機械仕掛けの翼・2





 俺の遠大な計画はこうだ。
 まず、現郎のお友達として接近し、徐々に俺という存在に慣れさせて、行く行くは現郎抜かした状態でもフツーにどっかへ遊びに出かけられるよーな関係になる!
 おおなんて大胆かつ緻密な計画だろうか!
 とりあえず、明日はそれの一歩だ!がんばれ俺、がんばれ!
 と、誰も励ましてくれないから自分で自分を奮い立たせていると、携帯電話が鳴る。この曲は現郎で、しかもメールじゃなくて通話だ。喋るより打つ方が早い現郎にしては珍しい。
「はいもしもーし」
「あー、明日なー。お前だけで爆と会ってくれや」
「 え 」
 いかん、一瞬俺の中の何もかもが止まった。
「……は、はぁ?何言ってんだよ、お前!俺だけで爆に会いに行ったらどう見ても不自然だろっていうかそもそも俺の心臓が耐えられねぇよ!お前さては亡国のスパイで俺の暗殺でも企んでんのか-----!!」
「俺が亡国のスパイになる訳ねぇしそれだとしてもお前を殺す義務は無いし、そもそもそれで死ぬお前が可笑しい」
「えぇーいパニくってる人間を冷静に理詰めで返事するな!!
 せめて理由を言えぃ!」
「お湯沸かしてたヤカンが落ちそうになってとっさに素手で拾っちまって両手が大やけどした」
 俺は凄い納得した。
 そうか……だからメールじゃなかったのか……
「……なんかもう、それはお大事にしか言うセリフねーじゃねぇか。大丈夫なのか、もう」
「あぁ。全治1ヶ月くらいだとよー」
 俺は火傷に詳しくないから、全治に1ヶ月かかる火傷が大丈夫なのかどうか解らない。
「て事で。明日俺の所に寄って辞書爆に渡してくれよ」
「……それだったら爆がお前の家に行った方が、」
「いいのかそれで」
「嫌です」
 考える前に口が勝手に言って居た(しかも敬語で)。
「どーせこれを足がかりに行く行くは2人で遊べられるよーな関係にしようとか思ってたんだろー?手間が省けてよかったじゃねーか」
「ぅあっはっはっは」
 無意味に俺は笑った。こいつ、まさか覗いてたんじゃねーだろうな。
 しかしこれはあれですよ(あぁまた混乱のあまり敬語に……)。顔に水をつける所から始めようとしていた人間に、いきなり10Mの飛び込み台から飛び込めと言っているのと同じだっての。
 でもまぁ、いきなり2人きりになるのを、怖気づくと同時に楽しみにしている。
 今更だけど、俺は本当に爆が好きなんだ。やっぱりこれって。
 恋。
 だろうな。
 こんな気持ちは初めてだから、コレが俺の初恋だ。




 さて当日。
 30分前に着いてしまった。焦らした方が後が楽しいとか行って、デートには平均10分くらい遅れる俺なのに。あっはっは。どんだけ楽しみにしてんだ俺。まぁ、デートじゃないけどねー。(言ってて落ち込んでたら世話ないよ)
 あと15分か……何かそわそわすんなぁ。
 って、そーいや爆は今日俺だけしか居ないってのを知ってるのか!?そうでなかったらとんだ場違いになっちゃうぞオイ!あー、なんでさっき現郎から辞書渡された時に訊かなかったー!むしろ今までに気づけなかったかー!!
 あぁいかん!心臓の動きが尋常じゃなくなってきた!!
 どうしよう!やっぱり引き受けたの間違えだったかも………
 と、その時。
 ----べしんっ!
「ってぇ!?」
 割りと強めの力で後頭部を叩かれた。何処の誰だ壊れ易いガラスのハートを持て余している俺に!
 殴って蹴ったあと簀巻きにして投げてやる!と意気込んで振り返ると。
「さっきから呼んでるのに、何処に意識を飛ばしてるんだ貴様は!」
「……………」
 ………おお。この居丈高で尊大な物言いは。
「爆」
 である。
 自覚する前から可愛いと思っていた爆は、自覚した後はもっと可愛く見えた。
 いや、可愛いっていうかなんて言うのかな。作り的にはそう秀でてないとは思うけど、冷静な眼で見れば現郎とかの方が整ってるんだけど。
 ずっとずっと、隣で眺めていたいような、そんな顔なんだ。
 そう思っていたら、爆が徐に手を伸ばし、俺の鼻を摘んだ。
「の゛?」
「だ・か・ら。何をぼけーっとしとるんだと言ってるだろうが!さっさとブツを渡せ」
 ブツってそんな怪しい取引みたいに。
「へいへい、解ってますよ」
 バックの中から辞書を取り出し、爆に渡した。
 これで本来の予定は終わりだ。終わりなんだけど、終わりにさせてたまるか!
 爆を見て腹が据わったのか、俺は率先に話し掛ける。
「なぁ爆、メシ食いに行かね?」
「悪いがこれから予定がある」
 俺の予定、いよいよ終了。
 まぁ仕方ねーよな、うん。そういう事もあるさ。別に嫌われてるから断られた訳でもないさ。くじけるな俺、泣くな俺。
「じゃ、またな」
 わざとさよならと言わなかったのを、爆は気づくだろうか。気づかれても困るんだけど。
「今日はわざわざ悪かったな」
「いーよ。暇だし」
 へらっと笑ってみせて、爆は最後にじゃあな、と挨拶して駅の雑踏へと消えて行った。
 追いかけろと訴える足を必死に地面に張り付かせ、その姿が完全に見えなくなるまでずっと見ていた。
 俺は爆の事が好きだけど、じゃぁ俺と爆って何だろう。
 爆が居なくなって凄く寂しい。
 俺は爆に恋している。




<おわり>





全く先を決めないで書いているので、先の展開が自分でもドキドキです!(なんだそりゃ!)
最終的に両想いになる……のかな?それすら決めてないでおじゃるよ(←?)