ポン!ポンポンポン!!
コルクの弾に当てられ、品物が次々と倒れる。
「お見事ー!全弾命中ッ!!」
店番係りの学生が、鐘をがんごろ鳴らしてデッドの偉業を称えた。
得物の他に、全部命中の記念品も貰い爆達一行は射的場を後にした。何ゆえ「場」なのかと言えば、複数のクラスがかち合ったため、いっその事、と一角でまとめたのだった。
「すごいな、デッドは」
爆が薄っすらと尊敬の眼差しを送る。
「アニキって、何気に色んな事が出来るよねー」
「それほどでもありませんよ」
なんて、和やかに話すのだが、ハヤテと言えば先ほどの全弾命中の光景が、、どうにも恐ろしくて背筋が冷たくて堪らなかった。何故だろう。
「爆くん、欲しいものはありますか?」
デッドが、取った物を爆に見せる。
「お前が取ったんだろう?」
「こんなには、いりませんから。それに、どちらかと言えば射撃する事自体が好きなので」
後半のそのセリフでやっぱり寒気のするハヤテである。
「じゃーさー!次はおばけ屋敷でも行こうよー!」
「定番だなぁ」
「多目的ホールでやるんだって!」
「あそこは大分広いぞ?全部使ってるんだろうか……」
「またどこかのクラスとの共営じゃないですか?」
わいわいと話ながら歩いていく。
さて。到着。
「あぁ、結構並んで-----」
何時の間にやら先頭に立っていた(会話に入り損ねた)ハヤテが呟き。
途中でそれをやめて回れ右をした。
「ほ、ほら、並んでるからどっか違うのにしようぜ!うん、それがいい!!」
いきなり挙動不審になったハヤテに、えー、と不満な顔をしたのはライブで。
「何言ってんだよ。どこもこれくらい並んでるんだから、そんな事言ってたら……」
ライブの言葉も尻すぼみになる。
ライブが気づいた。と、いうことはデッドも気づいた。爆も気づいた。
その、並んでいる列に。
カイが。ということはつまり。
「……………」
針の筵に座った気分というのはこんな感じだろうか……
言いだしっぺはライブだというのに、ハヤテは後ろめたい気分で一杯だ。
「行くぞ」
と、言ったのは爆だった。
「いらん気遣いさせても、可哀想だろう」
とても普通に、いつも通りの爆だ。ハヤテには、それが何か恐ろしい出来事の予兆に思えて仕方ない。
「ば、爆…………」
「もう、吹っ切った」
「!!!!」
あっさり吐かれたセリフに、人事ながら戦慄する。
「ば、」
「そーだよ、爆!そーだよ!もう今まであった事も全部忘れちゃって、あそぼーよー!!」
「……………」
カイ、お前………
とんでもない事になってるぞぉぉぉぉぉぉ!!と、背後に向かって精一杯念を飛ばすのが、ハヤテに出来る最大限の親切だった。
以前バイトしていたカラオケ屋は、1Fがゲーセンだった。
待ち合わせの時にはよくそこで爆は時間を潰していて、ある時には「心臓の弱い方はご遠慮願います」と文句が謳うシューティングゲームを平然とした顔でやってたなぁ、と、おばけ屋敷の列に並びながら、カイはつらつらと思い出した。
しかもそのゲームが、業界レベル5にあたるくらいの凄さのブツだったので、カイは中々声が掛けられなかったという。
(爆殿だったら、この程度のおばけ屋敷、ジャンボ機の前の紙飛行機みたいなものだろうな……)
ふと、服が引っ張られる感触を覚えた。
ハニーだ。
「……あ、こういうの苦手でしたか?」
「い、いえ、大丈夫ですから」
しかしそういう顔は真っ青だ。
「でも………」
「大丈夫ですから!」
強い語調になり、一瞬の注目を集める。それに、ぱっと紅潮して顔を伏せた。
「おばけは苦手なんですけど……おばけ屋敷には、入りたいんです」
矛盾するような言い方だが、恋に恋するお年頃としてはまんがにあるようなデートをしてみたいのだろう。
「そうですね、大丈夫ですよ。所詮は学園祭のものですし、いざとなったら反撃してやりましょう」
にこ、とそう笑いかけながら言うと、可笑しそうに噴出した。
こうして付き合うのは今日一日だけだから。転校するというのだし、せめてもの手向けにしてやりたいと思う。
と、その時、カイはものすごい寒気に襲われた。
「ッ……!!?」
「どうかしましたか?」
「い、いえ………」
言うまでも無く、ハヤテが念を送った瞬間である。
「な、なぁ、お前、さっきのマジかよ」
デッドライブ兄弟が用を足している隙を狙い、ハヤテが話掛ける。
「さっきの、とは?」
「カイの事、もう吹っ切った、とか何とか………」
あぁ、あれか、と言う爆はやっぱり普通に見えて、ハヤテにはその奥底が知れない。
「別にいいだろう?それより貴様はデッドの事でも考えたらどうなんだ」
「確かにそりゃそーなんだけど!でも!お前とカイが決定的に決裂すんの見てると、なんだか未来予想図っていうか自分の事みてーで落ち着かなくてさっきから胸の動悸が……!!」
それはもしや、デッドが対カイように開発している呪いの実験台にされてるからではないのか。
「本気の話でどうんなんだ。もう、カイの事なんて味噌汁の其処に溜まった大豆のカスみたいにどうでもよくなっちまったのか?」
「例えがさっぱり解らんが……まぁ、所詮何だかんだで他人だからな。自分の好き勝手にやってればいいんじゃないか?」
けろっとしたその顔がハヤテは怖い。とても怖い。
上手く説明できないが、ここでちゃんとフォローして仲を取り持たないと、とんでもない事になりそうな気がする!ていうか確実な未来として自分にとばっちりが来る!
「でもな、爆、あいつはあいつなりに精一ぱ、ぐほぅ!!」
「爆ーv待たせちゃったねー♪」
せっかくの機会に何野暮な真似しやがんだという想いの丈を込めたライブの拳がハヤテの横っ面にめり込む。ハヤテは、ライブの爆への想いの強さを痛いくらいに思い知った。
「ライブが、ファンにサインねだられてたんですよ」
「あぁッ!アニキ!それは内緒って言ったじゃない!!」
爆を気にしながらライブが言う。
「さすがに地元のアーティストは違うな」
「そんなぁ。僕の歌なんて、皆爆へのラヴ・ソングだよぅ」
ラブ、でなくラヴ、と発音したライブだった。
「さ!早く次に行こうよ!」
にっこり笑って差し出す手を、これまた笑って握り返す爆。
デッドはそれを微笑ましく見守って、ハヤテは蒼白になるばかりだった。
<END>
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