一昨日は雨だった。
昨日も雨だった。
今日も雨なので、多分明日も雨でしょう。
「……これでまだ梅雨じゃないんだってなー。詐欺だぜ」
じっとりと湿気による不快指数を纏わりつかせ、ハヤテが愚痴る。
衣替えをして、半そでから出た腕が、何だかじっとりしているようで気持ちわるい。
「ウチは雨好きやな。お肌の具合が良くなんねん」
なー、とジャンヌに同意を求めるルーシだ。ジャンヌは、黙って頷く。
「そーゆーモンかねー」
「そうですね。少ししっとりしてますよ、肌」
さらりと結構聞き捨てなら無い言葉を吐いたカイ。
勿論、しっとりしているのが自分の肌でない事は明白だった。
ここ数日、天候は何だか不安定で。降ってるかどうかぱっと見解らない時もあれば、すぐ先が見れないくらい視界を覆いつくす時もある。
今の雨は、空から降るベールみたいに、空気を乳白色にしているような、穏やかなものだった。
こういう雨は、結構好きなカイだった。
雨が好きだなんて言うと、ハヤテに変な顔をされるかもしれないが。
昇降口に着くと、爆が待っていた。
「爆殿」
今日、自分は委員会の仕事で結構遅くまで残らなければいけない。
だから、先に帰って欲しいと言っていた筈なのだが。
「傘に入れてもらいたくて」
と、爆が切り出した。
「ピンクが傘を忘れてな。オレ達の下校時刻の時には、結構強く降っていたから貸したんだ」
自分は、カイに入れてもらえばいいから。
「でしたら、メールでもくれれば」
早く切り上げて来たのに。
「いや、こっちの都合だからな」
「でも………」
「ほら、さっさと帰るぞ。今は、雨が穏やかだ」
促されるまま、靴を変え、外に出た。
「でも、次からはちゃんと連絡下さいね!」
「解った解った」
先ほどから、こんな会話を繰り返す2人。
「本当ですよ?」
「何をそんなに心配してるんだ。校内だというのに」
「校内からだからですよ!
人が居るんですよ?その中の誰かがうっかり爆殿に惚れないなんて、誰が言い切れますか!」
「……………」
力一杯断言するカイに、何も言えない爆だった。
自分もカイがバイトしていると聞いた時、誰かがカイを好きになるんじゃないか、と疑ったりしたので、あまり大きい事は言えないが。
「しばらく雨、続くみたいですね」
「そうだな」
カイの傘に、2人入る。
当然、窮屈だ。
さりげなく車道側に立つカイ。
カイの、こういう所がきっと好きなんだろな、と思う。
こういう所”も”かもしれないが。
「……爆殿、って、雨は好きですか?」
「うん?」
「私は、それなりに好きだったりするんですよね。だって、空から何かが降ってくるって、結構ロマンチックじゃありませんか?」
言ってて照れるのか、後ろ頭を掻きながら言う。
「まぁ、さすがに毎日だと嫌ですけど」
「……オレも」
ぽつんと爆が言う。
狭い傘の中だから、肩が相手に触れる。
「オレも、雨は結構好きだな」
「そうですか」
嬉しそうに笑うカイ。
爆は雨が好きだ。
最も。
ついさっきから、カイが好きと言ってからだが。
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