My mife is king of the world, 3
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「……だったら今度の件は、これで」 「あぁ。いろいろとすまない」 ここは会社の中で一番豪華な造りの部屋。 一般人ではお目にかかれないような立派なソファに腰掛け、今ひとつの取引が成立した。 ちなみにどんなものかは訊かない方がいいだろう。世の中には暗黒部分もあるのだ。 部屋には二人。 ここの社長、真と、かつての同僚で今は独立し、彼もまた一つの企業の最高責任者の斬である。 二人は取引成立の暁にワインを開けて一杯やっていた。ちなみに今は午前11時だったりする。 「……あ〜、とそれでだな……」 歴史を舌の上で綴るワインを十分に嗜み、さりげなさを装ったせいで余計に不自然になった口調で斬が話を切り出す。 「爆は今どんな感じだ?あれから昇進くらいはしただろう」 「あ、そうか、お前海外へ赴任してたから……」 くいっと一口喉へ流し。 「あいつ、寿退社したぞ」 「そうか。 ………………………………………… ………………………………………………………………」
「あ」 「?どうした、カイ」 「今何か上の方で誰かが絶叫したような……」 「そうか〜?俺には何も聞こえなかったぜ? 空耳だよ、空耳」 そうかなぁ、とカイは首を捻る。声と一緒に怨念までキャッチしたような気もするが……これも気のせいだろうか。 「あー、早く昼休みになんねーかなぁ……」 デスクの上にだらしなく頭を乗せて待ちわびる激。 その理由は2つある。 まず、爆の作った弁当を食べたいから。 それと。 昼休み中なら爆への私用電話解禁となるからだ。 (あぅ〜爆の声が聞きたいよぉぉ〜) 以前、あまりにも頻繁にかけていたため、ついに爆から禁止令が発動されてしまったのだ。 別にカイや現郎に500000回言われた所でへでもないが……爆に言われたとあっては仕方ない。 でもこんな苦労も結婚しての事だよなぁvvと最愛の人を手に入れた実感を、つま先から頭の天辺まで味わう激だった。 「あ」 「どうした。また絶叫でも聞こえたか?」 「いえ、今度は強いていうなら嫉妬に狂った男が意中の人の想い人の所で怒鳴りこむような足音が……」 「激は居るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!???」 カイのセリフに被さるように、ずんずかと近づいて来た足音の主は此処へ扉をバベーンと開けて入ってきた。 「げっ!斬!!」 本当ならその名前を舌の上に乗せたくもないのだが、思わず呻いた。 斬----此処から独立して、今や時の人、と謳われる程の人物----- そいつが何かと理由をつけて来ては、爆を引き抜こうをしていたのだった。 まぁ、爆はその都度きちんと断っていたのだが……気に入らない事他ならない。 しかもその中には「よく考えたらそれってある意味プロポーズ?」な言い回しもあったのだ!!あー!爆が鈍くて本当に良かった!! 「…………激は何処だ!?」 飢えた獣かはたまたハンターか。 血走った目で部署を探る斬に、社員達はご丁寧に全員で激を指差してやった。 斬はふたたびずんずかずんと室内を歩き、そりゃもう立ちふさがるヤツは張り飛ばす!!な勢いで、激の前に到達したらデスクにドン!!と両手を置く。というか叩きつける。 「……貴様……爆と結婚したとはどういう事だ!!?」 「あ、何だ祝ってくれるのぉ〜?vv」 ”爆と結婚”という言葉を聞いた途端、いつでも喧嘩上等!な表情から打って代わってほのぼの幸せモードへと早変わり! 「ンな訳あるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! どんな手段を使った!!? クスリか!?脅しか!?金……は、無さそうだな」 「……どぉ〜して「正々堂々プロポーズした」って方法が思い浮かばねーかね。 ヤだねー自分の尺度でしか物事計れないヤツってのは」 「黙れッ! お前如きがプロポーズした所で爆が受け入れる訳ないだろうがッ!」 「それどーゆー意味だよ!」 「俺のような素晴らしい人物を蹴ってまで選ぶような価値が、お前にあると思うか!?」 「その言い分そっくりそのまま返してやるよ!オメーなんかに罵り言葉考えのも勿体ないわ! だいたい自分で”素晴らしい”と言っちゃう時点で十分素晴らしくもなんともねぇなッ!」 「ぬわぁぁぁんだとぉぉおぅうううう?」 いつの間にか席を立った激とガンの飛ばしあい睨みあい。 その雰囲気に飲み込まれてしまい、果たして何人が今がまだ就業時間だと気づいているか。 今にも同時多発テロでも勃発してしまいそうなオーラが渦巻く中で、激は、 「とにかく!俺は爆と結婚しだんだよ!でもって新婚中なんだよ! 今日もこうして弁当を………… …………あれ?弁当………」 カバンをごそごそと探ってみてもそれらしき手ごたえは見つけられず、中へ顔を突っ込んでも全部掻き出してもやっぱり弁当は無いわけで。 …………わ……………忘れた……………………… その事実に打ちのめされた激は、斬のいるのも忘れて真っ白に固まった。効果音はコキーンとでも付けてもらおう。 と、その時。 「おーい、ちょっといいか?」 新しく室内へと入って来たその人物は! 「ばッ………爆殿」 のぁぁぁぁぁッ!なんてバッドでマイガーなタイミングに! あやうく叫びかけた声を通常にまで抑える事にカイは成功。 「激のヤツが弁当忘れたんでな。ん?まだ仕事中か?」 「あああああああああああ爆殿、今ここは何処より何より危険地域レッドゾーンなんですよ!ですからとにかく速やかに帰る事を……」 『爆!!!?』 二人がピッタリなタイミングで振り向く。その息の合った行動は「もしかしてこいつら近親憎悪というやつか?」と思わせる程で。 ……にしても……カイの声はあそこまで届くものでは無かったのだから…… どうやって爆の存在を感知出来たのか。 世界に不思議が一つ増えた。 「あ、激。お前弁当忘れて行ったぞ。仕方ないヤツだな」 「悪ぃな、わざわざ」 仕方ないヤツだな、と言いつつも弁当を持ってきた爆。 悪いな、と言いながらも微笑む激。 くっ………!これが新婚さんというものか………!! 斬は敗北感に包まれた。 「な……何故だ、爆………」 「斬、居たのか。久しぶりだな」 何も知らない爆は律儀に挨拶をする。 「どうして俺ではなく、その男を………!」 例え負けだとしても、その要因を把握しておかなければ。 それはいつかの勝利に繋がるからだ!きっと! 「え?」 いきなりな斬の質問に、爆の目も点になる。 「あ、私も聞きたいです。それ」 「僕も聞きたーい♪」 「差支えがなければ是非言って貰いたいですね………」 「ま、ちょっと興味あるな」 と、口々に部下ズ(セリフの順にカイ、ライブ、デッド、ハヤテ)も言う。 「え……いや、何でって………」 あわわ、とうろたえて真っ赤になる爆は、それはもう可愛かった。 あぁ、二人っきりでないのだけが残念……!(以上、激の心中) 「ど、どうしても言わないとダメか?」 「どうしても、だ」 やけに真剣な斬に、どうやら言わないと本当に引き下がってくれそうもない、と感じ取った爆は緩々と言葉を紡ぐ。 「……えっと……入ったばかりでの、歓迎コンパでな……」 ふむふむ。 「……その場のノリで、ジョッキの一気飲みさせられそうになってな………」 ふむふむふむ。 「……少し困ってたら、横から激が来て………」 ふむふむふむふむふむ! 「……代わりに飲んでくれたんだ」 「……………それで?」 「それだけ」 ………………………………………… 今、皆の心の中で……… ジョッキ飲んだら結婚してくれるってんなら、いくらでも飲むよ!!という言葉だけが回っていた。 そんな時、不用意な発言が飛び出した。 「え?ンな事あったっけ?」 ………………………………………… 「……………」 「いやー、酔っ払うと、その時の行動はしっかりしてるけど記憶が飛ぶっつーか…… 俺、そんな事したんだ?」 あっはっは〜とお気楽に笑う激である。 (そんなに笑ってる場合じゃ………!) というカイの危惧はドンピシャリ的中した。 「てりゃ」 ごぱぎゃ。 やおら爆は近くの植木鉢を掴み、実に機械的な作業を持って激の頭へとめり込ませた。 「邪魔したな、帰る」 「……お気をつけて」 「爆!こんなヤツとはさっさと別れるに限るぞ。何なら俺がいい弁護士を紹介……」 後にはただ……頭に帽子のように植木鉢を乗せた激が倒れていた。
その晩、激が爆に対して土下座しまくったのは言うまでも無い。
<オマケ> 「それにしても、斬、おかしな事言ってたな。 俺じゃなくてその男を……って。 どうして斬と比較しなきゃならないんだ?」 「さぁ〜。なんでしょねんv」 VIVA!鈍感!!
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ふー、久方ぶりの新婚シリーズ。2人の馴れ初めちょっと小出しv
……すみません、ちこさん……ネタにしちゃいました……
だってすんごいおいしいんだもん!ワタシ一人の胸の内じゃ勿体ないわ!!
2人の独身時代の話も書きたいですね。プロポーズ話とかも。
それから家族編もねv