「夏だよな〜、うーん、夏だ。夏と言えば海。海と言えば浜辺。
そして浜辺と言えばバーベキュー!て事でオレは此処に第一回、レジェンズクラブバーベキュー大会を立ち上げる事を宣言します!!」
「経緯がさっぱり訳解んないわよー!!!」
と、唐突な事を言い出したシュウにメグがチョップで突っ込むのは毎度のの事で。
で、「部長がまた無茶言ってるけどなんか面白そうだからやってみよっかな」的な流れになるのもいつもの事だった。
と、言う訳で本当に夏の浜辺にてバーベキューが催されている。
「こらぁぁぁぁ------!!シュウゥゥ-------!!!!」
切れと張りのあるメグの怒声が飛ぶ。
「あんたが言いだしっぺなんでしょ!?遊んでなんかないで、さっさと釜戸作るの手伝いなさいよ!!」
「メグ、怒る時に包丁はおいといた方がいいんだな。見ていて凄く怖いんだな」
ぷりぷり怒るメグに、マックが穏やかに言った。
ここの浜辺は近くに林があり、岩場もありでシュウは冒険したくて堪らないのだ。
「えー、そんなん会計委員の背中でいーじゃーん」
「おいおい」
グリードーが渋い面になる。
「ばっかだなー、風のサーガ。こんな所で焼ける訳がねーだろ」
と呆れたように言ったのはシロンで。
「そのまま焼いたら肉がくっ付くだろーが、ちゃんと油引かないと」
『そうじゃねぇ』
と皆の突っ込みが唱和した。1人、黙していたガリオンは「このサーガにしてこのレジェンズあり、か……」と世のあり方を噛み締めていた。
「結構いーいアイデアだと思うんだけどなぁ………」
シュウはまだ未練があるようなので、グリードーはちょっとギク、と怯えた。
「何がいいものか!グリードーの背中をホットプレート替わりになんかするなよ!」
と、ディーノが怒った(当然だが)。
「そだな。そうしたら会計委員が食えないもんな」
「だからちょっとずれてる……って、あぁもういいよ。もう」
こいつと会話のキャッチボールは出来ない。普通に野球のも出来ないけど。とりあえずグリードー背中の安全は確保させたので、ディーノは早々切り上げた。
「な、な、メグ〜〜」
シュウは手をぱたぱたさせ、
「オレ、後片付けめっちゃ頑張るからさ!とりあえず今は探検させてくんないかな〜?」
だめ〜?と頭上で合わせた手の下から、こっそり顔色を窺うように覗き込む。
シュウはメグに言ったのだが、はーっ、と盛大に溜息吐いたのはディーノだ。
「君ねぇ、そんな身勝手な……」
「いいわよ」
「メグ!?いいの!?」
驚愕するディーノ。メグはさっきのディーノより重い溜息を吐いて。
「キザ夫さんももう解ってるでしょ?シュウはやる!って決めた事をやらないで済ませられる訳がないの」
「それは解ってるけど、それと僕はディーノだけど、終わるまで我慢させればいいんじゃない?」
甘えさせるのは本人の為にも自分達の為にもならない、と主張するディーノ。
「火とか刃物とか使ってる時にそんな風に気を散らされていたら、それこそとんでもない事になるわよ。って言うかなるのよ」
「なるの?」
「なる」
断言したメグのセリフには、とても自分と同じだけの人生を歩んできたとは思えない重さがあった。なので、ディーノは言う事を聞くことにした。
メグはシュウの方を向き直り。
「いい!?シュウ!後片付けは絶対の絶対にするんだからね!!でなきゃぎゃふんと言うまでメグチョップよ!?」
「はいはーい!わっかりましたー!!!」
本当に解ってんのかなぁ、とディーノは首を傾げずにいられない。
「おい風のサーガ?何処行くんだよ」
足元を駆け抜けるシュウに、シロンが呼びかける。
「レッツ探検〜♪」
「1人でか?迷子になっても知らねーぞ」
何故俺も一緒に行くの一言が出ないのかこのドラゴンは。で、その肝心の一言を言わないものだから。
「オレ1人で大ー丈夫!!あ、そうそう、カムバック!!」
「おいっ………!!」
セリフ半ばでねずっちょとなった。
「ガガガ!ンガガガガ-------!!」
「すぐ戻って来るから!!」
パーカーの裾を翻し、軽快にシュウは走っていく。
「ガガ--------!!」
今頃言っても遅いよ、とガガガ語の解るレジェンズの面々(と、薄っすらに理解出来るマック)はひっそりとシロンに突っ込みを入れたのだった。
材料の下ごしらえは、専らメグとマックが中心で、小回りの利くウォルフィとリーオンがそれぞれの手伝いについていて、その間をねずっちょがちょろちょろしていた。つまみ食い出来そうな物は無いかと。
そしてそれを見咎めたガリオンにと捕まって説教されていた(全くお前にはレジェンズとしての自覚以前に子供達に接する時の配慮というものをだな云々)。
「え、それも焼くの?」
リーオンはマックの手にあるバナナとリンゴを見て言う。マックはにこにこして説明した。
「バナナとリンゴは、加熱すると免疫力があがったり、腸内環境改善の働きが強まって身体にとてもいいんだな。リンゴの方は芯を刳り貫いた所にバターを入れるんだな。そうすると、アップルパイの中身みたいでとってもとっても美味しくなるんだな〜vv」
「……………」
「リーオン、涎出てるぞ」
「うん、解ってる」
「だったら拭けよ!」
べしん、と皮むき機持ったまま叩いたからちょっと毛が散ったけど、まぁいいや。ウォルフィは気にしない事にした。
「……それにしても、シュウ、ちょっと遅いんだな?」
リンゴとバナナをアルミホイルに包みながら、マックがふと呟いた。
「そうね、もう、すぐ戻って来る、っていう範囲内じゃないかもね」
メグもそれに賛同する。口にしなかっただけで、ディーノより先に思っていたのかもしれない。
「何かあったのかしら?それならまだしも、遊び呆けてたってなら、ただじゃおかないんだから!!」
「なら、僕ちょっと見てくるよ」
ディーノが言う。
「いいの?キザ夫さん」
「僕はディーノだけど、釜戸の方はもう出来たから。いいよね、グリードー?」
「あぁ、構わねぇぜ」
そうしてディーノも駆けていった。シュウの行った方向へ。
で、それから10数分後。
「ディーノも遅いんだな」
「シュウだけならまだしも、キザ夫さんまでだなんて、本格的になにかあったのかしら?」
「そうかもしれねぇなぁ……」
グリードーも呟いた。
「あ、だったら俺らが迎えに行こうか?」
「そうだな、そうしてくれ」
シュウもディーノも、林の中へと入った。その中に居るのだとしたら、探しに行くのは自分よりはウォルフィの方がいい。
「うし、じゃ早い所行ってくるわ」
「ウーたん行ってらっしゃーい」
グリードーに踵を返して進んだウォルフィはその軌道をズガガッと変えて、リーオンに突進してその頭を引っ叩いた。
「何が行ってらっしゃいだ!お前も行くんだよお前も!!」
「えぇ!?オレも!!?」
いきなり振られてビックリしているリーオンだ。
「オレも?って部長と同じ属性してるお前が居た方が探し易いに決まってんだろーが!言わんでも解れよ!」
「だって今から肉焼くのに〜」
「お前猫舌なんだから、どうせ焼きたて食えねぇだろ!」
「アタっ!叩かないでよウーたん!!」
「……属性って、してるしてないっていうものなのかななんだな?」
「……さぁ?」
首を捻るマックとメグだ。
「てか、さっき「俺ら」って言ってたの聴いてなかったのかよ」
「いやー、アレ「俺裸」って言ってるのかと思って」
「訳解らんわー!!だいたいより裸なのは俺じゃなくてお前だろ!!」
「ウーたん、そのツッコミはどこかずれてると思うよ」
「さっさと行くぞオラ!!」
「痛い痛いヒゲ引っ張らないでヒゲ引っ張らないで」
賑やかしく連れ立っていく2人の背中を見て、ふいにメグが呟く。
「……なんかちょっと不安だわ………」
グリードーは。
「……………」
何も言い返せなかった。
林の中に入りかけた時、ようやく手を離してもらえた。
酷いなぁ、もう、と言いながら頬を摩る。いっそ呑気なリーオンを、ウォルフィは半眼で睨み、
「お前なぁ、間借りさせてもらっているお宅のご子息が行方知れずだってのに、もう少し必死な表情作れないのかよ」
「だってさ、ウーたん」
「なんだよ」
「ぼっちゃんは部長探しに行ったんだよね」
「何今更言ってんだ」
「で、だよ。もしぼっちゃんが部長探し当ててさ、一緒に居てさ」
「あぁ」
「オレ達が其処を丁度見つけた時、2人がぱっと離れたらとても気まずくない?」
……………
「それは………それは、お前……
それは気まずいなぁ〜」
「だしょぉ〜?」
「なんだ、だしょ〜って」
「ごめん言い直す。でしょぉ〜?」
「まぁとりあえずは探そうぜ。じゃないとシロンが煩い」
「てか怖いよね」
「あぁ怖いな」
「ぼっちゃんも絡んでるからグリたんも怖いかな」
「あいつは怖いっつーか熱いだろ」
「うん、熱いね」
「あっついあっつい」
とかWニコルが無責任な会話を展開している時より、少し遡る。
(全く何処行ったんだあいつ……)
メグやマックに迷惑ばっかりかけて、と憤慨極まりない表情でディーノはシュウを探していた。
シュウを探すのは案外簡単だと思った。風を頼りに進めばいい。
その考えが正解であったのは、すんなり見つかった事が証明している。すんなりとは言うが、あっさり見つかった訳でもない。結構奥に進んだ。ディーノの脳裏に、調子に乗ってどんどん突き進んでいくシュウの姿が容易に想像出来た。
見つけたら絶対一言、いや二言も三言も言ってやる、と足を進める度にディーノは決意を固めていた。
やがて、樹の後ろによく見知ったちょんまげを見つけた。
「-----シュウ!!」
すぅ、と息を吸い込んで可能な限りの大音量で叫んだ。
「おおおぅっ!!?キザ夫!!?」
びく!と肩を撥ね、シュウが振り返る。
「何やってんだよこんな所で!メグにすぐ戻るって言ったんだろ!?それと僕はキザ夫じゃなくて………」
ディーノだ、という最後の一言は、シュウの全身を目に入れた時止まってしまった。
シュウは膝を抱えていて、その膝から出血していたからだ。
「どうしたのそれ!?……って多分こけたんだろうけども」
ディーノは冷静だ。
「うん、こけた〜」
「泣くなよみっともない」
あぅ〜と目から零れそうになるくらい涙を溜めたシュウに、ディーノはにべもなく言った。
この辺りは大きな石がごろごろしている。それに当たらなかっただけ、運がいいとでも言うべきだろうか。
「もーちょっとしたら帰ろうと思ったんだぜ?本当本当」
神妙な顔で頷いてみせるシュウだった。
「……シュウ、」
「ん?」
「ほら、」
と、背中を向けてディーノはしゃがみこむ。
「んん?」
「んん?じゃないよ。運んでやるから、さっさと乗れよ」
「え、いいの!?」
「……仕方ないよ、緊急事態なんだし」
なんだかいい訳してるみたいで、見苦しいな、とディーノは内心舌打ちした。
「や、キンキュージタイとか言う前にさ……大丈夫?キザ夫、オレ担いで疲れない?てか潰れない?」
「----いいから、早く!僕と君でどれくらい身長差があると思ってるんだ!運ぶくらい訳ないよ!
メグもマックも心配して、待ってるんだよ!?」
思わず声を荒げる。
メグとマックの名を上げると、それじゃぁ、と背中にしがみ付く。それがまた妙にイラついたが、それはどうでもいい事だ、と奥に引っ込めた。
「へー、キザ夫、案外力持ちなんだな」
少し経って、しっかりした足取りで進むディーノの様子にシュウが言った。
「まぁよく考えたらあれだよな、野球上手だもんなー。筋肉とかってついてんの?なぁ」
「…………」
「にしてもおんぶって久しぶりだなーv昔はよく父さんにしてもらったけど。あれ、肩車の方が多かったっけかな。
でかっちょの背中にも乗せてもらうけどさー、あれはおんぶじゃねぇよな。あれは」
「シュウ、」
「母さんには抱っこをよくして貰ったな〜。オレが近づいただけで解ってさ、はいはい、って抱き上げてくれんの!」
ディーノの硬質な声色に気づかないのか、シュウのお喋りは止まらない。
「んでさ〜」
「……黙らないと落とすよ?」
本気を悟ったのか口にチャックしたシュウだった。
全くもう、と何度目か解らないこのセリフを心の中で呟いた。
そして、どうせまた喋りだすんだろうな、とか思っていたのだが、それっきりシュウは一向にセリフを吐かない。
…………。まさか。
「寝た?」
「ンな訳ゃねーじゃん」
「静かだから」
「キザ夫が黙れっつったのになんだよそれ!てか、そんなんじゃまるで普段オレが煩いみたいじゃん!!」
「今現在で十分とても煩い。そして僕はディーノだ」
しれっと言えば、人の背中でムキー!と怒る。ある意味器用だなーとディーノは思った。
「……ヘンな感じ」
一頻り憤慨し終えたシュウが、ふと、ぽつりと零すように言った。
「何が」
「キザ夫におんぶされてんのが」
僕はディーノだってば、といつものやり取りを忘れない。
「僕だって君を背負ってるのは、なんだか不思議な感じだよ」
背中に感じる重さとか、至近距離の後ろからの声とか。
「じゃ、なんでしてるんだよ」
「……君が怪我をしてるからだよ」
君じゃなくても、怪我人なら背負ったんだよ、とニュアンスを漂わせて。
「ふぅん。キザ夫って優しいなぁ。そこそこ見直した」
「そこそこって、」
口を挟もうとして、途中で止める。
そうとも、怪我をしているからシュウを背負った。怪我人だから背負った。
シュウだから背負った訳じゃない。
でも。
シュウが怪我をしているのは、そこで1人で居たのは
とても
嫌だな、って
思ったんだ
「…………」
「メグ怒ってるかな〜」
少し物思いに浸りかけたのを、戻したのはやっぱりというかシュウの呑気な声だった。
「怒るだろうね。自分で企画しておいた癖にろくに手伝いもしないで遊び呆けて、その仕舞いに怪我までしてたんじゃ」
「もうちょっとフォロー的な事言えよ!」
「心にもない事は言えない」
で。
そんな会話をしていた時丁度に。
「あー、ウーたん部長達だ!!」
聞き覚えのある声に、ん?と2人が同じ方向を向く。木々を挟んだ向こう側に、毎度騒がしいボケツッコミコンビが見えた。
「ほらね、オレの勘正しかったでしょー!」
「あぁ、3度目の正直だったな」
そのセリフでリーオンが2回ほど間違えたのをディーノは知った。
「おーいぼっちゃーん、大丈夫で、」
「部長、探しちゃっ、」
駆け寄った2人のセリフが非常に下切れトンボになった。おそらくは、自分達の姿をきちんと目に入れたからだろうけども。理由が解らない。
首を捻るだけしかないディーノに、最初に硬直状態から抜けたウォルフィが、いやはやこんな時にはなん物を言ったらよいのやら、って感じに額を押さえつつ、ディーノの前まで来て。
ディーノにだけ、聴こえるように。
「ぼっちゃん………」
とてもシリアスな表情で言う。
「こういう事に口を挟むのもなんですが、初体験が11歳で野エロの上、腰が抜けるまでってのはいささかヘヴィー過ぎるのではと」
「そんなんじゃないよ」
「え、じゃあ何処か室内にけしこんで」
「そうじゃないったら」
「痛い痛いヒゲ引っ張ったら痛いヒゲ引っ張ったら痛い」
なんでウーたんじゃなくてオレだけが、と頬を摩るリーオンだ。
「ねー、何何?何内緒話してんだよー!」
「君が転んで怪我したから運んでるって話だよ!」
実際は違うのだが。
ともあれ、今ので状況は掴めた。リーオンがそれになんだ詰まらない、とかうっかり本音を零してディーノが聞き取れたものだから、ウォルフィは思う。今度カムバックされた時ちょっと怖いなと。
「あーあ、思いっきり剥けたな、こりゃ」
消毒の時染みるぜ、とか言われ、うへぇと呻くシュウ。
と、シュウをひょいっと抱え上げ、隣で四足歩行でスタンバってたリーオンの背中にちょんと乗せる。
たいした会話も交わすでもなく、目配せ程度で相手の事を察知出来る2人が、この時やけに羨ましかったような気がしたが、、それを掘り下げるのは止めした。意図的に。
「ひょぉぉ〜vv体育委員の背中もなかなか快適だなーv」
「俺が体育委員だっての」
「オレ、図書委員!」
「まぁどっちだっていいじゃねーの。固い事言わないで!」
「どっちでもよくねぇよ!
……で、だ部長」
「何、図書委員」
「だから、それはオレ」
「だーっ!リーオン口挟むな!
で、時に部長。………本当の所、ぼっちゃんとどうだったの。何かあった?した?」
「へ?何かて?」
「大丈夫大丈夫、俺達口堅いから!ほらお兄さんに言ってごらん!」
「えぁぁぁぁ、部長はやっぱり、ぼ、ぼっちゃんと!!?」
「????」
「………………」
皆の所に戻り、メグの手荒な治療にんぎゃー!と断末魔の悲鳴みたいな声を上げているシュウを尻目にディーノがグリードーに訊いた事と言えば、ソウルドールって金槌で叩いて割れるの、って事だった。
<おしまい>
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