屋上。
いつものように2人は弁当を食べ、いつものようにお喋りを楽しんでいた。
そして、その内いつものようにカイが爆を押し倒していつものようにデッドがそのカイの頭を踏み潰すのだろう。
それは、ともかく。
「爆殿、次の日曜はバイトが休みなんですが、一緒に何処かへでも」
「あー……その日は、家で過ごそうと思うんだ。両親が揃って休みでな」
爆の両親はとても多忙で、ゆっくり顔を見れるのが1週間の半分あればいい方なのだそうだ。
家事は、歳の近い叔父と、同居人の父親の親友とで賄っている。ちなみにこの同居人はカイの師匠の親友であったりするのだが、その辺の相互図は後で。
「そうですか……」
事情を知ってるカイは諦めようと……はしなかった。
「ねぇ、爆殿」
「ん?」
きょとんと傾ける首が無防備だ。
「お邪魔でなければ……家に云っても、していいですか?」
「ぇ………」
「一度、爆殿のご家族に会ってみたいなー、なんて」
思ってまして、と冗談で本音を隠して言うカイ。
カイの申し出に、爆は珍しく表情を出して困っていた。
「あ、いえ、勿論都合が悪いなら全く………」
無理と解っての申し出なのだから、断って当然なのだと、爆がなるべく罪悪感を感じないように促す。
が、実際はそれとは別問題の事で爆は悩んでいた。
「いや……貴様本人には、何の責任も無いんだが………」
「はい?」
言いにくそうに、しかし爆は言う。
いずれ、こんな時を迎える事だと知っていたのだ、とでもいうように。
「……カイは、激の弟子だろう?」
「……それで何か不都合があるんですね?」
カイが言うと、爆がこくりと頷く。
「では……私が師匠に尋ねますよ。それはいいですか?」
むぅ、と爆はまた考える。自分が言うべきかどうか。
「そう、だな……所詮、オレは訊いただけだし………」
何だか意味ありげな事を言う。
それはそうとして。
この15分後、カイは爆を押し倒してデッドに頭を踏み潰された。
師匠とはいったものの、カイはすでに免許皆伝を貰っている。「教えることは教えた。後は自分で学べ」と。違う方向から見たら「教えるのに飽きた」とも取れる事も無い言い方であった。
しかし、一度ついた習慣は消えないので、相変わらずカイは激を師匠と呼ぶのだった。
師匠の役目を辞任した激は、とても気ままに海が見たくなった、山に行きたくなった、と世間がお盆進行や年度末決算に追われている時にあちらこちらをうろつくのだった。
幸い、今は放浪欲は満たされているのか、家付近の探索で済んでいる。
床に寝転び、「俺は寛いでますよ」っていう雰囲気を全面に押し出している激。
その激に、カイは呼びかける。
「師匠、ちょっといいですか?」
「ダメ」
「今日、爆殿から聞いたんですが………」
ロクに内容も聞かずに即座に否定する師匠に、そんな師匠を無視して話を進める弟子。
どっちもどっちだ。
「私が爆殿の家族に会いたいと言ったんですが、爆殿にやめたほうがいいと言われたんです。それも、師匠の弟子だから、という理由で。
師匠、爆殿のご家族と何かトラブルでも起こしたんですか?
だめですよ、ちゃんと謝らないと」
「おいおい、何で俺が悪い事になってんだよ」
「だって、爆殿のご家族が師匠に何かする訳ないじゃないですか」
けろり、と言うカイであった。
「お前………まぁ、確かに俺がしたんだけどよ……」
ほら、やっぱり、とカイは言った。
「……爆が言ってたって事は、まだあいつ根に持ってんのか。
長いなー。かれこれ13年だぜー?」
独り言のように言う激。
「13年……というと、爆殿が産まれてからですか?
と、言うか、”あいつ”とは………」
「”あいつ”ってのは真……爆の父親の事だよ」
爆殿の父親の名前は真。カイは記憶した。
「それで、爆殿のお父さんに何をしたんですか」
「いや、したのは爆の方」
え、とカイは固まった。
「うーん、産まれて2,3ヶ月だったかな?
真が息子お披露目ーって事で家に呼ばれてな。んで抱っこさせてもらって……そん時の爆、めっちゃ可愛かったなー」
羨ましい。カイが今一番欲しいものは、タイムマシンとなった。
「で、可愛かったから」
うんうん、とカイが頷く。
「ちゅーした」
うんうん、とカイが頷………
つけるか!!
「ぬぁんですっとぅぇええええええええええ!!!?」
「勿論口にだ!俺は額や頬なんてまだるっこしい事はしねぇ!」
「何を偉業したみたいに威張り散らしてるんですか!!
って、爆殿に、キス!?キス---------!?」
「そしたら真のヤツ、もう怒ったの怒らないのって、まぁ、怒ったんだけど。
怒髪天付いて容赦ない猛攻繰り広げやがったぜ。いや、地獄の悪鬼もかくやとはあいつの事」
うろたえる弟子を完全に意識から排除し、思い出に浸る激だった。
「爆殿に……爆殿に………」
燃え尽きる前あと一歩、なカイに、激がとん、と肩に手を置く。
「だから、な」
言った。
「お前、俺と間接ちゅー」
「………………………………………………」
もはや沈黙しか返せないカイをほったらかし、激は自室に戻った。
燃え尽きながら、カイは思った。やっぱり、自分はタイムマシンが欲しい、と。
する事は決まっている。
その時の師匠に会って。
後ろから、闇討ちかけるのだ。
しかし、誰かも歌っている。
タイムマシンはもう来ないのだ。
時代はもう戻らないのだ。
だから、明日が、未来があるのだ。
きっと、そうだ。
<終わり>
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