イチゴ





 現郎宛に宅配が来た。珍しい。しかもクール宅急便だった。ますます珍しい。
 勝手知ったる、な感じで爆は包みを開けた。
 其処には、春の小さな果物があった。つまりは、イチゴだ。
 そしてその数、パックで15個。




「多い」
 数十粒程度なら可愛げがあるのに、こうも大量にあると侵略されてるみたいだ、とよく解らない愚痴を零す爆。
「15個……ってのはやっぱ、イチゴの語呂合わせだろーなぁ」
 事の発端というか、本来の受け取り主はのんびりと言う。
「だからな」
 そしてやおら、机を埋め尽くすイチゴが此処に来た経緯を話し出す。
「なんとなく雑誌を読んでたら、なんとなく懸賞があって、なんとなく年賀状の残りがあったものだから、」
「なとなく応募した所、なんとなく当選したという事か」
「まぁ、ンな所だな」
「惰性で生きるヤツめ」
「疲れるのは嫌なんだよ」
 それでよく生きて来れたものだ、と爆は変な感心をしてしまった。
「そーゆー時に限って当たるもんなんだなぁ。どうせ当たるんだったら、同じページにあった高級羽毛布団にすりゃよかった」
 それでも当たったという確証は無いのだから、そう悔しがるだけ損ではなかろうか。爆は思った。
 さて。
「で、これはどうする」
 ナマモノなのだから、早く食べないと痛むし風味は飛ぶし。しかし此処には2人しか居ない。保管可能の期間内で食べつくせるかといえば、無理と言うしかない。
「誰かに配れよ。未練は無ぇ」
「……イチゴのパック持ってうろつくのもなぁ……おっ、」
 と爆は閃く。
「どうせだから、皆を此処に呼んで食い尽くしてもらおう」
「……呼ぶのか?」
 と、現郎はあからさまに嫌そうな顔つきになった。眠るのが生業、と言ってもいい現郎は静寂を何より好み、喧騒を何より嫌った。一度寝てしまえば、至近距離に隕石が落ちても起きなさそうなくせに、と爆は思う。
「別にいいだろ。貴様もたまには人馴れしとけ」
「俺は野生化したペットか何かか」
「似たようなものだろ」
「似てんのかよ」
「そのまま食うのも味気ないから、何か作ってみるか」
 何にしよう、と現郎のツッコミなぞ気に留めもしなかった。
「現郎、ババロアとゼリー、どっちがいい?」
「どっちでもいい」
「そうはいかん。一応の持ち主だからな」
「一応」
「別に、他のでもいいが?何でもいいぞ」
 現郎はうーんと考え。
「あぁ……あれ、一度食ってみたかったんだ」
「何だ」
「イチゴのパスタ」
「一人で名古屋行って来い」
「何でもいいっつったくせに」
「許容内での話だ」
 まぁ、本気の真剣に食べたかった訳ではないから、いいけども。
「……俺は、生で食うのが一番好きだなぁー」
「生ってなんだ」
「このままって意味」
 と、現郎はパックからひとつ摘むと、はくり、と口に含んだ。駆け抜ける程でもない、微かな果物特有の爽快感が口内を満たす。
「へー、投げやりで当たった割には結構美味いじゃねーか」
「ほう?」
 と、爆も手を伸ばす。
 そして、なんだかんだでワンパックを平らげてしまった。
 空になったパックを見て、現郎は、当たってよかったなぁ、と本当に今更に幸運を噛み締めたのだった。




<END>





春なのでイチゴを絡めた話を、って事で現爆で。
現って何気にくじ運が良さそうだなぁ、と。無欲の勝利というか。それで言うと雹様なんて悪そうだなぁ。てかやらんと思うけども。