冬は嫌いだ。





 冬は嫌いだ。と、激は思う。

 冬は嫌いだ。寒いから。
 寒くて、人肌が恋しくなるから。


 冬は嫌いだ。
 人肌が恋しくなるから。
 それを求めて抱きつくと、俺の恋人は思いっきり蹴飛ばしてくれるから。




 で。
 と、言う事で爆に思いっきり蹴られた激は、頭を下に、腰を上にして壁にくっ付いている。座ったままの姿勢だったというのに、恐るべき蹴りの威力である。
「ぃ…………」
 さかさまになった激が言う。
「痛ぇ………」
「……当然だ!思いっきり蹴飛ばした!」
 あぁ思いっきりだよ。これで思いっきりじゃなかったらちょっと困る、とか思いながら激は自分の天地を直した。
 本来の位置に戻った激の頭を、これまた爆は思いっきりばちーんと叩いた。グーで殴らないのは愛情かな、と痛みと一緒に激は思う。
 爆は、怒鳴る。
「いきなり……何をするんだ!貴様は!!!」
 怒鳴って、そして真っ赤だ。
 何をしたって。激は思い出してみるが、「寒い、爆」と言いながら後ろから抱きついた事しか思い当たらない。あれって、そんなに怒られるような事かなぁ、と首を捻る。
 激のその態度が気に食わないのか、爆は肩を戦慄かせている。
「惚けた顔をするな!変な事をしておいてッ!!」
 変な事?変な事ってなんだ?抱きつくのは、そんな可笑しい事か?いよいよ思考は混乱していく。
 が。爆の様子をよくよく見ていると、なんだか頬を気にしているようだった。それで、ようやっとあぁ、と思い当たる。
 そう言えば、抱きついた瞬間、勢い余って前につんのめり過ぎて、自分の顔と爆の顔が同じ位置に来たなぁ、と。その時、うっかり(という訳でもないんだろうけど)触れたのかもしれない。
 途端、噴出しそうになるのを必死に堪えた。
 こんな、本当に些細な事に過敏になる爆がとても可愛い。
 真実、というより信念を見据える目を持つこの子供は、実年齢以上に老成しているみたいに周囲は思うかもしれないが、それはまるきりそうでないのが、知れば知る程解る事だ。が、それでもこうして、改めてそんな一面を垣間見るとその感慨に耽る。
 それを見れた事に。
「あー、うん。ごめん。口が当たっちまったな」
 でもわざとじゃないんだよ、と伝えてみると、意外に爆はあっさりそうか、と引き下がった。過剰に反応したという自覚があったらしい。
 しまった。それならそれで対応変えれば良かった、と激は懲りない。
「もう、するなよ」
「何を?」
「抱きついたり、そういう事だ!」
 なんだか動物の咆哮みたいにそう叫んで、爆は抱きつかれる前までしていた事に戻る。読書だ。
 自分に背中を向けているが、警戒しているのがありありと解る。
 そう、爆ってヤツは、本当はとっても解り易いんだ。
「……な、爆」
 返事は無い。が、煩い黙れ喋るな等のセリフが出ないので、続ける。
「抱きついたら、だめなんだよな?
 じゃ、抱きついて来て」
「……はぁ?」
 あ、こっち向いたvと激はご機嫌だった。
「だって、俺は爆に触りたいのに、抱きついちゃだめなんだろ?って事は爆の方から抱きついてもらうしか無いよなぁ」
「……何が”しか無い”だ!何なんださっきからお前は!」
 体ごと向き直り、爆は再び声を荒げる。
「だって寒いからさ」
「………だったら、ストーブにでも張り付いとけ」
「柔らかいのがいいんだよ」
「…………なら、」
「でもって、大好きな相手」
「っ、」
 大好き。そんな単語1つで爆の雰囲気ががらりと変わる。そわそわしていて、落ち着きが無いような。
 爆は自分の気質を自負している。好きだの愛してるだの、そんな言葉とは無縁に生きるのだろうと思っていたに違いない。しかし、現実とはままらないのが常で。爆はそんな言葉の渦の、真っ只中に居た。
 どうしてこんな事になったんだろう。
 その疑問の答えは、とてもシンプルだ。
「……寒い、から、だよな」
 口ごもるように言う。
 そうだよ、と激は乗ってみる。
 むぅ、と爆は剥れる。
 だって、だって。
 体格から考えて、どう抱きついたって自分が激に包み込まれるに決まっているのだから。




 冬は嫌いだ、と爆は思う。


 冬は嫌いだ。寒いから。
 寒いから。
 温もりに、余計逆らえなくなるから。




<おわり>





何故かワタシは「ふゆ」を「ゆふ」とよく打ち間違える。いや、すぐ気づくからいいんだけど(当たり前だ)

そのまま、抱き締めたまま爆が眠っちゃって激がにっちもさっちも出来なくなってしまえばいい。ふはは。困れ困れ。ふははは。
カイは薄腹黒だけど、激は純粋ヘタレです。