星を見るのは冬の方がいい。空気が澄んでいるから綺麗に見える。
それなのなら、
「花火も冬にやった方がいいんじゃないのか?」
「あぁ?」
爆が口に出して言ったのは、上のセリフだけなので、現郎には何を言い出したのかさっぱり解らない。
爆は、だから星は、と自分が思っていた事を伝えた。
「そりゃ、オマエ」
ぽりぽりと寝癖かクセッ毛か解らない髪を掻き。
「冬に外出たら寒いだろーが」
「夏は暑いぞ」
「まぁ、花火は夏のモンだから」
「誰が決めたんだそんな事」
次々とセリフを切り落とされて、ンな事俺に言われても、と少し途方に暮れ始める現郎。
「何なんだよ、オマエ」
「別に。冬の花火が見たいだけだ」
と、ストーブが2時間延長のアラームを鳴らしたので、現郎は動かずになんとか身体を伸ばしてスイッチを押した。それを見て、爆は無精者め、と言う。
「どれくらい偉くなったら、出来るだろうな。冬に花火」
「ん〜?んんんー………」
「何だその返事は」
声のようなセリフのようなよく解らない声を現郎は出した。
冬に花火。
どんなに偉くなっても出来ないような気もするし、案外簡単に出来そうな気もしたのだ。
まぁ、最もそれは世間一般の事で。
「オマエならその内出来るだろ」
これは決定事項。
「本当にあるのか?」
「俺の記憶が確かならなー」
「そんなにあてにはならんな」
「おーい、今の発言取り消せよー」
階段下の物置に頭を突っ込んでいた現郎は、目当てのブツを無事に発見した。話の流れで解ってもらえるだろうが、現郎が手にしているのは花火である。
「一体何時のなんだ?」
爆には、現郎が花火を買って来たという思い出はない。
「さーなぁ。ま、賞味期限は無ぇから平気だろ」
「賞味?」
「そういう感じのやつ」
花火はどう言うかなんて知らねーし、と現郎は無責任に言った。
「こういう時、庭のある家でよかったって思うな、俺は」
「そうか?」
「今の時期に公園で花火なんかしてみろよ。通行人に変人扱い、下手すりゃ警察が来るぜ」
「ふーん、そういうものか」
人の目なんか、道に転がっている石にも気に留めない(特に自分の信念に基づく事なら)爆はさほど興味なく相槌を打った。
そういう事で、今夜未明から雪だと予報で告げられた最中、2人は庭で熱い光の華を咲かせていた。
(なんか変な感じだな)
例えるなら、そう、夏に雪を見ているような。不思議な感じが現郎を包む。悪いものではない。むしろその逆。
「そうか。花火は火だから、温かいという利点もあるな」
爆がマイペースにそんな事を言った。息が白くて煙と混じる。
やっぱり、と爆は呟くように。
「冬に花火はいいな。そうだ、雪とも合わせてみたいな」
きっと面白いぞ、と爆は無邪気に言ってみる。
「全部やり終わってから言うかよ」
花火の残骸が刺さるバケツを持ち上げ、現郎が言った。
「大丈夫だ。なんとかなるだろ」
爆が言った途端、雪がちらついた。
後日、文字通り爆に引っ張られて町中に繰り出したら、小さなおもちゃ屋で花火を見つけた。
冬に打ち上げ花火が見られるのは、そう遠くないな、と花火セットをを抱える爆を見て、思う。
<END>
|