まぁね、前からおやーとか思っていたんだよ。
可愛い女の子を見ると、お、可愛いーとか思うけどそれまでで、ドキドキするとか、彼女にしたいなぁとか、そういうのをあまり、いやそんなに、いやいや全く思わなくなったって事とかで。
でもまぁ、そういう時もあるんだろうなーとか勝手に完結させてたんだけど!
5年ぶりに爆に会った。
最後に会ったのは10歳だった爆は、15歳になっていた(当たり前だ)。
記憶にある爆より、少し大人びて、でも思い出と重なる容貌に頭がぼーっとする程見入った。
頭の中が爆で一杯になったんだよ。
ファミレスみたいなチェーン店だって、ピンからキリまである。この店はピンに入ると思う。俺は現郎を呼び出した。話があるからだ。でもその本題にあっさり入れなくて、しばらくガムシロップも入れていないアイスコーヒーをストローでぐるぐる回した。こんな時、現郎みたいな相手はありがたい。こっちが言い出すまで、何も促さないからだ(おそらくするのが面倒と思われる)。
とは言え、このまま無意味に過ごす訳にもいかない。大事に生きよう一度の青春。
俺は話を切り出した。
「なぁ、現郎……俺、ホモかもしんねぇ」
「なんだ唐突に」
現郎はホットコーヒーを啜る。うーん親友のカミングアウトにもいちいちクールなヤツめ!
「だってよ!なんか爆見たらすげぇドキドキしたんだよ!今も顔を思い浮かべるだけでドキドキしちまうんだよ!ありえねぇくらいにドキドキしてるんだよ!!」
……思い返せば爆が10歳の時点で、会うのが楽しみだったり笑った顔がとても可愛く思えたり、ふいに抱き締めたくなったのは父性愛じゃなくて、父性を抜かしたただの愛だったんだろうか……!!そうだったのであろうか!
「……て言ーか、俺なぁ……ホモっつーより爆が好きなんだよな。爆以外の男見てもドキドキしたりしねーもん。
例えば雹なんか結構美形だとは思うけど、50億積まれても付き合いたくねぇし」
「50億積んでまでお前らをつき合わそうとする意図が判らん」
「例えばの話だってば」
「でもよ。爆限定だっつても、その爆が男ならオメーはやっぱりホモって事になるんじゃねぇの?」
「やっぱりそーかぁ……」
ごち、と額とテーブルがくっ付いた。
「何だ。自分がホモだったのがそんなにショックか」
「……ショックっつーか……戸惑っているっていうか……なんか……どうすりゃいいの判らねぇ」
「告白とかしねぇのかー?」
かなりどうでもよさげに現郎が聞く。今はこの雑な扱いがありがたい。
「……カミングアウトならまだしも、告白となるとなぁ……セクシャル・マイノリティに偏見は無いと思うけど、自分がその対象にされるとは夢にも思ってねぇぞ。爆はたぶん。しかも顔見知りに」
「そんじゃ、何もしねーのか」
「……いやぁ……何もしなくても、好きって気持ちが消える訳じゃねーしなぁ……」
「じゃーもう会わなきゃいいじゃねーか。簡単でいい」
「……それは一番嫌だー」
泣き言のように俺は言う。どうせどっちにしろ苦しいのなら、まだ会っている方がマシだ。……と、思う。
「……これってさ、まだ行き過ぎた友情で片付けられる範囲かな」
「厳しいんじゃねーの?」
縋るような思いで言ったってのに、現郎はあっさり切り捨てやがった。
「でもよー。爆にキスしたいとかセックスしたいとか、あんま率先して思ったりはしねーんだよなー」
我ながら複雑だなーとか思っていたら、現郎がこんな事を言い出した。
「じゃ、爆の方がしてくれって誘ってきたら?」
……………爆が?
爆が…………
…………
「……い、頂くかな?」
あぁいかん。頬が緩む。一応ぺしぺしと叩いてみたが無駄な抵抗もいい所だ。
「やーい、ホモホモー」
「うっせーよ!!」
「事実なんだから仕方ねーじゃねーか」
「ぅ………」
チクショウ!正論なんて大嫌いだ!!
と、この時現郎の携帯が鳴った。
「誰から?」
と、なんとなくに聞く。
「んー?メール。爆から」
「爆!!?」
うわぁ、思いっきり過剰反応取ってしまったぃ!!
「フランス語の辞書を貸してもらいたいんだと」
そうか、現郎それ専攻してたもんな……あぁ、イタリア語だったら俺のがあったのに。
いや、それより。
「……で、何時渡す」
「今度の日曜だなー」
言いながら現郎は返事を打っていた。
「ふーん、日曜………」
ずずーっとアイスコーヒーを飲む。
「一緒に行ってもいいですか。むしろ行かせてください」
俺は久しぶりに頭を下げた。
「お前よ、」
会計も済まし、帰路に向かう中、現郎が俺に訊く。
「こんな事、俺に言ってどうしてもらいたんだよ。後押しして欲しいんか」
「……て言うか、」
俺は言う。
「別に何かして貰いたいっつーか、聞いて欲しかっただけなんだよ。お前は人に言いふらすようなヤツじゃねぇし」
「面倒だから」
「うん、そう」
いや、でもそれでなくても現郎は言うヤツではない……と思いたい。
「そんでまぁ、深刻めに言うと、俺が爆に好きだって言わないまま死んだとしても、俺が爆を好きだったって事を知っている人が居て欲しいんだよな。
人の悪い癖だよ。何かを残したがる」
「悪い癖じゃなくて、業だろ、業。
「業かぁ……」
あまりに相応しい言葉に、たはは、と乾いて笑う。
俺が爆をそういう風に好きかもしれないと気づいて、何を最初に思ったかというと、純粋に慕ってくれる爆に対しての罪悪感だ。まるで兄みたいに親友みたいに接している俺が、それが下心故だと知ったら……失望するだろう。多分。
悲しませたくはないんだ。
好きだから。
これからどうなるとか、どうしたいとかはまださっぱり解らないけど、とりあえず。
「……なぁー、その後爆と一緒にメシ食いたいから現郎も付いてきて」
「はぁ?ンなの2人きりで行けよ」
「俺と爆じゃ接点が少ないんだから、誘ったら不自然だろ!な!頼む!出来ればお前から言い出して!!」
「……オメー……本当に好きなんだなぁ」
「やかますぃ!そんな目で見るなー!!」
この感情に当分振り回される事は確実だ。
俺は爆と会う日を指折りで数えて待った。
<終>
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