「そういう事で、我がクラスが抽選で飲食店の権利を手に入れた。今回のHRでは、早速メニューを決めたいと思う」
級長であるジャンヌの言葉に、クラス中から歓声が上がる。
何せ小中高合併校なので、コンロや配置等の都合上、全てのクラスが飲食物を扱える訳ではない。なのでこうして、規定以上の数の申し出があった場合今回のように抽選となる。と言っても大概はずれになる方が少ないのだが。
むしろ、だからこそ当たった場合が嬉しいのかもしれない。
ちなみに飲食店が出来るのは、中等部3年以上である。
事前に配られたアンケートの欄には喫茶店と書いたハヤテは、それはもう大はしゃぎだ。
「やっぱ学園祭と言やぁ喫茶店だよなぁ!カイ!
ってめっちゃテンション低ー」
「はぁ……もう、そんな時期なんですね……」
と、センチメンタルに呟き、枯葉散るすぐ横の樹に眼を向ける。まるで「最後の一葉」の主人公のように。もしそのままだったのなら、デッドあたりが枯葉を強制的に散らす所か、その樹に火を付けるだろうが。
カイがこんなにも憂鬱なのは、去り行く季節を惜しんでいるからでは、全く無い。当然爆に関しての事で、原因となるのは、今まさに皆がウキウキと企画立てている学園祭だ。
学園祭は10月最後、または11月にかけた週末に行われる。金・土・日と開催され、金曜日は生徒だけの学校内規模なのだが、カイが悩んでいるのは土日の一般公開である。
「……絶対来ますよね、あの人達………」
ふふふ、と影を背負って含み笑いをするので、ハヤテはとても嫌な感じだ。が、カイの前に席になってしまった運命-----いや、宿命に甘んじて、我慢してもらう事にしよう。
カイの言うあの人達と言うのは。
デッドの弟・ライブに、ハヤテの同居人・雹である。他にも色々居るが、この2人が表立った実害があるという点では、ある意味最も危険であった。
しかも喫茶店をやるとなると、ウェイターやら裏方やらでかなり時間を取られ、爆と長く一緒には居られないだろう。
学園祭自体は決して嫌いではないのだが、何だか、こう、こう………それなりに複雑なのだ。青春の名前に相応しく。
「デッドのクラスは、何やるんだろうなー」
ハヤテが呟く。HRの時間は学年統一だ。カイ達の場合、木曜日の6時限目。
「爆は?聞いてないか?」
「んー、この前聞いた限りでは劇をやろうという意見が多いそうですよ」
アンニュイに陥りながらも、爆に関することはきっちり答えるカイである。
校舎2つに遮られた向こう、爆が居るだろう位置へと、視線を投げかけた。
帰り道。
とても珍しく、カイは爆と2人きりになった。デッドとハヤテは委員会の当番があるとの事らしい。
皆と居るのは楽しいけど、爆と2人きりなのは嬉しい。
しかし、かと言ってその衝動に任せて自分に素直な行動に出ると、その後がとても恐ろしいという事を、カイは何度も何度も身に染みて解っていた。
「そうか、カイの所は喫茶店をやるのか」
「はい、割引券とかも作るそうですので、爆殿にもあげますね。友達の分も」
「いいな。オレも学園祭で喫茶店とか、してみたいものだ」
爆は中等部1年なのであと2年待たないとならない。
カイと違って爆は初等部からこの学園に通っていて、学園祭にも参加している。何度も和気藹々とクラスメイトと楽しそうに飲食店を催している光景を何度も見ているので、なお更そう思うのだ。
「お揃いのエプロン作る事になっちゃって、大変ですよ。あまり裁縫は得意で無いので。
あ、爆殿は劇の演目とか、もう決まりましたか?」
「………………」
カイの言葉に、爆はとても複雑な表情になった。
何かクラスで問題でも起きたのだろうか、等とカイは思ったが。
「決まった。ミュージカル仕立てで、「天使にラブソングを」をやるんだ」
「あぁ、尼さん達の話ですね」
そうだ、と頷く爆。
「爆殿は何か役でもするんですか?」
とは言え、カイ自身が言ったように尼さんだらけのストーリーだ。男と言えば牧師くらいしかないのだが。
「……………
どうせ、見に来るだろうから、言うが……」
腹は括った、みたいな顔で。
「登場人物で、尼見習いみたいな、少し格好の違うシスターが居るだろう?」
思い出して、頷くカイ。
「………そいつだ」
「そうで…………
え。」
一拍の間を置き、内容を確認できたようだ。
「当然、音域はソプラノじゃないんだが……皆が悪ふざけて、こんな事に」
はぁ、と苦渋に満ちた顔で溜息を吐く。どうやら、もう決定してしまったようだ。
「…………」
一方、カイは想像する。
修道院の服を着て、舞台で朗々と歌う爆。
……いい。かなり、凄くいい………!!
あぁ、早く学園祭よ来い!と数時間前まで同じ理由でアンニュイになっていた事すら忘れているカイである。
「言っておくが」
じろ、と早速ハイになりかけているカイを横目で睨んで言う。
「写真とかビデオとかに撮るのは絶対禁止だからな!もししたら、暫く顔を見てやらんぞ!!」
「え、えぇぇぇええ!そんな!折角なのに!!」
「煩い黙れ!舞台の上なんだからな!したら、一発でバレるぞ!」
「えー……」
ぺっしょり、と凹むカイ。折角、前の旅行代の残りでデジカメを買う気満々だったというのに。
「爆殿、せめて写真だけは許して下さいよ」
「だめだ。絶対だめだ!」
「一枚!一枚だけ!」
「だめったらだめだ!!」
そんなちょっと馬鹿馬鹿しい交渉をして、帰って行く2人だった。
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