普段のカイは、呆れるくらい待ち合わせの約束を守るヤツだ。爆が待ち合わせ場所でカイを見なかった時がない程だ。
が、今日だけは事情が事情なだけに時間より前、というのは難しかったみたいだ。
待ち合わせは、学校の外の自然公園の東屋で。
1人、腰掛けて相手を待つ。
そろそろ、こちらへ向かっているのだろうか。
それとも、まだ、と相手に強請られてそれをかなえているのだろうか。
「………まぁ、いいけどな」
ぽつり、とそんな事を呟く。
もっと速く走ってくれればいいのに。カイは自分の足を呪った。
学校と公園は、そんなに遠くない……が、思いっきり近いわけでもない。なまじ、時間が掛かっているという事が腹立たしい。
目的地が見えた。そこにある人影は、間違いなく。
「爆殿!!!」
振り向いた爆の顔は、そんな大きな声で呼ぶな、と言っていた。
ラストスパートと速度をさらにあげ、仕舞いには、爆の元へ駆け寄った時には転がるようだった。
「……………」
文字通りの全力疾走で、カイの息は上がりきっている。言葉を声にするのもままならない。
「そんなに急いでくる事はないのに」
そんなカイを見て、冷静に言う。事実、約束に遅れた訳でもない。
「ですけど、………っ………」
まだ、呼吸は整わない。
「もっと居てやれば良かったのに。オレは全然構わんぞ」
爆が言った。
「そん………」
爆のセリフに、ざ、と青ざめる。
やはり、他の人となんて浅はかだっただろうか。自分は、無意識に許してくれるだろうと、相手に高を括っていたのだろうか。
でも、今回他の人を隣に並べて、解った。
自分は、爆じゃないと。
そうでないと、自分でない。
「爆ど……!」
「なぁ、どうしてオレが貴様と付き合って居るか、考えた事があるか?」
唐突な質問に、カイがセリフ半ばで黙る。意味を掴めかねて。
「オレも今まであんまり気にした事はなかった。
けどな、他のヤツと楽しそうに並んでいた貴様を見て思ったんだ。”どうしてこんなヤツと居るんだろう”と」
別に楽しそうでは、といいかけたが、とりあえずこの場は伏せておいた。セリフの続きが聞きたい。
「どうしてもへったくれもないんだよな。オレがお前と居るのは、お前がオレを好きだからじゃなくて。
オレがお前を好きだからなんだ」
「……………」
だから、と続ける。
「オレの性格は知っているだろう?自分の事は何でも叶えてやる。
貴様が他の誰かを好きになっても、またオレに惚れさせてやる。
それだけだ
「…………」
ずるずると。その場にへたり込む。なんともいえない笑み----区別すれば、おそらく苦笑に近い。
「貴方は……どうしてそんなに、自信満々なんでしょうね?」
自分は今日、気が気でなかったというのに。
「別に自信なんて無い。自分に正直だけだ」
「それが自信、ですよ」
深く深呼吸をし、やおら立ち上がる。
「折角ですが、その覚悟は不発に終わりそうですね。
----私は、他の誰にも想いを寄せる事はありません」
「さぁ……どうだかな」
「証明、しましょうか?」
悪戯に言ってみれば。
その返答に、顔を赤くしたのは、カイの方だった。
さて。次の日。
爆の公演を(また)見る為にパイプ椅子に腰掛けるカイ。と、その隣にハヤテ。
「あ〜、爆殿大丈夫でしょうか……」
「何言ってんだよ、一昨日立派にやってただろうが」
あほか、とそう呟けば。
「いえ、まぁ、その時とは条件が違うと言いますかなんと言いますか………」
言いよどむカイの表情が、何故だかとても蕩けきっていた。
ハヤテはその表情を見て。
「………まさか、お前!」
「ははは」
「ははは、じゃなくてまさか!」
「はーはははははは」
「笑ってないで、オイ!もしかして最後まで!」
「ほらほら始まりますよハヤテ殿ー」
「……何だか俺は今世紀最大の悪事を見逃したような罪悪感で一杯だ………」
緞帳が上がり、シスター姿の爆を複雑な表情で見るハヤテだった。
<END>
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