた可笑しい。もっと言ってしまえば、自分に子供を任せてどこかの空を飛んでいる半身も可笑しかった。世の中とはこんなに愉快なものだったのか。今になって、ようやく気づく。

「ワル夫、何笑ってんの?」

 私の表情に気づいた風のサーガが、無邪気に顔を覗きこむ。あまりに無邪気だから、悲壮とか憎悪とか思う場所があるのか疑問になり、試したくなる衝動に駆られる。
 あぁ、悲しみのあまり心を閉ざす事はありましたね。あの時の貴方も大変魅力的でしたよ。まるで人形みたいに、誰も見なくて。

「あ!また笑ってる。何だよー、何か面白い事でもあったのかよー」

 なら教えろよ、と座って曲げている足をよじ登り、顔を覗きこんでくる。そのままちょっと私が身を屈めて、口を広げればあっさり飲み込んでしまえるくらいの距離にまで。
 この子を食べてしまえたら。(勿論、あの半身が思っているような低俗な意味ではなく)
 口に食んで舌ざわりや歯ごたえを十分に堪能した後、喉に落とす。多分、私達は食料で身を保つ類の存在ではないだろうけど、体内に堕ちたこの子は、きっと私の糧となる。私の欠かせないものとなる。
 もし仮に、私がこの子達と同じ身体の仕組みであったなら、至上の味を経験してしまった為に、その後何も口しても満足出来ず、最終的には飢えて果てるだろう。そう考えると、こういう存在で在る事は私にとって非常に都合が良かった。風のサーガの味を最後に、それを味わった舌にもう何も上乗せする事なく、生きながらえるのだから。神、あるいは私を作った創造主に出逢えたなら、まずそれに対して礼を述べるとするか。

「もー、また笑う!さっきから何なんだよー!」
「それはですね、楽しいからですよ、風のサーガ」

 貴方に出会えた事や貴方とこうして居る事や、貴方にそんな妄執抱く事もそれに気づいていない貴方も、全部、全部楽しい。
 可笑しくて堪らない。

「何が楽しいんだよ?」

 今、こうやって貴方な何の危機感も持たずに私の顔を覗き込む訳ですが、今、私が貴方に対して思っている事全部吐き出してしまったら、どうなるだろう、とか。そんな事を考えるのが。
 面白いですね、大切なものほど壊したくなる。どうでもいい物よりも念入りに。(以前時折使っていた携帯扇風機より念入りに)
 そしてその時の貴方の反応が何より楽しみで、どんな罵詈雑言で私を罵るのか、冷たい態度を取るのか。それから、今のこの関係が、いかに貴重で大切で、大事で奇跡であるかという事が解る訳です。
 そうですね、貴方を食べるのはその後でいいでしょう。
 だって、私に見向きもしないで私以外のヤツらばかりと付き合っていたら、それは嫉妬心や独占欲も沸くってもんですよ。腹の中に納める以外、解消する術はないでしょ?
 そうとも、私には心がある。
 それを与えたのは貴方。
 貴方が心をくれなければ、ここまで私は狂う事も愛しいと思う事もなかった。何て憎くて愛しい貴方。
 だから貴方は責任を取らなければならない。

「なーなー、だから何が面白いの?」
「……聞きたいですか?」
「おう」
「そうですか……」

 私は風のサーガを手の上に乗せ、ゆっくりと持ち上げる。


 私はね、風のサーガ

 貴方を食べてしまいたいんですよ


 翡翠のような双眸の中、闇の化身のような私が映る。


 私はね、風のサーガ

 貴方を殺してしまいたんですよ

 愛しているから


「ワル夫、顔近ぇーよ」



 でも、



「風がね、気持ちいいんですよ」
「あ、本当だ〜」
「でしょ?」
 頭の上に風のサーガを乗せ、私は風を身に浴びる。



 殺しませんよ

 愛しているから




<END>

本当はこれ、歪アリので書こうとしていたんですけどね。なんか色々規約が多くて……君子は危うい橋は渡らんから……(弱いやつめ!)

殺したい程愛してるけど愛してるから殺さないってのは多分ジバクでも書いてるな。こーゆー微カバリズム思考はたまに書くと楽しい。あくまで微、ですけど。ホラー苦手じゃけん。
タイトル付けも苦手じゃけん。文は割りとあっさり書けたってのに。