カーニバル・サプライス





 さて。学園祭当日。
 とりあえず今日は生徒のみの開催である。
 劇などの催し物は今日と、明日か明後日の2回、各クラスに公演がある。
 で、早速初日の今日、早速カイはそれを見て、舞台裏に入ろうとしてピンクに強烈な蹴りを貰った。全くもって懲りないヤツである。
 本当は、そのまま並んで帰宅……したかったのだが、明日を控えているカイは、それの準備に追われている。カイ達の模擬店は、カフェをすると共にクッキー等の販売もする。それのラッピングをしないとならない。
 今日1日で、どれだけリボン結びをしたか、数え切れないカイとハヤテだった。
「あーあー、もう完全真っ暗じゃねーかよ」
「秋の日は釣瓶落とし、ですね」
 理想とはかなりかけ離れ、現実のカイはハヤテと下校した。デッドは準備するだけ準備して、爆と一緒にさっさと帰ってしまった。切ない話だ。
 靴を替え、昇降口を潜ろうとした時。
「あ、あの」
 とても控えめな声がした。誰が誰に向けたものかは知らないが、反射的に振り返る。
 おそらく声の主だろう、その女子は、はっきりカイへと視線を向けていた。
 私?とアイコンタクトでハヤテに訊く。じゃねーの?ハヤテもアイコンタクトで返事をする。
「す、少しいいでしょうか………」
 消え入りそうな声で、カイに言った。




 カイはその子に見覚えがあった。いつかの時、委員会が同じだった。
 ハニーと言って、セミロングの可愛い女の子だ。
「…………へ?」
 カイは間抜けな声を出していた。責めないで欲しい。人間、自分の範疇を超える出来事に対面すると、大体こうなる。
「だめでしょうか……」
 おずおずと言う。
 カイは、言われた事をあたまの中で反芻していた。

”明日の文化祭、一緒に回ってください”

「…………え?」
 カイは、またそんな声を出していた。




 で。カイは。
「……オーケーしたんですか」
 文化祭一般公開1日目。の朝。
 とある学校内の一角は、秋を通り越し、冬だとしても異常なくらいの冷気に包まれていた。
 発祥はデッド。向けられているのはカイ。
「…………」
 怖い。デッドがとても怖い。
 今までデッドの事を怖いだなんて思う事は多々あったが、今の恐怖を10としたら、あんなもん3か、いいところ4くらいだろう。
 それほどまでに、怖い。
 何だかんだで、色々妨害したり呪ったしするものの、本格的な破壊工作にまで至ってないのは自分達の事を認めているからだろう。
 それを考えると、自分がした事はそれへの信頼と、何より爆への裏切りと取られても可笑しくない。
「いや、デッド。カイも事情があるんだよ」
 あまりの恐怖に凝固してしまったカイに代わって、不可抗力で話を耳にしてしまったハヤテが言う。
「相手の子がな、もーすぐ転校しちまうんだとよ。学園祭といや学校イチのイベントだろ?それで思い出作りたいって言われて、断れる訳ねーだろ」
「そこを断ってこそじゃないですか……?相手が居るのだとしたら………」
「……………」
 メデューサと言う怪物に睨まれると、石化するという。
 神話や伝説に何かしらの真実を後世に伝えようとしているものだとしたら、これはきっと恐怖で人が硬直してしまう事を教えているんだな、と、デッドに睨まれたハヤテは思った。
「あの、爆殿……」
 カイが恐る恐る爆に言う。
 ある意味、デッドより爆の反応の方が怖い。
 怒るだろうか。それとも、行って来いと言うんだろうか。
 とりあえず、約束を反故した事を謝ろうとした。
 だが。
「謝るなよ」
「…………」
「相手に失礼だろう」
 その時、開催のアナウンスが流れて、カイはハニーとの待ち合わせ場所へと向かった。




 ここの学校は制服だが、文化祭の日は普段着の着用が認められている。
 カイが最初に見たハニーは、この日の為に必死に選んだコーディネイトなのだろうと、見ただけで解るものだった。
「お、おはようございます……」
「あ、いえ」
 頭を下げられ、慌ててカイもする。
「えーっと……とりあえず、適当に回りましょうか」
「はい」
 と、言ったハニーはとても顔が真っ赤で、一杯一杯なのがとてもよく解る。
 カイの半歩後ろをついて歩く。
 いつもと位置が逆なので、なんか落ち着かないカイだった。




 とりあえず今日は自分のクラスが公演でなかった、と、爆は思った。
 今の心境で、とても芝居なんで出来る訳がない。
 自分の気持ちが、よく解らない。
 カイが、その誘いを断っても承諾しても、どっちにしても怒ってそうだ。
(どうしたいんだ、全く……)
 こんなに自分の事が解らなくなったのは、初めてなんじゃないだろうか。
「ぃやぁっほ〜!爆ー!!」
 デッドとちょっと似た、そして持っているものが全部正反対なライブが人ごみを掻き分けやって来る。
 そう言えば、来ると言っていたな、と、ぼんやり思い出す。
「やー、アニキ!今朝ぶりだね!」
「そうですね」
「そしてかなり久しぶりだね、不幸の代名詞」
「ははは………」
 違うわー!と即座に突っ込めない身の上が悲しい。
「……そう言えば、今日、雹さんは来ないんですか?」
 気になったデッドがハヤテに尋ねる。
「あー、今日は仕事の都合で来ねぇってさ」
「仕事って、何ですか?」
「いや……俺もいつぞや訊こうとしたんだけど……『訊きたい?』って言った時の表情見て、訊けなかった……」
 思い出し青ざめをしているハヤテだった。
 ちなみにライブはその反対で、明日は来れない。混戦は免れそうだ。いつもならまだいいのだが、今日の爆には。
「爆ぅー!おはよ!」
「あぁ、おはよう」
「………」
 ライブは、爆の異変に早速気づいた。デッドの双子だというのは、伊達ではない。
「あのさ、さっき入り口でパンフ貰ったんだけど、一般参加自由のかくし芸大会があるんだってね」
「えーと、確か生徒会が主催してるやつだな」
 在校生である爆は、すでにだいたいの催し物は頭に入っていた。
「僕、それに出ようかなー。即興のラブソング歌うんだ。勿論、爆へのv」
「……止めろよ、そんな真似」
「あははー。どうだかねー」
「止めろ!本当に!!」
「あ、爆、屋台が一杯あるね。何から食べよー。最初は甘いのからかなー」
「おい!答えろ!」
 いつもみたいなやり取りに、ちょっとハヤテもほっとした。




 と、いう具合にライブと爆が和んでいる時。
(………何か、凄い嫌な感じがする……!)
 校舎すら違うというのに、カイのレーダーは何かを確実に感じ取っていた。
 いつもならすぐにでも飛んで行く所だが。
 会話も無いまま、時間が過ぎた。間がもなくて、カイは何か気を紛らわすものはないかと、視線を巡らせた。
「あ。バルーン細工をやってますよ、あそこ」
「あぁ、本当ですね」
「ちょっと、寄って行きましょうか」
 カイが言う事に、素直に頷くハニー。
 100円を払い、出来るもの、と書いてあるメニューの中でうさぎを選んだ。
 キュ、キュ、と割れるのでは、というような音を立てながら、細長い風船はうさぎに変った。
 その様に、ハニーがわぁ、と感動して拍手している。
「はい、どうぞ」
「え……」
 風船を渡され、一瞬戸惑うハニー。
「で、でも、カイさんが……」
「いいですよ。貴方の方がとても嬉しそうに見てましたから」
「あ………」
 ぱ、と、また顔が赤くなる。
「あ、りがとう、ございます……」
 受け取り、とても大事そうに腕に抱える。
「……………」
 慣れないなぁ、この雰囲気……と、カイは困ったように苦笑した。




<END>





どこの誑しだお前!!(壁を蹴りながら)

カイVSライブVS雹様、って構図を期待してた方には申し訳ない!でもこれは突発でなく計画ですから!
あ、閑も居たなぁ。どうしよう……出そうかな……でも出したらカイがいよいよ立場無いな……

とりあえず、続きます!