今、目の前には数々の品物がある。これのセレクト次第で、自分の将来は薔薇色にも闇色にも染まるのだ。
失敗は、断じて許されない……!
獲物を前にする狩人の如く、戦場に居るソルジャーの如く、ハヤテは真剣な面持ちで選び始めた。
「ほら、ハヤテ殿。アフリカのウィッチ・ドクターが使う薬壷のレプリカですよ。結構使い勝手が良さそうですよね
「…………」
「こっちの呪術に使うマラカスもいい感じですよ。こうして見てみると、ブードゥー人形も中々愛らしいですねぇ」
「…………あああああッッ!!」
先ほどから、いっそ能天気にすら思えて仕方無いカイのセリフの数々に、ハヤテの無視をするに使う精神が限界に来た。
「なんなんだよっ!おめーは!さっきからロマンチックの欠片もない、あるとしたらおどろおどろしいムードしかないアイテムばっかり薦めるんだよ!!
それよりなんで普通の雑貨屋に呪いに使ってるぽい道具が売ってんだよー!!」
ハヤテは頭を抱える。
実はもへったくれもないが、ハヤテはデッドの誕生日のプレゼントを選んでいる。ハヤテとしては正月よりもお盆よりも大事なイベントだ。これだけは失敗のないように、慎重に慎重を重ね、万端の用意をしてデッドといい感じになりたい。それの最初の関門が、プレゼント選びなのだ。これでぽしゃれば全部が崩れる。実に重要だ。
だので、かなり前を持って選んでいるのも、冷静な第三者の意見をハヤテが求めるのも当然の道理だ。しかし、カイにしたのはちょっと間違ったかなと言わざるを得ない。
「だって、デッド殿と言えばこれでしょう?絶対に喜んでくれますよ」
「うーん、そうだよ。確かにそうなんだけど、俺としてはもー少し、意外なものをあげてちょっとびっくりとっても嬉しい、みたいな演出を。
ていうか誕生日なんて素敵なイベントに呪いの藁人形あげる俺の身にもなってみろ」
「そんな変に演出しようとして、それが実現出来るテクニックが自分にあると思いですか?」
カイのセリフは悔しいが正論で(正論だから悔しいのかもしれないが)、ハヤテはぐうの音も出ない。かと言って、言われるままに藁人形を精算所に持って行くのもなんか嫌だ(生理的に)。
「あ〜ぁ、こんな事なら爆を誘えばよかったぜ……」
デッドと懇意な爆の事だ。最近の興味の寄せ所とか、ちょっと気に掛けている物だって、知っている事だろう。それこそが、ハヤテの要望である、ちょっとびっくりとても嬉しい贈物となるだろう。
そんな風に、ハヤテはぽろっと言ってしまった。
一番言ってはいけない人の前で、言ってしまった。
「ほぅ……そうですか。そう思うんですか」
その、地を這うような、というか墓場の下から沸き起こってきたような声に、ハヤテは自分の失言に気づく。
慌てて振り向けば、ハヤテが藁人形を持ってレジへ向かっているではないか。
「お、おいっ!なんでそんなもん買うんだよ。お前使えないよな!?呪いなんて、掛けられないよなー!?」
「はっはっはっは、何を言うんですかハヤテ殿。。えぇ、使えませんよ。使えるはずがないじゃないですか」
「ぎゃー!薄腹黒い笑みだー!!」
どうにかこうにか謝り倒して、藁人形を購入するのだけは阻止したハヤテだった。
あぁ、疲れた。でもって、全然成果はなしだし……
近所のカフェに逃げ込み(ハヤテにとって)適当にドリンクを注文して少し一息。
「だいたいですね」
向かいに座ったカイが言う。
「爆殿に聞かないで、ライブ殿に尋ねればいいでしょう?」
兄弟なんだから、とカイ。
しかし。
「や、それはそうなんだけど、あいつに尋ねると絶対交換条件に爆を、」
「やっぱりこういう事は当人が真剣に悩んでなんぼですよね。訊くのは止めましょう、絶対に止めましょう」
「…………」
ま、いいけどね。うん、こいつのこういう所は今更だし。
それでも、ずごーとマンゴーのスムージーを吸う音がやけに物哀しいのは、何故だろう。
「本当によ、デッドに何あげたら、喜んでくれるんだろうな」
自分の株をあげたいとか、まぁそれも少しあるけど、大元の目的はデッドに喜んで欲しい。それだけだ。
カイも、そんな一途な思いをわかっているから、爆と過ごす貴重な休日を割いてこうして付き合っているのだ。
少し、自分も真剣に考えようか。そろそろ爆に会いたくなったし。
カイは考える。今までの記憶を穿り返し、デッドに関する情報と言う情報を呼び起こした。
「……デッド殿の欲しい物………」
呟いたのはカイだが、2人は同じ事を考えて居る。
やがて、カイがぽつりと言う。
「………生贄?」
「…………」
「…………」
「…………」
しばし。外の雑踏が聞こえそうな静寂が2人の席に訪れた。
「……そ、それはなぁ……」
「はい、いくらなんでもありませんよね」
「だよな。そうだよな」
「そうですよ。は、ははは」
そんな可能性は皆無だ、と信じたいのに、飛ばすための笑いがどうしても乾いて仕方なかった。
そして、その時のデッド宅では。
珍しく家にいるライブと、呑気な兄弟水入らずの一時を過ごしていた。最も、あと数刻もしない内に爆が訪れるのだが。
だもんで、ライブはとっておきの自信作を披露しようとギターのチューニングに余念が無い。
「それにしても、カイが来ないって珍しい事もあったもんだねー♪」
ライブは、てっきりカイが爆のおまけみたいに付いてくるものだと思ったが、デッドは違うと言い、ライブはそれを素直に受け入れた。この兄がこういう類の嘘はつかないのだ。
「えぇ、カイさんはハヤテと一緒だそうですよ」
「へぇー。ってことはもしかして、もうすぐアニキの誕生日だからそれをもう選びに掛かってるとか?」
「多分、そうでしょうね」
あくまで素っ気無く言うデッド。
そんなデッドに、ライブは無邪気に訊く。
「ねぇアニキ、今、一番何が欲しい?」
「……そうですね」
ティー・パーティーの準備をしながらデッドは言う。
「……とある人物の、命ですかね」
「あはは☆本気だー」
その時、くしゃみをしたのは当然カイだった。
<END>
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