ハヤテは自分の耳を疑った。
だから、とりあえず耳垢が溜まって無い事を確認し、聞き間違いを犯す事もないように意識を全てデッドの言葉に向け、もう一度聞いた。
「爆は、何だって?」
「ですから、カイさんが浮気でもするんじゃないかと思っているんだそうです」
まぁ、浮気というか、誰かに好意を寄せられるのでは、という不安だろうけど。
そんな事を補足されても、訊かされた内容にショックを隠せないハヤテ。
「有り得ねぇ……カイが爆を置いて浮気なんて………そんなんが実在するんだってんなら、えーと」
「上手い例えが出ないんなら最初から言わないで下さい」
デッドはつくづく辛口だ。
「ですので、まぁ、フォロー出来るものならして下さい。カイさんと長く居る貴方の言葉の方が、爆君も納得できるかもしれませんし」
そういうキューピッドな役割は嫌いではないので、むしろこっちから申し出たいくらいだ。
カイはともかく、爆が嬉しそうな顔を見るのは、こっちも良かったなって気分になってくる。
多分、弟が居たらこんな感じかな、と思うのだ。だから殺気は向けないでもらいたいものだ。カイとデッドから。
「いや、しかしなぁ」
納得できでも腑に落ちないというか、そもそも納得も出来てないのだが。
「何だってそんな心配すっかな。愛されてるって自覚が少ないのか?」
それはそれで恐ろしい事だなと思った。カイの行動を見ているものとしては。
「それとこれとは別問題じゃんじゃないんですか」
デッドが言う。
「爆君曰く、「カイは格好いいから」だそうですよ」
「……………」
ハヤテはもう一度、自分に耳垢が溜まってないか、確かめた。
:レポート:
疑問:どうして爆はカイを格好いいと思うか
なんて事もあったなーと目の前の、旅行先候補を決める為のパンフを広げて実に幸せそうなカイを見て、ふと思い出した。
あからさまに当の本人のカイには、上の一件は伝えていない。
言おうものなら「じゃあ爆殿がもう不安にならないよう、たっぷり私がどれだけ爆殿を好きか教えてあげますね」と裏行きな展開になるのは火を見るより明らかだからだ。
「何処にしましょうね、ハヤテ殿?」
そんなハヤテの心情を知らないカイは、無邪気な(しかしある意味邪気たっぷり)の笑顔でハヤテに訊く。
2人がバイトをしているのは、夏休みの旅行の軍資金だ。
「俺よ、考えてみたんだけど、どっか人気の少ない別荘でもいっちょ借りてみるってのはどうだ?」
デッドと爆の気質を鑑み、ハヤテはそう提案してみた。
が。
「ん〜、私としては、何処かレジャーランドというか、テーマパークみたいな所に行きたいんですが………」
爆殿第一なカイは、そんな事を言う。
「や、俺もそっちの方が楽しいけど、デッドとか爆は……」
「爆殿、結構遊園地とか好きですよ?」
めぼしい物とそうでない物を適当に分けながら言うカイ。
へ?と間の抜けた声を出すハヤテ。
「そうなの?」
しかし、あまり爆の口から遊園地行ったとは聞かない。普通、家族でよく行くのではないだろうか。
「爆殿、子ども扱いされるのが嫌ですから、家族とはあまり行かないんです。
と、言うか両親共々多忙ですから、此処何年ゆっくり旅行は無いそうですよ」
「へぇ〜」
ハヤテは別にボタンを押した訳ではない。
「ですので、友達だけで思いっきり遊んでみたいんですよ」
なるほど、だから最初から「2人きり」にしなかったんだな、とハヤテは納得した。
しかし。
ハヤテは思い出す。爆がカイを格好いいのだと言っていた事。
普段、爆に抱きついたり押し倒したりする彼は論外だとして、こうして、好きな人の為に手当たり次第集めたパンフの中で、見合う一件を探し出そうとする顔は、とても真剣で。
こういう表情は。
「……格好いいよなぁ、まぁ」
「は?」
カイはハヤテの呟きに顔を上げた。
室内には、2人しか居ない。
ハヤテが格好いいと形容する対象は、およそ1つしかない訳で。
「……………」
「……………」
今思い出してみれば、旅行計画の発端もこんな感じだった。
ハヤテは、ダッシュで去るカイの誤解を解くためにマッハで走った。
:レポート:
疑問:どうして爆はカイを格好いいと思うか。
考察:カイは爆の為を考えている時(だけ)は(結構)格好いい
結論:当の爆はそれを見る機会が一番多いからである
<作成:ハヤテ>
<END>
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