今度の納涼祭で自分は爆に告白する!! そう自分は決めたのだ!! 「現郎―――――ッ!俺は納涼祭で爆に告白するぜ!!」 「オメーの告白するぜ宣言はこれで7回目だなー。って何でいつも俺に言うんだよ」 「口で言うことで再確認してんだ。まぁ強いて言えば誰かにぶつけた独り言だな」 それは独り言ではないのでは。現郎は思う。 そんな現郎はさておいて、激は燃えていた。 これで今まで悶々としたアンニュイな日々におさらばさ!! 俺は夏に春を迎えるのさ!!! 「どーでもいいけど帰れよ、お前」 人の部屋で滾る激へ、現郎はそっと言った。
「ステージで余興をするのはギター愛好会に吹奏楽部に演劇部……一般参加は?」 「今あるのはアマチュアバントが5組と手品2組、それと漫才と落語各1組です」 「バンドが少し多いな……ちょっと話し合いでもするか」 「そうですね」 その日、風紀委員室に旋風が吹き荒れた! 激が……あの垂れ目で(失敬な)始終のーんとしている激が委員の仕事を真剣にこなしている!! すげぇよ、激!まるで委員長みたいだ!!(委員長だよ) それで驚愕する者23名、頬を抓ってみる者17名。これは夢だと決め込んだ者4名が現れた(重複含む)。 しかしながら激がこんなやる気を出すなんて、それこそ100周期であるかないかの事。 やる気のあるうちに一気に片付けてもらおう、と皆は早速冷静に戻った。 委員長が委員長なだけに、委員も委員であった。 「会場準備は適当に運動部を借り出す事になってるし、模擬店は商店街の管轄……っと」 着実に仕事をこなし、未処分書類の束が薄くなっていく。 「で、俺らは見回りだな。何か都合のあるヤツぁ早めに言いな。さっさと決めちまうからな」 「……えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」 カイが突然素っ頓狂な声を発した。 「何だ。俺が決めるのが不満か?」 「い、いえ!そーではなく……!」 ジロ、と睨む激にわたわたと首と手を振り、めい一杯否定する。 むしろ、その逆だ。 激が。あの激が見回りなんつークソ面倒な事まで決めるだなんて……! 果たしてこれは喜ぶべきなのだろうか。はたまた心配するべきなのだろうか。 無意識にかなり失礼な事を考えるカイであった。 普段の激の素行を見る者は、この行動に疑問を抱くかもしれない。 だが、激の本心を知ってる者(って現郎しか居ないのだが)にしてみれば不思議でもなんでもない。 そういった書類の受付を担当しているのは、会計の爆なのだから。
「ねぇねぇ、爆!!いつの日曜が空いてるの?」 読書に耽っていた爆の精神を散らしたのは、ピンクの声。 「いつの……て?」 ピンクが予定を訊いてくるのはとても稀だった。 「だって、ほら爆いつか言ってたじゃない。あたしが前に誘ったら、先約があるって。 日曜に間違いないけど、いつかが解らないからそれが決まったら、って」 あぁ、そう言えば、と爆はゆっくり記憶を辿った。 文化祭の予算書類の提出期間、全員が全員、決まった期日に出してくれないので煮詰まった事もあった。 その時、そんな爆を見かねたのか単に自分が行きたいだけなのか、それが終わったら何処かへぱーっと遊びに行こう、とピンクは言ったのだった。 しかしその時すでにプロッピーを届けてもらったお礼にデート、という激の申し出を引き受けた後だった。 だからそんな返答をしたのだが…… 「……あれは無しになったんだ。いつでもいいぞ……て、その前に何処へ行くんだ?」 「それを今から決めようと思ってるんじゃない!!」 と、ピンクは意気揚々と、机の下に隠れて見えなかった手からどさり、とガイドブックを机の上に置いた。 「あたしねー、クレープブリュレって食べたこと無いのよねー」 何処言ったら食べられるかなーと雑誌の一つを取り上げてペラペラと捲る。 どうやら何処へ行くかは決まってないが、何をするかは決まっているようだった。 爆もまた、ちょっとした山になってる雑誌から一つを取り出して、それらしき関連記事を探す。 ふと。 今の事で激を思い出す。 あいつ、ちゃんと仕事してるのかな。 もうすぐ風紀委員主催の納涼祭が開かれるのだ。激のその”仕事っぷり”は実際に見た事無いが、カイが委員会のあった次の日に自分に嘆くのでよく知っていた。 そう言えば、激は自分を何処へ連れて行く気だったんだろう。 その後も、手や視線は雑誌を向いていたが、思考は激で占められて。
音が聞こえない静かな雨。 空はまだ厚い雲で覆われていたが。
確実に梅雨はあけて行った。
「爆----------!!もうすぐ告白すっからな-----------!!」 「もうすぐどころじゃなくて今すぐすりゃいいだろーが。 つーかなんで俺の部屋に毎度来る」 「ラビンニュー!!」 ……どうやらとある一室(ていうか一人)では、気分は次の夏に注がれているらしい……
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