違う誰かを隣に置いて、本当に普通にデートしているような相手に覚えたものは、何だったのか。
色んな物が混ざり過ぎて、一言では言えないようなもの。愉快なものでないのは、確かだ。
どうして、今まで自分はあんなヤツと一緒に居たんだろう。
考えてみれば、すごく単純な事だった。
「ハヤテ……大丈夫か?」
「大丈夫でしょう。痣くらいで済むように加減はしてありますから」
自分に代わって答えるデッドに、嘘だ!それくらいじゃすまない衝撃だった!と、ダメージから回復してないばかりにそんな事すら言えないハヤテだ。
デッドのクラス主催の、おそらく学園内1で容赦ないゲームの「狙撃」。ハヤテは面白いくらいにボールにぶち当たった。ライブなんて大爆笑だ。
(訊いてはなかったけど……この企画立ち上げたの、デッドなんじゃ)
それがむしろ当然に思えてきて、恐ろしい。
「ちなみに誰が何個当たって当たってないかは、随時5人を表示しておきます」
「全弾命中のハヤテはずっと載ってるねー♪」
「…………」
生き恥である。
「全く、あれくらいで情けないな」
と、言う爆はハヤテと同じ速度で行い、全部避けたので何かの品物を貰っていた。
「どーせ俺はどじでのろまな亀だよ……牡丹じゃなくて豚だよ……飛べない豚は、ただの豚だよ……」
「あほな事呟いてないで、さっさと行くぞ」
へたり込んだハヤテの腕をぐいと引っ張り、起き上がらせる爆。
「……………」
「どうした?」
爆は何だかとてもさばさばしていて、さっぱりしたような顔をしている。
それに、本来とは違う、不安という感情がハヤテに芽生える。
カイがハニーと並んでいるのを目撃したあと、爆は、もう吹っ切ったという。
言葉を表面だけで取れば、それは別れる決心をしたととれなくもない訳で。
「----頼む!別れないでくれ!」
「は?」
ゴメズ!
「何を誤解を招きそうな事を言ってるんですか」
縋りついて懇願するハヤテの頭頂部を、容赦なく拳を叩き込むデッド。
「どうしたのー?またトリがいらん事言った?」
「いらん事じゃねぇよ!重大かつ死活問題だよ!
「こういった問題に、第三者が口を挟むべきじゃないんですよ」
「第三者で終わらせてくれねーんだよ確実に1名がー!!」
双子の言葉に、ハヤテが突っ込んだ。
ちなみにその確実な1名は、同刻くしゃみをしたという。
「なぁ、爆!俺を助けると思って、あいつとは別れないでやってくれー!!」
「それが理由だったら、いよいよカイさんと付き合う動機が無くなるじゃないですか」
「うわぁ!俺の命価値低い!!」
「あははー、今頃知った?」
笑顔で人を傷つけるライブだった。
「あ」
「どうしたの?爆」
「時間だ。行って来る」
「時間……?」
「カイとの、だ」
ざ、とハヤテの顔が青くなる。宣告の時はひしひしとやってきて、ついに現在となったのか。
「爆、本当に、思い直しへぐぶッツ!!」
デッドの回し蹴りが綺麗に決まる。
「爆ー、カイによろしく言っておいてねー」
「僕からも、是非」
軽く手を挙げて、爆はそれに返事をした。
「おおおぉぉぉぉぉ〜、爆ぅ〜」
俺の命もここまでかーと涙に暮れるハヤテ。もう、哀れ過ぎて踏みつける気にもならない。
「全く、さっきから何を喚いているんですか」
「本当、本当」
「バカヤロ。お前らは本気になったカイを知らないからそんな事が言えるんだ……お前ら、映画の「大魔神」なんて知らないだろ……」
しかも、デッドやライブなら抗い反撃すら出来るだろうが、自分では無理である。
「どうしてカイさんが怒り狂うんですか」
「だって、あんなに大好きな爆と別れるとなったら……」
「ですから」
デッドが物分りの悪い子どもを相手にするように、言う。
「どうして、そうなるんです」
「……………」
ハヤテは、その言葉の意味を考え。
「……え?」
と、声を上げて。
「そうそう」
と、ライブがその肩を叩いて補足する。
「僕らが何も行動してないって所で、解ってよね」
「えぇぇぇ?」
とても悔しいことだが、とデッドは思う。
爆にとって幸せな結末は、カイにとってもそうなのだ。
約束の時間になった。終われば、長いような短いような。
隣に居る人がいつもと違うだけで、時間間隔すら狂ったような錯覚。
校舎と校舎の間の中庭。その2つの校舎は学園祭で使われない場所なので、此処は一種の死角となっている。
「今日は、本当にありがとうございました」
ハニーが深々と頭を下げる。
「いえ、そんな、」
「そして、ごめんなさい」
カイのセリフを途中で遮り、唐突な言葉を口にした。
え、と黙ったカイへ、真実を伝えた。
「転校するなんて、嘘だったんです」
「な………」
とても、嘘をつくような子には見えないのに。ショックだったのはそれに対してなのか、爆と居られなかった事なのか。
ただただ固まるカイに、ハニーはいたずらっ子な笑みで続けた。
「こうでも言わなきゃ、してくれなさそうでしたから………」
「あの、」
彼女は率先してうそをつくタイプではない。断じて。
ならば。
「どうして、そこまでして、私と一緒になんて?」
「カイさん、自分の事に気づいてないんですよ」
ハニーは少し苦笑して。
「実は、結構女子の間で人気が高いんですよ?
ちゃんと女の子を気遣ってくれるし、掃除の時とかもさぼらないし……
ちょっと不器用すぎるくらいに真面目でそれで損な目に遭ってたり、一つの事しか見えないで直進したら何時の間にか道を大幅にずれてたりする一面も見られますけど」
「……………」
ハニーは人を見る眼がとてもある……と、カイは思った。
「でも。私、そんなカイさんが好きです。
けど、もう想う人があってこその、カイさんなんですよね」
本当は、この時、自分のほうへ気持ちが傾いたなら、と、思わなかった訳でもない。
しかし、一緒に居て改めて思ったのは、この人は本当にあの人が好きだという事だけだった。似たような人影とすれ違う度、自分の手前あからさまにはっきり振り返りはしないけど、意識ははっきり向いていた。
それが気づかない自分であれたなら。愚かなくらい迫って無様なくらいにふられて。
目の前のこの人を、嫌う事が出来たのだろうか。
「-----はい」
ハニーがそんな思いに浸ってるとは知らないカイは、今までとは雲泥の差くらいの笑顔で言った。
「爆殿あっての、私ですから」
「…………」
こんな笑顔で言われたら、恨む気にもなれない。両方も、自分も。
「爆さんにも、謝っていてください」
「はい」
カイは最後に頭を下げて、走っていった。
何より想う人が、待っているだろう場所へ。
<END>
|