”閑にだけ、言うからな”
歳が一番近かった為か(とりあえず、爆の周りでは)そんな風に、よく話を切り出された。
話されるのは、不思議で綺麗な花の咲く場所とか、メダカの居る場所とか、夕日がとてもよく見える場所。
爆が俺に話すのは、いつも爆にとっての”とっておき”な事ばかりだった。
その日、爆の家で夕食を取る事になった。爆の家に越す事になったから、何やかやと話し込んでいたら、そんな時間になってしまったのだった。
「爆ー、醤油ー」
「現郎……起きてるか?」
間延びした声に、爆が訝しげに問う。俺も、少しそう思った。
ひたすらに眠そうに食べる人だが、味はちゃんと解っているらしく。
「今日の蛸の煮物、美味ぇな」
むぐむぐと言う。
製作者である爆は、嬉しそうに綻ぶ。
「カイに、柔らかく煮込むコツを聞いたんだ」
『カイ』か……
まだ、出たな。
さっき、話していた中でも、『カイ』とやらはちょくちょく登場した。いや、ちょくちょくどころじゃないかもしれない、何せ、俺はすっかり『カイ』の嗜好を理解してしまったのだから。
そして、『カイ』の事を話す時、以前よく聞いた爆のセリフ。
”閑には、言うけど”
つまり、そういう事だ。
『カイ』は、爆にとってのとっておきな人なんだ。
少し離れている間に、そんな人を見つけて、少し寂しい気もするが(娘を出す父親か?/笑)爆がとても楽しそうに話すのだから、よしとしよう。
そうとしたら、その『カイ』に是非会ってみたいものだ。何と言って、会わせてもらおうか。
等と、少し悩んでいた矢先、当の本人から会いに来てくれた。
会いに、とは少しは違うかもしれないが。
怪しいヤツが、と聞いて駆けつけてみたら、彼だったのだ。
当然、俺は会ったことは無い。が、爆から聞いた容貌の特徴が一致したのと、”忍び込む”必要があるのは、俺に会いに来る彼くらいだろうな、と思ったからだ。
多分、爆は俺の事を話すだろうし、爆から聞いた彼の態度を鑑みれば、それがとても面白くないのは明白だ。
が、しかし、これほど早く来るとはな……
爆が溜息ついて話すのが、理解出来た。
親友なのだろうか、一緒に来たのと一緒に、彼はどうしよう、という顔をしていた。
カイなのか、と聞けば、吃驚した顔をして。
そんな風になるんじゃ、まだまだだな、と、俺は思った。
「爆、カイと会ったぞ」
「え、えぇええ!?」
おお、爆がこんなに驚くとは珍しい。
「な、何しに……!!」
「そりゃぁ、同居する相手なんだから、気にもなるんじゃないのか?」
「……閑…………」
顔を真っ赤にした、爆が言う。
「何か余計な事、言わなかったか………?」
「いや、俺は事実しか言ってないぞ」
「て事は何か言ったんじゃないか!!何を言った!言え!!」
爆の怒声を受け止めながら、これから賑やかになるだろう日常に、手にしていたジュースで乾杯した。
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