どうやら昨夜、炎はこの部屋に来たらしい。
と、言うのも、寝る前には何もなかった机の上に、ぽつんと小さな箱が乗っているからだ。
勿論、炎であるという証拠は無い。
真かもしれないし、他の誰かかもしれない。
が、こんな事をするのは炎しかいないのだ。
爆は、周りにはに誰も居ないというのに、特に興味の無い様子を装いながら、急ぐ素振りも見せずに味も素っ気もない箱を開けた。白い、炎が着ている服を連想させるような白い箱の中に収まっていたのは、なんだか小さな宝箱みたいなものだった。
まるで瑪瑙みたいな深い赤い色。それを金色の縁が囲っている。素人目で見てもかなりの技術を要しているのだというのが、容易く解る程の細工だった。横にオモチャのネジみたいなのがついているので、爆はこれの正体が解った。
これは、オルゴールだ。
蓄音機のように音を奏で、しかしピアノのように人の手を借りる、そんな小さな機械だと、聞いた事がある。それを誰に聞いたのかは忘れたが、こうしてこれが目の前にあるというからには、きっと炎から聞いたのだろう。
キリキリとネジを巻いて、机の上に置くと、その小さな箱に似つかわしい、愛らしい軽やかな音が旋律を紡ぐ。
椅子に座った爆は、目を綴じてその音を聴いた。
この音色を辿れば、炎に着けるかもしれない。そんな気がして。
1分弱して、音はゆっくりになり、そして止まった。爆は徐に取り上げ、また巻いて机に戻す。
なので、この日から、爆がこの音色を聴いているというのは、炎を想っているという事だ。
05:くるくると舞い上がるメロディ
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