「え、爆もなのか?」
「やっぱり、カイさんもですか」
2人と別れてすぐ、デッドはこういう事になった経緯を説明した。つまり、爆がカイに渡したいものがあるので、当人同士だけにしてあげたいのだと。
それを聞いて、ハヤテの第一声が上のものだ。
「やっぱり、って。知ってたのか?」
「知ってるというよりは、予想ですか。まぁ、限りなく確定に近いものですが。
何かイベントがあってそれの記念を作らないのでは、カイさんではありません」
ハヤテは、そのセリフは褒めてるのか貶してるのかどっちなのかを考えたが、途中で放棄した。
「それじゃー今頃2人して、相手の出方を伺ってるわけだ。
……なんか、面白いな」
「覗きになんて行きませんからね」
「だ、誰もンな事言ってねーじゃねーか!」
慌てる時点でまる解りのハヤテだった。
さて。その2人。
重くはないが、沈黙を通していた。ハヤテの言う通り、相手の出方を図っているのである。
その沈黙の中、爆は考える。
”好き”に理由なんて要らないんだよ、とは言うけど。
どうしてこの人を好きになったんだろう、と訳を探してしまうのが人情ってヤツで。
爆は隣を歩くカイをそっと伺った。
顔は……別に悪くないけど、特別いいって訳でもないし、性格もそんなに要領がいいという訳でもない。
「……爆殿?」
「なんだ?」
「いえ、特には」
何か、自分が注目されてるような気分になったカイだった。それも、あんまりよくない方向で。
爆はとりあえず、平常を装えた事にほっとした。
鞄の中には、カイへあげるつもりの時計がある。
どうして、こんなに好きなのか。一緒に旅行に来て、お土産を買ってしまうくらい。
最初から意図した訳ではないのだ。ただ、物を選んでいたら、自然にカイにあげるものを探していた。そんな自分に、一番驚いているのが本人だ。
むぅ、と人知れず、眉間に皺を寄せる。何で、こんな事で悩まなければならないのか。
さっさと渡して、さっさと済ましてしまおう。
「カイ!」
「は、はい?」
いきなり怒鳴られて、訳が解らないカイ。
しばらく、お互いを見つめ。
「……後で言う」
「はい」
また、歩き出す。
水のテーマパークという2つ名に相応しく、そこらかしこに大小さまざまな噴水がある。ごく普通の物だったり、他国の有名スポットとなっている模型だったり。ローマの”真実の口”もあった。
そんな様々な噴水だが、共通しているという事は、もれなく中に小銭が放りこまれている、という事だろうか。
それらの金は全て寄付に回す、という看板は大きな目だったものだけ立っているが、このパーク内全部の噴水のも回されるというのはパンフレットにきちんと書いてある。
「……何で、ここにはこんなに小銭が落ちているんですか?」
海辺に近い、芝生で敷き詰められた公園内、色のついたレンガで作られた、円形の少し窪んだ広場がある。直径にして、およそ20メートルくらい。中心から12本の色別のラインが伸びていて、その先はタイルで作られた星座のポップなイラストがある。
その中に、カイの言うとおり、小銭が散らばっていた。
「ここも、噴水なんだ」
爆が説明する。
「時間性で、中心から水が吹き上げる。その時、窪んだ所に水が溜まるんだ。その時、投げ込まれるんだろうな」
「そうなんですか」
「時間制のは、ここともう1つ、屋内のがあって、それは上から水が落ちてくるタイプだ」
爆がこんなにも喋るのは、勿論緊張の為なんだろうが、カイも緊張しているので気づくものは誰も居ない。
「噴水は、次はいつ起こるんですか?」
爆がパンフレットを捲る。
「……10分後、だな」
「待ってみましょうか」
と、いう事で、2人は今ベンチの上。2人の前を色んな人が通り、耳には公園内の掲示板から流れる今日の星占いが飛び込む。これによると、今日のカイのラッキーカラーは水色で、爆は赤だそうだ。
5分前。
爆が言う。
「この噴水は、夜はライトアップされるんだ。季節ごとに違って、クリスマスには特別なイルミネーションがつくんだ。今は企画の段階だが、夏休みとかハロウィンにも何か催し物をやるつもりらしい」
「……詳しいですね、爆殿?」
確かに招待客だが、それでも部外者といえば部外者の筈だ。
「ここのオーナーにあたるグループの会長が、こういう情報は惜しみなく公開するべきだ、という方針なんだ。早いうちにCMに流れるだろうな」
「へぇ、いい事ですね」
カイは感心する。
「あと、これは噂なんだがな」
と、爆が付け足す。
「その会長の子供が相当やり手らしくて、グループの上層部は子供を侮る事がどんなに恐ろしいか、骨身に染みているとの事だそうだ」
やり手ってどんな手だろう……とよく解らない事をカイは思ってしまった。
時計を見ると、あと2分。
「もうすぐですね、爆殿……、どうかしましたか?」
「いや……」
ふい、と視線を噴水に向ける爆。
すでに腕時計を持っている相手に、また時計をあげるのは可笑しいだろう、か、と別の問題が浮上してしまったのだ。
そんな爆の気持ちを置いて、時間は進み、ただの地面だった所は噴水となった。
大きな水や小さな水が吹き上げて、まるで王冠のようだった。
その時。
「あー!!」
小さい子供の声がした。何だ、と思って巡らせた視線の先、小さな帽子が見えた。白く可愛いもので、横にウサギのかざりがついている。
海辺である此処は、潮風が来る。それは決して弱いものではなかった。
「ゴムはしてなかったの?」
母親らしい女性が女の子に言う。女の子は、だってイヤなんだもん、と答えた。ゴムが顎に食い込む感触が嫌なんだろうな、とカイは思う。
「噴水が終わるまで、待とうね」
吹き上げる水の傍、小さな帽子がゆらゆら揺れる。あのままでは、噴水の中に入ってしまうんではないだろうか。
爆が立つより先に、カイが立った。
そして、当たり前みたいに歩いて行き、帽子を拾った。水しぶきで、服が濡れる。
「どうぞ」
微笑みながら渡せば、ありがとう、という明るい声が響いた。
”好き”に理由なんて要らないんだよ、とは言うけど。
どうしてこの人を好きになったんだろう、と訳を探してしまうのが人情ってヤツで。
結局全部好き、となってしまうのが結論だ。
そして、特にこういう場面に。
「やー、やっぱりちょっと濡れちゃいましたね」
ずぶ濡れ、とはいかないが、小雨の中を歩いたみたいにカイは濡れていた。髪も、ぺったりとしている。
「まぁ、その内乾きますよね」
上にある太陽は、燦々と照っている。
タオルは持ってきたかなぁ、と鞄を漁るカイに、爆が黙ってハンカチを渡す。
「あ。ありがとうござ………」
「あと、これもだ」
ハンカチの上に乗せられた透明な箱。中には、腕時計がある。
「え………」
「昨日店を色々覗いていて、お前に似合うだろうな、って思ったんだ」
ぶっきらぼうに言い放つ。が、頬が熱いのが自分で嫌という程解る。
「……ちょ、ちょっと待ってください!」
カイが慌てたように鞄を漁る。そして。
「えーと、あの。私も……同じ、でして」
カイの手には、小箱が。
2つの箱はお互いの手を行き渡り、持つべき相手の手に収まった。
駅で、迎えが居たのはデッドと爆。爆には現郎が。デッドの場合、迎えというか。
「アニキ、お土産!!」
催促というか。
早速両手を出すライブに、家に帰ってからです、と躾けるデッドだ。
デッドと爆は改札口の外に出たが、ハヤテとカイは中にいる。ハヤテはここの駅で電車を乗り換えるのだ。
「渡せたんだよな。電車の中から始終ピンクなオーラを出しているかぎり」
「はい、もちろんばっちりです!!ていうか爆殿から貰っちゃいました〜vv」
えへーと早速取り替えて手首に嵌めた腕時計を摩る。こいつに付ける薬はないのだろうか、と思うハヤテ。
「で、そっちはどうだったんですか?」
「いや、どうにも切り出せなくて……でもこっそり鞄には入れといた」
「……………」
カイは考える。
「それ……不審物として、処分されかねませんか?」
身に覚えのない物が入っていたなら。
カイのセリフを聞き、数秒断って。
ハヤテは、は!とその危険性に気づいたのだった。
デッドはあまり話す事は好まないが、ライブが聞く事に随一答えてやる。
「えー!カイのやつ、そんな役得があったの?」
”やつ”呼ばわりされて、同刻、くしゃみをしたカイ。
「何でそんな事許したのさ!」
弟は兄の神秘的な能力を熟知しているもようだ。
「ご褒美……と試験ですね。これで手を出したら、さすがの僕も黙ってませんでしたが」
結果は、爆の態度で解る。爆は、とても嬉しそうな表情だった。
「カイさんも、大人になったという事でしょうかね……」
しみじみと呟くデッド。嬉しいやら恨めしいやらだ。
そんな話を聞きながら、鞄を漁るライブ。
「お菓子は無いのー?お菓子………あ。これ何だろう」
ライブが取り出したのは、細長い箱だった。
「開けていい?」
「いえ、それはこっちに渡してください」
ライブから箱を受け取る。そして、呟いた。
「こっちは、まだまだですね………」
同刻。
誰かがくしゃみをした。
<END>
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