春の訪れ





「春だなぁ……」
「春なんですねぇ……」
 しみじみ、といった具合に乱丸とカイの2人は呟いた。慈愛の双眸をしながら。
「まだ最高気温が15度下回って、うっかりすりゃ雪でも降ろうかって感じだけど、でもやっぱり春なんですね」
「ぅおい、」
 と、ハヤテが誌的なカイのセリフを遮る。その声は鼻声だ。鼻声というか。
「お前ら、そのセリフ俺の花粉症見て言ってんじゃねーだろーなぁー」
「いや、そんな」
「あっはっはっは」
 そんな長閑に笑う2人を見て、自爆覚悟で思いっきりスギ花粉撒き散らしてこいつらも花粉症にしてしまおうか、と暗い企てを抱いたハヤテだった。




「本当に酷いですね」
 いっそ感心の色を見せた上のセリフは、デッドのものだ。実際、ハヤテの花粉症はとても酷かった。デッドは直接目の当りにした訳ではないが、この前なぞは涙が本気で止まらなくなり、保健室に逃げ込んだとの事だ。
最も、逃げ込んだ所で症状が治まる訳でもないのだが。とりあえず、気兼ねなく鼻をかむ事は出来る。
「酷いっつーかさぁ……」
 デッドの言葉を取って、ハヤテが言う。ちなみに今は下校中だ。ハヤテはマスクをしている。
「鼻水は止まらないわ涙は流れっぱなしだわ、眼も腫れるし頭もぼーっとするし、俺が本当に何をしたって感じだよ、もう……」
 はぁ、と出した息が溜息なのか、鼻づまりを治そうとしたのかが解らない。
「……ごめん、ちょっと鼻かむ」
 えぇ、どうぞ。という素っ気無い返事が今は嬉しかった。何が哀しくて人前で派手な音を立てて鼻をかまなければならないのか。それも好きな人相手に。
 チキショウ、春なんて大嫌いだ。ハヤテはついに季節を呪った。ずひずひと鼻を詰らせながら。
「あー、やだやだ、格好悪い」
 そう愚痴ると、慰めるようにぽん、とデッドが肩に手を置いた。
「何を言ってるんですか、ハヤテ。損なわれる程の格好良さは最初からありませんよ」
「あはははは〜〜〜」
 と、笑いながら流れるこの涙は、花粉症のものではない。
「なので、」
 とデッドのセリフはまだ続いた。
「何も気にする事はありませんよ」
「……………」
 なんて話をしている間にも、鼻がむず痒くなって、もう本当に辛い。
 辛くし、醜態は晒してしまうしで最悪で。本当はこんな所見てもらいたくないから、距離を取ってもらいたいんだけど。
 デッドが気にしないそうなので、ハヤテも気にする事を止めた。




 さて、そんなとある日。
「はっ、くしょ!!」
 と、カイが大きなくしゃみをした。それも、連発。
「どうした、カイ。風邪か?」
 と、乱丸が聞く。
「んー、どうでしょうねぇ」
 ティッシュを取り出すカイ。
「……花粉症だ」
 その背後、ぼそりと呪祖のように呟かれる。はっ、とカイは驚いて振り返れば、其処にはハヤテが居た。マスクをしているハヤテが。
「オメデトウ。これからお前も俺の仲間入りだ」
 にやり。とか笑ってくれた。
「……ち、違います。私のは風邪です。えぇ、風邪です。風邪に決まってますとも!」
「ふっ。往生際が悪ぃぜ、カイ。まぁ、俺も最初はそう思ってたから、その気持ち、解らないでもないけどな……」
「やめてくださいそんな眼で見るのは!やめてくださ-------い!!!」
 とかいうやり取りを、少し遠く離れて眺め、明日はわが身だなぁ……と乱丸はこっそり思ってたりした。


 そんな春のとある一日。




<END>





ワタシは今の所花粉症ではないんですが、明日はわが身ですねぇ。あれって何の前ぶりもなくなるみたいですから。
小学5年の時ですが、本当の本当に症状の酷い人が居たんですよ。号泣してるみたいに涙が出て、しかも授業中で保健室に強制移動にされました。
しかしながら花粉症と言えば御手洗の某短編を思い出すですよ。現代社会を痛快に皮肉っていると思います。あれ。