カイの家、正確には激の家だが、で開かれたクリスマスパーティーから送り迎えを断って帰宅、爆はごそごそと貰ったプレゼントを鞄から取り出した。ふんわりとファンシーに包まれたものもあれば、かっちり包装しているのもある。中身は当たり前だが、不明だ。最も、ピンクのは予想はつくが。多分菓子類だろう。
「…………」
どれから開こうか、と見渡し、結局これを手に取った。
カイからの贈物だ。包みの形は丸い。と、いうか袋になっている。
さて、あいつが何を贈って寄越せたか。
がさがさと開けてみると、それは。
「…………」
爆は言葉を失った……と、いうかリアクションに困った。包みを開けてでたそれは、なんとウサギのぬいぐるみだったからだ。そう大きな物ではない。とは言え。
爆が思った事。
その1.なんでウサギなんだ。
その2.どうしてこれを寄越したんだ。
ゲームか何かで無作為に選んだのならまだ判るが、これはちゃんと手渡ししてもらったものだ。
一体どういう意図なんだか……もっと、子供らしくなれって事か?
爆は別に大人びた態度を取っておるつもりはない。その時自分のしたい事を通しているだけだ。その妥協しない姿勢が、結果として同年代より強い自我と意志を育てなのだろう。
そんな爆を、周りの無理解な大人達はもっと肩の力を抜いていいだのと、はたまた何か悩みでもあるのかと、果てにはそんな態度で周囲を馬鹿にするのはよくないとまで言い出す。しつこく言うが、爆は何も無理をしていない。今の自分を変えろという方がよほど無理で不自然だ。
まぁ、それはともあれ。
思考を目の前のウサギに戻す。ウサギと言っても白くて目が赤いヤツではなく、目が赤いのは同じだが、身体は黒い。そのくせ、手足の先端は白かった。
そして、手にしっかりとニンジンを持っている。糸でくっ付いているらしく、引っ張っても取れなかった。
爆は少し考えて。
貰ったそばであれかもしれないが、まぁ貰ったものだし、と。
はさみでその繋いでいる糸をちょん切った。にんじんが離れ、手がぱっと広がった。なんだか、伸び伸びしているように思える。やってよかったな、と一人微笑んでいると。
チャイムが鳴った。
なんだ、と出てみれば、それの贈り主であるカイだった。酷く息を乱して、雪の予報がある気候の中で汗すらかいていた。
「なんだ、どうした?」
全くどうしたである。カイはぜはぜは息をある程度整えてて。
「あ、あの………っ」
ぜーひーと呼吸しながら、
「プ、プレゼント、間違いちゃいまして……っ!爆殿に贈ったの、それ、ピンク殿のなんです……っ!」
「……………」
そーいえば、それが一番ありそうな事だなぁ、と。その可能性を思い浮かばなかったさっきの自分に一言文句を言いたい。
と、なるとかなり困った事になる。ピンクに贈られるはずだったウサギは、改造(?)してしまったのだから。
「……ピンクの方にはもう言ったのか?」
とりあえず、言ってみる。
カイは、それにあ、という顔になり、
「ま、まだでした!電話してみます!!」
慌てふためいて携帯電話を取り出し、電話するカイ。
自分にも電話で話せばよかったのに、と思う爆。ここまでは、遠いとまではいかないが決して近くも無い。まして走ってやってくるような距離でもなかった。それに気づいて、どれだけ慌てたかが目に浮かぶようだった。
さて、あのウサギをどう話たものか……と考えて居ると。
「え、あ、もう使っちゃった!?」
カイの声がした。なんだ、と怪訝な顔をしていると、カイが振り返り。
「いえ、爆殿には香のセットを贈るつもりだったんですが、ピンク殿もう使っちゃったって……」
「まぁ、あいつ今アロマセラピーに凝ってたからな」
「ど、どうしましょう……」
カイは贈った本人なのだから、当然今爆の手元にウサギのヌイグルミがあるのは判っている。ピンクに爆のが行ったのはまだいいかもしれないが、爆にピンクのをあげたのでは可笑しいだろうと、しかし使ってしまったものを改めて贈ってしまうのも如何なものかと。
「別に、構わんぞ」
「え?」
これはもう、同じものを後日買うしかないのだろうか、とカイが考えて居ると爆がそんな事を言った。
「あれでもいい」
「あれって、ウサギのヌイグミですよ!?」
「何か可笑しいのか」
「い、いいえ!」
じろ、と睨むと手をぶんぶん振って必死に否定する。
「まぁ、自分で買う事が無いという点に立つと、贈られ甲斐はがあるものだ」
「そ……そうでしょうかね〜……」
考え込むカイ。
「あぁもう。貰った本人がいいというから、いいだろう」
「は、はい」
何故怯えて返事をするのか、と爆は思う。
「じゃぁその……失礼しました」
「何だ帰るのか?茶くらい出すぞ」
「いえその、後片付けほったらかしにして飛び出ちゃったんで、早く帰らないと」
師匠が怖い、というセリフは飲み込んだ。そういう事情なら、仕方無い。
「なぁ、訊いてもいいか?」
「はい、何でしょう」
「何で、ウサギなんだ?いや、別に意味がなくてもいいが」
それでもやっぱり、クリスマスに贈るヌイグルミはテディベアが主流ではないだろうか。
「あ、それはですね………」
と、カイは目を泳がせ、頬をかいた。それから、ちょっと言い難そうに。
「……笑ったりしません?」
「内容を考えて決める」
「そんなぁー」
「いいから、早く言え」
はい、とカイは観念したように。
「店に入って、何がいいだろうと棚を見ていたら、なんか目が合った気がしましてね。それで、なんだかその目で買えーと訴えられたような気がしまして」
自分用には絶対買わないが、贈物だからそれにあっさり従ったのだという。
「貴様は相変わらず自己主張が弱いな。ヌイグルミにも負けるのか」
「いやー、まぁ、その、はい」
なんかよく判らない返事だった。話すのが恥ずかしかったみたいだ。
これ以上カイを引き止めると、本気でカイが半殺しにされかれないので、最後に汗をちゃんと拭くんだぞ、と声を掛けて走る背中を見送った。
そんな訳で、今も爆の机の上にはそのウサギのヌイグルミが置いてある。
もし、その日にカイがその店に行かなければ、あんな思い込みをしなかったら、間違えたりしなかったら、このウサギは此処には無いのだ。
このウサギだけでもそんなに沢山の「偶然」が必要だったのだから、カイと出会うまでに自分はどれだけの「偶然」を迎えたのだろう。
予報どおりに雪が降り、夜が更けると同時に雪も積もる。余分な音はその雪が吸い取ってくれる。
爆は、ゆっくりとそれを数えることが出来た。
<END>
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