日が昇ったら





「なぁ現郎」
「何」
「年中ずっと続くとしたら夏と冬どっちがいい?ちなみに俺、夏。絶対夏」
「そりゃ今寒いからそう思ってんだろ」
 現郎のセリフにはフォローとか慰めとかは一切存在しない。
 それに激はうがぁ!と喚くように、
「だって寒ぃんだよこの部屋!どうなってんだ!!」
「どうなってんだっつーか、どうもなってないから寒いんだろーなぁ」
「エーアーコーンー!!」
「壊れてる」
 その後、しばしもの言いたげに肩を戦慄かせていたが、がくっとそれを落とした。
「……お前って寒さに強いよな」
「別に」
「いや強いって。いいよな、羨ましい」
「激」
「何」
「臭いセリフ言っていいか」
「口説く気!?」
「永遠に冷たくさせてやろうか」
「あー、冗談ですよ冗談。で、何」
「人は気温の寒さに強くなれる事はあっても、心の寒さは耐えれねぇぞ」
 とか言うセリフが出て。
 平素の激なら大爆笑してからかう所なのだが、今日は。
「………ッ!」
 ざっくり。とか言う音が聴こえそうにそのセリフが胸に刺さる。
 ようするに何かというと、激が寒い寒い喚いているのは此処に爆が居ないからだ。
「……………」
「ンなに体感温度下げるくれーなら、行かせなきゃよかったじゃねーか。クラスメイト内のカウントダウンパーティー」
「いやいや、爆のよーな子には同年代の付き合いが、後々大きな資産になるんだ」
「似非保護者の意見はそれでいいとして、本音は」
「今から攫いに行っちゃろうかコンチクショウ」
 だめだこりゃ、と現郎は肩を竦めた。




 寝る。とだけ簡潔かつ全てを語り、現郎は寝た。彼にとっては大晦日だろうかなんだろうが関係ないらしい。ふと、現郎は除夜の鐘を聴いた事があるのかどうか気になったが、気になった瞬間にかなりどうでもいい事だと気づいて訊かない事にした。
 そんなこんなでさほど広くない部屋に激、ひとりきり。毛布とか被って。
 今、ここの気温は何度だろう、と思いながらも怖くて見れない。
 このまま行けば、最悪の年越しだな。
 へっ、と薄ら涙眼になって、激はヤケクソに思う。
 ふと、おそよ一週間前----クリスマスの時を思い出す。
 クリスマスはクリスマスで、爆は家族とのパーティーがあるから、昼間のちょいとした時間しか会えなかった。
「なぁ、爆」
 激は訊く。
「ん?」
「その、大晦日とかって、どんな感じ?」
 あわよくば、というか理想なら自分の部屋に招いてそのまま年の移り変わりも一緒……てな浪漫てぃっくな年越しをしたいのだが。
 現実は彼に厳しい。
「あぁ、ピンクの家にみんなで集まって、神社に行くんだ」
「…………………」
 爆って何気に友達多いよね。激はうっかり現実から逃げる。
「激も来るか?甘酒出るぞ。汁粉もあったっけな」
「……いや、俺も現郎とだから」
 本当はそんな予定これっぽっちも入っちゃいないのだが、どーせあいつは寝転がっていたいから誘い全部断って部屋に居るんだろう。唐突に押しかけても睡眠を妨げないのなら、拒みはしない。
 甘酒啜りながら友達と仲良くしている爆を見るのは辛いものがある、と断ったのだが、今となってはそれでもいいから行けばよかったと思う。
 どうやら自分は自分で思うより、爆に依存しているらしい。
 いかんこんな事では。ばれたら気味悪いといか思われちゃう。
 ぶんぶんと首を振ってみて。
 色々払った所で考えるのは爆の事ばかり。




 ………
 ………………
 ありゃ。俺あのまま寝ちまったのかー。うわやべぇー、風邪ひいたらつまんねーぞ。
 いや結構温かいな。布団?現郎のやつ、たまには(というか知る限り始めて)気が効く-----
「…………」
 とか考えながら起き上がり、激の思考が固まった。
 傍らに居る爆を目の当りにして。
「!!!!?」
 パニックになる激の前、爆はすやすやと寝ている。
 一応、場所は現郎の部屋だ。
「なっ………っな、なぁっ!!?」
「ん〜……」
 激の奇声に反応したのか元から覚める時間だったのか、ともあれ爆が起きた。
「あぁ、おはよう」
「おはよ。……じゃなくて!!!!」
 普通に挨拶してしまった自分へ突っ込む。
「おま、一体……何処で何してんの!?」
「現郎の部屋で寝ていた」
「そうだけどぉぉぉぉぉぉッッ!!!」
 悶絶する激はほっといて、爆は勝手しったる、な感じで自分のココアを淹れた。
「……ば、爆………」
 ベット代わりのソファの上で、激は蝦蟇みたいな油を出している。足元には毛布と布団。
「何だ?」
 ふぅふぅとココアを覚ます爆。
「俺……な、何かしたかな………?」
「いや、寝ていたな」
 そうか!あぁ良かった!!と胸を撫で下ろした。とりあえず、これで最低限自分の命は確保された訳だ。
 うんうん良かった良かった、と、とりあえず安心する激の耳にこんなセリフが飛び込む。
「まぁ、寝ている時思い切り抱き締められたけどな」
「、」
 ぴき。激が固まる。
「それで、寝言もなんか言ってたな。何で行くんだ、とか、側に居ろよ、とか」
 ぴし。激に皹が入る。
「…………」
「…………」
 爆がココアを飲み終わるまでのたっぷりの時間を掛けて。
「……それは無かった事に」
「出来るか」
 やっぱり?と泣き笑いになる激。
 と、その頭を爆が軽くどついた。
「って!?」
「言いたい事があるなら、はっきり言え」
「…………」
 激は大して痛くも無い頭を撫でながら。
「………嫌ったりしない?」
 ぼそ、と言ってみる。
「これくらいで嫌うようなら、最初から貴様のようなヘタレを相手にしたりするものか」
「うわぁ、説得力」
 爆の事を信じてるとか信じてないとか。そんなんじゃない……と、言ってみても、もう言い訳か。
「……今日」
「あぁ」
「ずっと一緒に居て」
「……此処でか」
 いや、俺の部屋で、と自信をつければ激はお調子者。




「それで、さ」
 エアコンは偉大だなぁ……と電源を入れて激はふと思ったりした。
「何で現郎の部屋なんか行ったの」
 そう、激が言えば、爆は訝しんで。
「何で、て……貴様が現郎の所に行くと言ったんだろうが」
「……………」
 わぁ。最高のセリフ。




<END>





なんか激と現がアホゥな会話してる所が書きたくてそれから流れに任せてみた小説。
こんなんのと付き合うなんて爆も根性あるなぁ(無責任に)