君とピアス





 なるほど、あれがキャッチってやつか。噂はよく聞くけど、見るのはこれが初めてかもなー、と呑気に思う傍ら、怒りを抑えながらそっちへと向かう。待ち合わせの場所から動いて。
 激はそいつの手を掴んだ。
「いー加減にしろよな。人の連れに」
 そう言って、僅かに本気の殺気をのぞかせて睨めば、相手はそそくさと退散した。また別の誰かでも引っ掛けるのだろうか。生憎、そこまでの面倒は見切れない。
 さて。
「爆、平気だったか?」
「誰が助けろと言った?」
 睨まれてしまった。
 まぁ確かに、爆に掛かれば悪質なキャッチセールスの1人や2人、撃退するのは容易いだろう。だろうけど。
「だってさ、絶対ボコボコにするだろ」
「当ー然だ」
 ふん、と鼻息を荒くした爆に、激はなんとも言えない顔になる。
「あのなぁ、もーちょっと立ち回り上手くしないと、悪目立ちするばっかになるぜ?」
「人がどう思うが関係ない」
 きっぱり!とかいう小気味よい音が聴こえそうだった。きっと爆という人は、壁に当たったら乗り越えないでそれを粉砕して行くような行き方をするのだと思う。
 しかしそれは安全とはいえない様な生き方で、出来れば危ない目にあんまりあってもらいたくない激としては放っとけない問題だったりするのだ。放っておけない割には、あまり何もしていないに等しいが。だって言ってもこれだもん、と激は自分にいい訳する。
 ふと見れば、爆が自分をじぃっと見ていた。
「何だよ。穴開ける気か?」
 それくらい見ていた。
「激はピアスはやらんのだな」
 唐突な話題に一瞬、へ?となった。
「現郎はしてるんだけどな……」
 思い出しながら爆は言う。あぁ、そう言えばさっきのヤツ、すっげーピアス付けまくってたな、と激は思い出した。
「いやまぁ……ぶっちゃけ現郎が原因なんだけどさ」
 激は言う。
「?」
 疑問を持った爆に、激は答えてやった。
「現郎はさー、自分で開けたんだけど、その時の事をそりゃもう克明に語ってくれたんだよ……」

<激の回想>
「うわ、お前穴開いてんじゃん!どうやったよ、コレ」
「んー、裁縫セットのミシン針」
「ミシンかよ!!」
「だってそれが一番太っいかったし」
「いやでも裁縫セットって。どんな有効活用だよ」
「んでなー、とりあえず一応氷で麻痺させといたんだけどよー、それでもやっぱ解るのなー、入ってるってのが」
「解るの?」
「解る解る。おー、入ってんなーって。あとちょっとで貫通だーみたいな」
「……そ、そぉ………」
「超解る」
「…………ぅわぁ」

 回想を終えた激は遠い目をした。
「……以来、どーにも耳に穴を開けるという行為がなんていうかさー」
「……と、いうかミシン針で開けていいのか」
「消毒すればいいと思うけど……あいつも案外ワイルドだよな」
 万年寝太郎のくせに、と激は言った。
「まぁ、お前はその垂れ目の上にピアスなんかしたら、いよいよ胡散臭いホストみたいになってしまうからな」
 無くていいと爆は言った。
「胡散臭いホストって、酷くねぇ?」
「なんだ、人気No1ホストの方がいいのか」
「だからホストの時点で嫌だろってば」
 本当に内容がいきなりだなーと思う激だ。
「ピアスもなー、ちょっとは興味あるけど、特にやりたいって程でもないし」
「自分に無理はしないほうがいい」
「……人の事言えないじゃん……」
「何か言ったか」
「言ってマセーン」
 また睨まれたのを、しれっと誤魔化す激だ。
 特にやりたい程でもないけど。
 爆がしっちゃったら自分もやっちゃうんだろうな。
 そう思いながら。




<おわり>





現郎さんのセリフは中学時代の友達のセリフそのままです。本当にミシン針で開けたそうですよ。学校で配られる裁縫セットのアレで。アレで。

リハビリ(?)みたいな感じで思い浮かぶままたらたら書いてみました。