25日の朝。爆の姿が居ない。
「…………」
その不在を確認出来たのが自分なのだから、これはちょっと異常な事態だな、と現郎は寝癖のある自分の髪をわっしゃ、と混ぜた。
「爆ー?」
両親に代わって迎えに行く。
と、爆はベットの上に居て。
枕元のプレゼントの前で、なんだか肩が落ちているように見えた。
「……なんだ?気に入らなかったのか?」
と、現郎が尋ねると、爆はふるふると首を振った。体調でも悪いのだろうか。しかし、見る分には至って平常に見えるのだが。
「現郎……」
ようやっと顔を上げた爆だが、やっぱり元気が無い。折角のクリスマスだというのに。
「現郎、どうしよう」
「なんだ」
爆は何かに心配……いや、恐れているというか、怯えているというか。
爆は、言った。
「とーさんとかーさん、リコンするかもしれない」
「………はぁぁああ?」
あまりにも突拍子も無い内容に、顎が外れる勢いで口を開く。
「……なぁ、一体どっからそんな事が出てきた」
「……見たんだ、オレ」
「何を」
「かーさんが、」
「うん」
「……サンタと、キスしてた」
「………」
さっきとは違う意味で固まった現郎を余所に、爆は話を進める。
「自分のハイグウシャ以外とフテイコウイをしたらミクダリハンを叩きつけられるんだろ?それで、ジダンに応じなかったらチョウテイにかけられて、イシャリョウセイキュウされるんだろ?」
「……いや、あのな………」
現郎は、受け手を選ばずに蔓延していく高度情報化社会の在り方について、これでいいのかと疑問を感じずに居られない。特に今は。
「違うのか?」
「違う。いや違わない……いやいや、あ〜………」
こんな時どうすればいいのか。本当に。
ここで、サンタは父親なのだから全然問題ナッシングだよ、と言ってしまうのは簡単だ。
簡単なんだけども。
こんな風に夢を壊すのもどうかと。内容が内容だし。
(……こいつって老成してんだか幼稚なんだか……てか、もう少し周り確かめてからしろよな、あいつも〜〜〜)
爆の父親であり、自分の親友の真に恨み言を呟いてみても、事態はちっとも好転しない。当たり前だけど。
今日はサンタからプレゼントを貰う日であって、試練を与えられる日じゃねーよな、と現郎は逃避に走る。
文字通り頭を抱えていると、すん、と鼻を啜る音がした。ふと顔を上げてみれば、爆が泣く寸前にまでなっていた。自分の沈黙を妙な方に捕らえてしまったようだ。
「おい、爆……」
「……イヤだ、とーさんもかーさんも、ずっと一緒に居たい……」
「爆……」
あーもう。
だいたい俺は説明すんのは得意じゃないんだ。
現郎は、ぎゅうと爆を抱き締めた。
「現郎」
いきなり抱き締められて、爆は驚きに目を開く。現郎の方から触れてくるなんて、そう滅多にない事なのだから。
「大丈夫。大丈夫だ」
現郎はそればかりを繰り返す。
「離婚になんてなる訳がねーよ」
「でも、」
「いいか、サンタなんて神様みたいなもんだ。だから、キスしても別にいいんだ」
「………そーなのか?」
「そーだ。だからキスしたからって、真よりサンタの方が好きだって事にもなんねーぞ」
現郎は別に嘘は言っていない。同一人物なのだから、どっちがより好きかなんて事にはならない。
「そうか」
「そうだ」
もう一回、頷く。
「ほら、さっさと着替えて。皆もう行ってるぜ」
「うん」
と、言った爆は笑顔だった。
「ご苦労、ありがとう、そして引っ付きすぎだこの野郎」
「労いと感謝と暴言を同時にすんな」
ちゃっかりというか、ドアの外でスタンバイしていた真に言う。
「いやー、まさか見られてたとはな。結構夜遅くだったんだが、根性入れて起きてたんだなぁ、爆は」
うむうむ、とか感心してどーすんだ(by現郎のツッコミ)。
「つーかお前、サンタのコスプレして行ったのか?」
「当然だろ」
何を聞いてるんだ、みたいに返され、現郎はそれ以上何も言わなかった。妙な所に力入れて衣装に凝らなければこんな事にはならなかったのに、と思ったとしても。
「ところで現郎」
「んー?」
「お前は、小さい頃サンタを信じていたか?」
「……さぁー、忘れたな。信じてたかもしれねーし、そうでもなかったかもしれねーし」
「…………」
現郎がいつもの調子でぼけっと言うと、真はにやりと笑う。
「……何だその顔」
「今の質問、前にもしたんだが……その時、お前こう言ったんだぞ。「居ないもん信じてどーなるってんだアホ」とかなんとか、そんな感じで」
「……………」
「ま、口惜しいけどお前にやるよ」
「何が」
「今はまだだけどな」
「だから、何が」
その不毛な会話は、着替え終わって走って来た爆によって終わりを告げた。
<END>
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