丸々一個のスペースが全部水系アトラクションで埋め尽くされている大型プールレジャーランド「マーメイド・ステージ」は文字通り人魚になったみたいに水と戯れる。
此処が今回ハヤテが一番来たい所だった。
マシンガンを模したような水鉄砲で、衣類を気にする事無く、思いっきり相手に浴びせてやるのだ。
「チームを分けよう!」
さっそくレンタルした水鉄砲----水マシンガンを各々持った所で、ハヤテが提案する。ステージ内は混んでいて、ハヤテがでっかい声で提案しても、誰も気にも留めない。
「で、負けた方が今夜のメシ奢り!!どうだ!」
「でもハヤテ殿。他にも一杯居ますが?」
「他のヤツに浴びた時点でも負けにする。サドンデスってヤツだ」
違うような気がする、と皆は思う。
「じゃ、早速組み分けしましょうか」
反対はしなくとも、積極的にはならないだろう、と誰もが思っていたデッドが、さくさく進行し始めた。
「ハヤテとカイさん、僕と爆くんでいいですね」
『意義ありー!!』
しゅば!とこれ以上ない程のぴったりと息の合ったタイミングでカイとハヤテが抗議する。
「そんなんじゃゼッテー勝ち目ねぇよ!!」
それどころか、命すら危ないかもしれない。
爆は何がそんなにだめなのだろう、と2人を見やる。爆はデッドの恐ろしさを知らないのがまた、デッドの恐ろしさの1つだったりする。
「私は、是が非にもくじ引きで決めることを推薦します!!」
「……くじは、僕が作りますからね」
はぁ、と溜息をついたデッド。
不思議パワーなしで公正に行われたくじの結果、デッドとカイ、ハヤテと爆になった。
ハヤテは、微妙な組み合わせだな、と思った。
彼は気づいていない。
この組み合わせでは、どうやったって自分が集中攻撃を受けるはめになるのだという事を。
結果は爆達の方が勝った。
当たり前みたいにハヤテに攻撃が集中したのだが、哀しい事に今までの経験である程度の回避能力をつけていたハヤテは、本能でなんとか避けきれる事が出来た。が、一番の理由は爆が迎撃等をしてくれたおかげだろう。
今日、誰かが此処で死ぬとしたら、それは俺だな。
ハヤテのそれは確信だった。
「夜は私たちの奢り、ですね」
「では、僕が爆くんに奢りますので、貴方はハヤテを」
「デッド殿、もう1度くじ引きしましょう」
「ふ……今度は手加減しませんよ」
今日は旅行先の為か、放たれる瘴気はいつもの半分以下だった。
しかし、赤ん坊がいきなり泣き出したのは、それが原因だろう。母親と思しき人に、ハヤテは心で謝った。
「いやー、それにしても、でかいよなぁー」
コーラでフィッシュ・アンド・チップスを食べながら、もう何度目か解らない感嘆の声を上げる。
「マーメイド・ステージ」はもの凄く単純に言うと、スリッパのような形をしている。半分は野外で、半分は屋根に覆われている。今居るのは屋根がある方だ。
その一角のファーストフード店で、小休止。
「”水迷路・ウンディーネ”」
パンフレットの地図の中にあるアトラクションの1つを、興味深かそうに爆が読み上げた。
この迷路は文字通り水路で出来ていて、つまり細長いプールで出来ている。迷路の中を、水で浸したようなものだ。初級者、中級者、上級者、超上級者コースがあり、上級者は13歳以上、超上級者は18歳以上でないと入れない。長時間水に浸かる事を考えて、健康面を踏まえたのだ。
「次はそこに行ってみますか?」
カイが尋ねる。誰も反対なぞするはずもない。
食べ終わったごみはきちんとゴミ箱に入れて、出発する。
「マーメイド・ステージ」内は鞄を持たなくても事が済めるよう、入場ホールでプリペイド・カードが発行できる。払い戻しももちろん可能だ。
カードという形容を取ったものの、実際はサポーターみたいなもので手首に巻くものだ。表面にバーコードみたいなものが印刷されてある。清算は、ハンドスキャナにそれをあててもらうだけでいい。これは、この施設のフリーパスと兼用に発行もできる。
「うわー、近くに来たら改めてでかいなー」
ハヤテがまたしても言うが、持った感想はみんな同じだ。
ミノタウロスが居たラビリンスを思い出させるような入り口がでん、と皆を出迎えた。支柱でそれぞれのコースの入り口がまた分けられている。
「で、何処にします?」
デッドが聞く。
「やっぱり、ここは上級者コースだろう!あー、爆も大丈夫だよな?」
「当たり前だろう」
むっつり、と爆が答えた。なんだかんだで、爆には最年少者というレッテルが貼られている。
ぞろぞろと4人で入る。あまり人は居なく、爆達の他に2,3グループくらいしかいない。
迷路内は明るくもなく暗くもなかった。5メートルくらい歩いて、それからプール部分に入る。
迷路はどんなに勘が悪い人でも1時間で出られる構造だ。
とはいうものの。
「以外と手ごわいですね」
カイが呟いた。ハヤテの防水性の腕時計は、入ってから15分を教えてくれた。
ざぶざぶと爆の胸の下まである水を、時には歩いて時には泳いで進む。水が進行の妨げになり、余計にそう思うのかもしれなかった。
「デッド、顔色が悪いんじゃないか?」
爆の声がして、ハヤテはカイより早く振り返った。
「そうですか?」
デッドは平静に答えたつもりかもしれないが、唇が薄青く、ちょっと悴んでるようにも見えた。
「ギブアップしよう」
デッドが止めるまもなく、爆が発信機のボタンを押した。程なくして、係員がボートに乗って登場した。
「僕だけですから。ちょっと体を冷やしまして」
係員と爆達と、両方に言う。
「でも-----」
言いかけた爆の横を、ハヤテがすり抜ける。
そして、当然のようにボートの上に上がりこみ、デッドの隣に座る。
「じゃ、後で会おうぜ」
手を軽く上げて、カイと爆に言った。
その声が合図みたいに、ボートが水上を滑り出した。
「貴方は----」
デッドが言いかけ、
「上級者にしようっつったのは俺なんだから。責任くらい、取らせてくれよ」
ハヤテがちょっと素っ気無いように、なんでもないように言った。
<続く>
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