楽しかったなぁ。
現像してきた写真を眺め、旅行の思い出に浸るハヤテ。
明日から始まる新学期からの逃避とも言えるが。
机に肘をついて、暫くそうしていたが。
「……やべ!早く風呂入らねーと!」
時計を見て、椅子から立ち上がる。
風呂から上がったら、明日の支度を整えないと、とちょっとアンニュイニなりつつも。
部屋に戻ると、ドアが少し開いていた。
何かと思えば、雹が入っていたのだ。
他人の部屋に入るな、という常識は雹にはない。この家の全ては自分のもの。まぁ、実際そうなんだけども。
「あのー、何スか?」
極力、機嫌を損ねないように尋ねる。
背後から覗き見れば、写真を手に取っていた。
「あぁ、それはこの前の旅行…………」
「お前--------!!!」
死を覚悟せざるを得ない迫力で、雹に胸倉引っ掴まれる。
「これはどういう事だ---------!!!」
8月31日。夏休み、最後の夜だった。
9月1日。
どことなく、全国的に気だるい雰囲気の漂う日だった。それは校内に留まらず、街にまで蔓延している。
まぁ、中には例外も居る。
(あー、今日からまた爆殿と一緒に登下校〜v)
「……カイ、まだ夏休みボケで浮かれてるのか?」
「いやぁ、ぼけているのは夏休みでなく、色ボケですよ」
例外がそんな事を言っている。デッドは新学期早々、ポケットの中のアイテムを使う事になるのだろうか、などと思っていると。
「………はよ」
ハヤテが、ぼそ、と挨拶をしてきた。
「あ、ハヤテ殿、おはようございます……って、顔色物凄く悪いですよ?」
「本当だ、真っ青だ」
「まるで、何処か別のハヤテみたいですよ」
「-----すまん!!」
ハヤテが謝った。
「はい?」
「すまん!もう本当ごめん!!!」
「あの、いきなり謝られても何が何やら………」
「実は…………」
ハヤテが事情を話そうとすると。
「爆くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!」
なんて声が響いた。
げ!とハヤテの顔色がますます青くなる。
カイとデッドは、訳が解らない。
爆は。
「まさか……!!」
「会いたかったよ-------!!!」
何処から沸いたのも不明に、雹がハヤテをどかんと押しのけ、爆に抱きつこうとした。のだが、持ち前の反射神経でさわりとかわす爆。
そのまま雹は垣根に突っ込んでしまったのだが、むっくりと起き上がった雹の顔や身なりは何ひとつ乱れてはいなかった。
「ふふ、まさかこうしてまた再会できるなんてね……これは何かの……いや、世界が僕らを祝福してくれてるんだね!」
「爆殿、何ですか、この人の話をさっぱり聞かないで何かの義務や使命みたいにただひたすら自分の妄想垂れ流し続ける人は」
「カイさん、自虐趣味があったんですか」
デッドの突っ込みは厳しい。
「でも、灯台下暗しとは、この事だよ……まさか、ハヤテと一緒の学校で、しかも知り合いだっただなんて……しかも旅行までしてたなんて……!!
僕が運よく写真に気づいたからよかったものの、危うく見過ごし続ける所だったよ」
その下りで、カイに睨まれた。だからごめんてさっき謝ったじゃねーか!と涙目で訴えてみる。
あぁ、神様、俺の寿命15年くらい使ってもいいから、この時を早送りで流してください!
カイに睨まれ続けているハヤテは、居るかも解らない神様とやらに命がけで祈った。
「安心してね、爆君。君の事をちっとも僕に教えなかったハヤテは、再会を満喫したあとでぼこぼこのべろべろにしてあげるからv」
わー!やっぱ待ったー!時間よ、止まれー!!!
「再会と言うことは」
収拾がつかなくなりがちな事態(雹はあの調子だし、カイは沸騰寸前だし、ハヤテは脅えきっているし)に、デッドが口を挟んだ。
「2人は、以前に面識があるんですか」
「面識なんてものじゃないよ。恋人さ。運命の悪戯で、引き剥がされた……ね」
「違う!!!!!!!」
沢山の”!”マークを使って、爆が否定する。それにより、雹の発言で燃え尽きかけたカイがどうにか持ちこたえる。
雹は爆のほうを向いて。
「爆君は、恋人でもない人の家に押しかけるの?しかも何回も」
「!!!!!」
カイ、灰となる。
「……本当ですか?」
珍しく、デッドも困惑気味だ。
「確かに何度も行ったが、それは雹が炎に纏わりつくから、それを止めさせようとしただけだ!」
爆が必死になって弁解する。
「………それで、どうなったんです?」
「………とりあえず、炎に絡む事はなくなった」
その代わり、矛先が自分に向かった、ということか…… デッドは、思わず頭を抱える。
試合に勝って勝負に……いや、どっちも勝ってないか……
頭痛なデッドを置いて、雹はまだ語る。
「可愛かったなぁ、あの時の爆君……小さい身体で一杯威嚇して、目上げた瞳は当然上目使い……vv
あの、気丈な感じがイイんだよね」
「それは大変解ります」
「解らないで下さい」
ゴ。
灰から復活した早々要らん事言いのカイにデッドがどつく。岩で。
「爆君、この人の事は好きなんですか?」
「全然」
「そういうことですので、付きまとうのは止めて下さい」
「馬鹿だな。照れてるんだよ」
馬鹿は貴方だ、というセリフは言うだけ霧散しそうな気がしたので、言わずにいた。
「まぁ、仮に好きじゃないとしても、好きにすれば万事オッケーだしねv
何も不安はないよ、爆君」
「何を訳の解らん………」
「ちょっと待って下さいよ」
カイが口を挟んだ。
「爆殿は今私という人が居るんです。貴方の入り込む隙なんて、これっぽっちもないんですからね!」
ば!と爆を雹から隠すように抱き込むカイ。
「爆君…………」
雹は、薄っすら涙を溜めた。勝った!とカイは思った。
が。
「そんなヤツで心の隙間、埋めようとしてたなんて……随分、寂しい思いをさせてしまったね………」
「おーい、止まれそこー」
口調を変えたのは、カイが切れる直前だという合図だ。
「とりあえず、そろそろ授業が始まるだろうから、僕はおいとまするよ。
また、放課後にねv」
バチ☆と爆にだけウィンクをして、雹は去った。
(なんだか、大変な事になっちまったな………)
ハヤテが心の中で呟く。
「……ハヤテ殿………」
鬼もごめんなさいと逃げ出すような、カイの呼ぶ声に、ギクリ!!となる。これの恐ろしいのは、こういう声は爆に届かない事だ。これぞ不思議パワー!!
「後で、色々話があるんですが………」
「僕も、あります」
「………………」
大変な事は、すでにもう始まっていた。
今日は9月1日、新学期。
色んなものが、始まる日であった。
<END>
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