勢いは若さの特権






 今日は、ある意味自分にとって運命の日。かなり一方的に決められた事だが。
 そんな緊張のためか、大分早くに目覚めてしまった。
 起床にあるまじき時間帯を告げる時計を、無言で見詰めるカイ。思春期真っ盛り。
 こんな早い時間、何をすればいいのか………
(……早い?)
 激は、時間帯を決めなかった。
 つまり。
 何も下校時でなくてもいいのだ。
 激は朝方とは言いがたい体質だ。絶対、起きない!
 カイは気分が高揚するのを感じていた。
 師匠の裏がかけるのと同時に、自分の方が早く爆に会えるのかもしれない、という2つで。
 カイは絶対激を起こさないよう、そうっと支度を始めた。




 ばたん、と極力衝撃を抑えて、ドアが閉まる。
 激はそれをのほほんとした面持ちで聴いていた。
(気ィついたな。オッケーオッケー)
 どうせ厄介なライバルが増えるに決まっているのだ。自分でも手に余すヤツも居るし(雹)。
 それに一々正攻法で相手にしてたら、きりがないしそもそも太刀打ちできない事もあるだろう。
 時には策を労じて相手を嵌める事もしなくては。
(まー、あいつの場合ちょっと暴走するかもしんねーけど、その辺は爆に操縦を任せるかー)
 無責任という言葉を貼り付け、激は二度寝を満喫した。




 朝早い学校は、何となく新鮮なイメージ。ぴん、と背筋を伸ばしたい気分だ。
 何処かの教室で、何かのクラブか、演奏しているのが聴こえる。
 ここまで来た時間を逆算して……留まってられるのは、だいたい45分……いや、粘って1時間か。
 爆の登校時間と、上手い具合に重なってくれればいいが……
 そもそも、今居る東門に来るかも怪しいが……
 ……こっそり西門にも行っちゃおうかな……
 いやいかん!それでは師匠と同レベルではないか!
 混乱してるのか、さり気に師匠に酷評して、誰も居ない校門にて悩むカイ。傍から見て、すごい不審者。
 こんな所で時間を潰せるものもなく、校門に凭れて足元を歩く蟻の行列をんぼけーっと見ていた。
 程よい気温で、足りなかった睡眠時間を補うかのように、睡魔がカイを襲いつつある。
 そんなカイだったから、一瞬夢だと思った。
「……カイ?」
 自分を呼ぶ声が。
「カイ?」
 声がする。自分を呼んでいる。
 この声は。この声は------!?
 あどけない顔をして、爆がきょと、とこちらを見ている。
 自分を、見ている。
 他には誰も居なく、車さえ通っていない。どこか、非現実的。
 まるでこの世に2人きりになったような。
「爆殿…………」
 奇跡とか、運命とか偶然とか。
 そんな陳腐な言葉がカイの頭を巡り、最後にはっきりしたのは、爆という存在が、自分にとって非常に重要なのだという事を、改めて思い知ったのだった。




 そんなドラマチックな雰囲気に酔いしれていたカイだったが、次に発せられた爆のセリフに、一気に現実に戻る。
「なんでこんな所に居るんだ?」
「…………」
 爆にそう訊かれるという事をすっかり失念していたカイは、思いっきり動揺した。
 な、なんて答えればいいのやら……
 普通に待ち伏せしていたと言えば、絶対に思いっきり引かれる。というかむしろ気色悪い。
 カイ、ここにきてようやく自分の行動の奇怪さを思い知る。そもそもの発端は師匠だったよね、とそんなに遠くは無い昔を思い返す。
「ば、爆殿も朝早く………」
 いいわけやごまかし以外の何でもないセリフを言う。上手い理由を思いつく時間稼ぎの為だ。
「あぁ、今週は飼育当番なんだ」
「そうなんですか」
 うさぎやらにわとりの世話をしている爆を想像して、なんだかとてもほのぼのする……場合ではない!
「で、どうしてお前はここに居るんだ?」
 ここはなんとか上手い事日常会話程度な事で場を濁して、出直そう。うん。そうしよう。
 よくわからないまま、混乱しかけてるままにカイは決めた。
 そして、カイが言う。
「あの………」
 何か適当な事、適当な事!と考えながら言った結果。
「その、貴方に、どうしても会たくなってしまって」
「……え?」
 思いっきり、告白してしまっていたという。
 キーンコーン、と在校生ではないカイには解らない、けれど何かを告げているのだろう鐘の音がその場に響く。




<END>





次で再会&告白偏が終わり……かな?爆視点を入れればプラス1話ですけども。