ひょんな事から2人部屋になってしまった。
別のホテルで4人部屋も取れるとの事だったが、明日はもう帰るのだし荷物をこれから移動させるのも何だから、と2人部屋に変えて貰った。
2人部屋。
自分の他には、相手しか居ない。
カイは、大きな窓の外を見ている。
BGMとして、スイッチを何も弄らなければオルゴールの柔らかい音色が室内を温めてくれる。が、その音よりも、カイにはシャワーの音の方が耳につく。
「……………」
外は、昼に散々遊んだ場所が、今は闇に包まれて見える。数時間前の事だが、もう随分経ったような、ついさっきだったような、よく解らない感覚に見舞われる。
荷物は、明日の着替え以外は詰めた。クローゼットの横の鞄を見ると、明日はもう帰るのだと告げていて、寂しい。
ガチャ、と。
バスルームのドアが開く。
中から、水蒸気と共に出てきた。
「おーい、上がってぜー……って何で脱力したんだよ」
「……ほっといて下さいよ」
部屋の組み合わせはカイとハヤテ、爆とデッドであった。ちなみに、お互い向かいの部屋だ。
がしがしと髪を拭きながら、ハヤテが言う。
「そりゃーな。俺達思う事は同じだ。けどよ?それぞれ相手と居て、命の保障が万全だと言えるか?」
「うぅ……そこを突かれると切ない………」
爆といよいよ2人きりで何もしないと断言できる自信と理性が無いカイは、デッド作のくじ引きを引くまでも無く、自らかってハヤテと泊まる事を決めた。ハヤテもまた、同じ心境だった。まぁ、ハヤテは同室でも手は出さないが、カイに向けた余波が掛かる可能性が十分にある。それは、回避せねば。
「ま、何だかんだで楽しい旅行だったよな」
「そうですね……」
そう。楽しい旅行だ。楽しい。
楽しいだけで、終わる。
……当初の目論見なら、この機会に最後までするつもりだったのに……
やっぱり、こういうテーマパークに来たのが間違いだっただろうか。爆は、改めてまだ子供なんだと思い知って。
手を出そうとしている自分がもの凄く悪者に感じた。デッドに言わせれば今更だろうけど。
「てか、お前そんな所で何……何持ってんだ?」
「あ、見ないで下さいよ!」
昼間買った指輪が入っている箱を、さっと隠す。
「隠すなよ」
「隠しますよ!」
「……やる事は、同じだな……」
遠い目をして、ハヤテが呟いた。
え、とカイが訝かむ。
「……まさか……ハヤテ殿……」
「紫水晶のネックレスを、な……」
「……………」
2人はどちらともなく、肩を叩いた。
「結構、買ってしまったなぁ……」
荷物をまとめ、ふと漏らした爆の一言だ。
行きより持つ袋が2つも増えてしまった。
そして。
(これもどうしようか……)
掌にすっぽり入るそれを、爆は見る。
「爆くん?」
「ぅわ!?」
シャワーから出たデッドに呼びかけられ、声が跳ねた。
「すいません、驚かすつもりは……」
「い、いや、ちょっと考え事してたから………」
その時、ごと、と下に落ちた。
あ、と2人の声がハモる。
透明な箱の中、青のサテン地の上に置かれた腕時計。デザイン的に、爆には合わないような気がした。どことなく、スポーティーな感じで。
「……カイさんの?」
確信半分でそう聞けば、う、と言葉に詰まって赤くなる。
「……一緒に旅行に行ったのに、土産というのも可笑しいし………」
もごもごと今まで悩んでいたらしい事を、デッドに告げる。
そんな爆を見て、デッドは。
「………誰かの為に買ったのでしたら、その人に渡した方がいいと思いますよ」
カイとハヤテが居たら、奇跡のようなセリフだ。デッドが、カイの方に回った発言をするなんて。
「それは……そう、思うが」
「でしたら、理由も飾らずに。そのままの気持ちを言って渡せばいいんですよ。何も可笑しな所はありません。渡したいから、渡す。それで、いいじゃないですか」
「…………」
それは解ってるんだけど、という表情な爆。
確かに、4人纏めて行動する限り、渡す機会には恵まれなさそうだ。
その様子に、デッドは少し考えて。
「では、こうしましょうか」
翌朝。
え、とデッドの第一声にカイとハヤテが固まる。
「い……今なんて?」
カイが聞きなおした。
「ですから。今日は4人じゃなく2人づつで回りましょう、と言ったんです」
「2人、2人て………?」
「何度も言わせないでください」
はー、と溜息をつくデッド。
「僕とハヤテ、爆くんとカイさんですよ」
2人は無意識に。
同時に相手の頬を抓っていた。
<続く>
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