shcool  sonata



 ここしばらく曇りと紙一重の小雨が続いたが、今日は結構強い雨が降る。
 梅雨の最後の雨だろうか。だとしたらもっと降れ、とすら思う。
 しかしその湿気のせいで廊下は湿り、滑って腰を打ったという間抜けな被害も発生した。
 さて。
 今は放課後。ここは………
 生徒会室前。
 そこで激はこれでもかというくらい深呼吸をしていた。
(落ち着け俺、落ち着け!!まず告白の第一段階!!)
 告白をするとなれば当たり前だが相手がいないと話にならない。
 納涼祭は結構人が込む。しかも結構敷地は広い。出会おうとするには、冗談抜きで偶然に頼らねばならないのだ。
 自分の一世一代の告白の場に、そんなあやふやな要因を含ませてはならぬ!!
 て訳で激は室内へ居るはずの爆に、風紀委員の見回り分担書の提出にかこつけ、当日一緒に回ろう、という約束を交わす……シミュレーションをしている。
 えぇと、まず爆に挨拶して書類を出す。
 そいでもって会話をさりげなく納涼祭の方へ向ける。
 んでもって一緒に回るかーとちょっと冗談ぽく言ってみる。
 何でと聞かれたらだって他にいいヤツ居ないし。それとも俺と回るのいや?
 多分爆は別に、と答える(優しいからなぁ……)。
 いいかー約束だからなーと笑いながら去る俺。
 以上、約束完了!
 いざ!!
「激?何か用か?」
「んどわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!??」
 最後に大きく息を吸い、さぁ出陣!て時に、背後に当の本人から声を掛けられた。
「……そんなにビックリしなくてもいいじゃないか」
 あまりのリアクションに、こっちも驚く。
「あ……う……いや、爆…………!」
 いかーん!今ので計画頭から全部吹っ飛んだー!!ていうか出だしから躓いた--------!!
「何持って……あぁ、納涼祭の書類か。ご苦労だったな」
「…………どーも」
 そっけもない返事(というのかどうかすら……)とともに、機械的に書類を差し出してしまった激。
 頭の中の計画書にバツマーク(遂行失敗の印)が増えて行く。
 ……いかん……この雰囲気じゃ冗談まじりに約束ー♪という流れに持って行くにはとても無理……
(………だめだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………もー、またダメ………)
 またしても自分は悶々とした日々を過ごす羽目になってしまうのだろうか……あぁ、ゴールに足が生えて自分から疾走し去って行く……
 そんな激の心情は露知らず(そらそーだ)爆は書類のチェックに入っていた。
 激も早く帰りたいだろうから、と超特急で目を通す。当然激の本音はその逆であることは言うまでも無い。
「……うん、いいぞ」
「そっかー……良かったー……あはは」
 激。今の彼はまさに生ける屍だった。
 うっちゃん、俺今日もお前の部屋に転がるよ。
 こんな日に一人で居たんじゃ、寂しくて死んでしまう!!(うさぎかオイ)
 同刻、現郎はイヤ〜な悪寒を感じたという。
「----そう言えば」
 激がふらふらとゾンビのように徘徊する後ろへ。
「カイから聞いたんだけどな。最近お前仕事頑張ってるそうじゃないか。偉いぞ」
 と、言うかそれが当たり前なんだけどな、と柔らかい苦笑をのせて言う爆。
 …………………
 ギュイーン!!(激のテンションが上がった音)
「………ンなぁぁぁぁぁぁに言ってんだよ!これくらい楽勝楽勝!!あ、さてはお前、俺の実力知らねーなぁ?」
「……だって貴様、いつもサボってただろーが」
「男はね、いざって時に役に立てばいいのv」
「……常に役に立ったらどうだ」
「いいか?俺が始終大活躍してたら皆俺の事あてにしちまうじゃん。俺は自分の手柄よりも、後輩の成長を助けたいのさ☆」
「オレには面倒事を押し付けているようにしか見えんが」
「気のせい、気のせいv」
「……そうかぁー?」
 ……………よし、いける!
 激の「さりげなく一緒に回ろうと約束プロジェクト」が再び始動する!
 うっちゃん!俺今日嬉しい報告しにお前の部屋行くよ!!こんな日に一人で居たんじゃ勿体無い!!(いずれにせよ来るのかよ、お前by現郎)
 このノリならば!!
「んでさぁ」
 世界一白々しい”んでさぁ”であった。
「爆は納涼祭、どんな感じ?」
「ん?納涼祭か?」
「そう!なんなら……」
「一応カイとピンクと回る予定だ」
「………………………………………………………………………………………………」
 …………し…………
 しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!すでに予定入ってるという可能性を鑑みてなかったぁぁぁぁぁぁぁ(ダメじゃん)!!!
 ……あぁぁぁ、やはり泣き言決定?(あーもうどうにでもしろby現郎)
「そ……そうかぁー!そりゃ楽しみだな、うん、納涼祭!!」
 心中の落胆もものともせず、明るく振舞う。く………!男だぜ、激!!
 爆は何やらうーん、と考えていて。
「……激は?」
「俺……は、まぁ一人でブラつこうかななんて」
「そうか」
 と、爆は返事を返して。
「ピンクがな、ライブのコンサート見るんだが、生憎俺はそういうのはあまり好きではないから断ったんだ」
 ライブのコンサートは、だいたい学園行事内では納涼祭か文化祭に開かれる。
 その人気の割にはあまり出場が無く、それが返って人を呼ぶ羽目になった。
 そんな現状で、大して好きでもない自分が行く分を、誰か他に本当に行きたい人が行けるように、と爆は断ったのである。
「その間はカイと回ろうと思ったのだが……よく考えたらカイはコンサートの警備に回っててな。お前の方が知ってると思うが」
 あぁ、そういえばそーだったなーと激は思う。
 ……出来上がった後の事(爆に告白in納涼祭)に気を取られて、あまり書類の内容は覚えてない。
「貴様も暇というなら、一緒に回るか?」
 ……………………
 あ。
 い。
 う。
 えぇ?
 おぉぉ?
「別に断っても………」
「よし解った一緒に回ろう是非回ろう絶対回ろう!!」
「そ……そうか」
 何故だかものすごい勢いの激に、爆は珍しく押され気味だった。
 …………ィヤッホォォォォォォォォォォォォゥゥイ!!!
 BGMにはロッキーのテーマを流してねvうっちゃん、今日は雨降りだけど、とても良き日だよ!!(あ、っそby現郎)
「んじゃそういう事で!!爆もほどほどに切り上げて帰ろよ!!」
「言われんでも……それに今日はそんなに」
 と、顔は激に向いたまま爆が生徒会室へ入る為、一歩進むと。
 ズルゥッッ!!!
 丁度湿りが強く、水にすらなっていた場所へと、爆は踏み込んでしまった。
「------ッ!??」
 重力が解らなくなる。
 ぐるんと視界が廻って頭が下にさがって-----
「-----危ねぇッ!!」
 床に打ち付けられると思った後頭部は、けれど衝撃だけで済んで。
 は、と周りが確認出来るようになると、なんと自分達はラッコの親子のよろしく上に仰向けに重なっていた。
 察するに-----
 後ろへ滑った自分を抱きとめようとして、自身もまた滑ってしまったに違いない。
 ……助けて貰っておいて何だが……なんてまぬけな……
「激、頭大丈夫か?」
「うぅ……何か聞き様によっては酷いセリフ」
 激はかろうじて受身は取れたお陰か、頭部へのダメージはあまりないようだった。
 つーか。
(……かっるいなー……コイツ。それに……何か……近くで見ると……)
 げっきゅん心拍数急上昇中。ドキドキバクバク。
「----全く、ついてないな」
 一方ダメージの全くない爆はあっさりひょいっと立ってしまった。
 うーんほっとしたような残念のような……
 それでも仄かに爆の余韻を抱きつつ、激もまた立ち上がろうと----したのだが。
 ヅギン!!
「-------ってぇ!?」
「激!?」
 体重をかけた途端、悲鳴を上げる足首。
 あぁー、爆受けなきゃ、って思ってたせいか、下半身疎かになったよなー。あはは。
 とても解り易い男、激。
「……捻ったのか?」
「……そうみてぇ……」
 いちち、と顔を軽く歪めて、足首を確かめる。
 ……ま、こんくらなら大事にゃならんだろう。
 ダメージの具合を見極めた激は、その足を庇いつつ立ち上がる。
「大丈夫か?ちゃんと立てるか?」
「あー、もう平気平気………ってもしもし?爆君?」
 思わず爆を君付けしてしまったのにはきちんと訳がある。
 なでって、爆が自分の腕を取り、身体との間に自分の身体を滑り込ませて……
「保健室行くぞ。まだ開いてるから……!」
 自分のせいで怪我をさせてしまった。
 このままはいそうですか、と帰せるはずがない。
「い、いや爆本当に大丈夫だって!!こんなのほっときゃ!!」
 さっきよりも密着した状態で、げっきゅんの心拍数、制限なく伸び上がる!
「捻挫だって立派な怪我なんだぞ!?放っといていいわけあるか!」
「確かに正論だけどよぉぉぉ〜!!」
 ……は!さらに気づいてしまった事が。
 「放課後」「保健室」「二人きり」
 ……これって…………かなり危険なキーワードの数々なんじゃ……
 あぁッ!しかも勝手に足が爆に従って保健室の方向へ!!なんて正直なんだ俺の身体!(特に下半身。いやヘンな意味じゃなくてね)
「激、もっと体重掛けても平気だぞ?」
「ッ!!…………ッッ!!!/////」
 爆のセリフにちょっぴりイケナい妄想してしまった激でしたv
 まさか……まさか……!!
 うっちゃん、………今日俺告白以上いっちゃうかもよ!!?
 それに対して現郎の返事↓

”ンな事ぁねぇ”

 とにかく静まった校舎。
 雨の音より、自分の心音の方がずっと煩かった。





激の浮き沈みが書いてて楽しい(特に落ち込んでいる時)(酷)