「遅ればせながら、ようやく僕のクラスも出し物が決まりましたよ」
下校時、デッドがぽつ、と言い出した。
それに食いついたのは当然にハヤテで。
「へー、何やるんだよ。俺絶対行くから!」
はしゃいでいるのが手に取るように解る。
「何をやるんだ?」
隣で意気揚々としているハヤテはさておき、デッドは爆に向き直る。
「はい、”狙撃”です」
………………
「狙撃?」
カイが問い返す。
「はい」
「射撃じゃないんですか?」
「いえ、”狙撃”です。
身体張ったバラエティー番組でよくある、平均台の上を渡ってもらって、その際にバレーボールを機械で打ち出して、渡りきったらオーケー、というものです」
にこり、と微笑んで言うのが恐ろしい。
「……そんなのに来るんですか?」
恐る恐るカイが尋ねる。
「お祭り気分に便乗させて、いい所だけを上手く振り込んで集めますよ。
専ら、客は好きな人の前でいい格好したい、しかし自分に何の特技の無いという人種をターゲットに狙います」
「……………」
何か、人が集まりそうでかえって怖い。
て言うか。
(俺、さっき行くって言っちゃったし……)
”命の危機”という言葉が点滅する。
「ハヤテ」
デッドがくるり、とハヤテを見やる。
「来てくれるんですよね。待ってますから」
「………………」
デッドに待っているといわれるのなら、例え社交辞令でも嬉しい。命の危険が少なかったら。
そんなハヤテにカイがそっと語りかける。
「すいませんハヤテ殿。私、爆殿と楽しんできますので骨を拾う暇もありませんから」
「は、は、は」
何で人って極限状態だと笑うことしか出来ないんだろう、って思うハヤテだった。
(まぁ、普通によろける程度の衝撃で済むバージョンもあるんですがね)
でも折角だから、ハヤテには最高威力で挑んでもらおうと決めたデッドだ。
で。
学園祭まであと5日。劇をやる所はリハーサルを。飲食店をやるものは揃いの衣装が出来上がる。
カイのクラスは喫茶店経営だから、ユニフォームは男子は腰から下の黒いギャルソンタイプのエプロンだ。女子はオレンジのやっぱり腰から下のものだ。胸元まで作ると生地代がかかるのだ。上は制服のシャツ。そして、頭はスカーフで巻く。
「わー、出来ましたねー」
出来上がったエプロンを身に着けるカイ。初めて着るので生地はとてもパリッとしている。
「アンタら規格外の体格で、生地代他の人より多くかかっとるんやから、その分しっかり稼がんと承知せぇへんで!!」
「わー、世知辛いー」
アンタ”ら”になったのはハヤテも含まれるからである。
「あ、ちょっと抜けてもいいですか?これ着たままで」
「万一傷つけても直すのは自分やからかまへんよ」
労わりもそっけもない返事だ。
ともあれ、許しが出たので、カイは行くのだ。
当然、爆の所へ。
「……本当に着るのか。これを」
「本当に着るのよ。これを」
はー、と空気より重い溜息を吐く爆。その手には、劇で着る衣装があった。繋ぎの黒いスカートに白いシャツ。金髪のかつらまであった。
「一度承知したんだから、今になってうだうだしない!ほら、サイズ違ったら直さないとならないんだから、とっとと着て着て!!」
「解った解った……」
煩いピンクを諫め、スカートを身に付ける。ピンクとしては完全装備して欲しかったのだが、サイズ合わせならズボンがあっても構わんだろう、と断固拒否した。
そして着たのだが……なんだか、右の靴を左足に履いてしまったような、もの凄い違和感だ。
「肩とか、突っ張った感じしない?」
「いや、特にはないな」
シャツは自前なので、これで衣装合わせ完了。
「じゃ、脱ぐぞ」
「本番だと、不特定多数に見られるっていうのにねぇ」
何をそんなに照れるのか、とピンクが思っていると。
ガララ。
「爆殿ー!見てください、ユニフォームが出来たんですよー!!」
めっちゃ能天気な声がした。勿論カイだ。
「………………」
最悪な時に最悪な人が来た、とはこんな場面を指して言う。
沈黙がその場を制した。
「…………ッ!!爆ど、」
バスゴーン!!
爆の姿を見て、感極まったカイが抱きつこうと足を進めた瞬間、その後頭部に何故だか高速球で来たバレーボールが飛んできた。
こんな理不尽な真似が出来るのはそう居ない。
「あ、デッドさん」
と言ったのはピンクだ。
「ふぅ、危ない所でした」
額を腕で拭い、バレーボールを打ち出す機械(名前忘れた)をどうやってか持ち出したデッドが其処にいた。
ともあれ、こんな雰囲気の中、もうすぐ学園祭である。
そして結構どうでもいい事ながら、カイに続いてデッドに見せようとしたハヤテが、上の一連の一部始終を見ていて、その光景に驚愕していたのだが、誰も気づかれなかったという。
<END>
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