独占ホロスコープ





 金曜朝ににやってたテレビの占い。
 それによると、俺の星座は12個の中で最高にラッキーで、特に恋人と海に行くとさらに素敵な事が待っているとの事だった。
 あっさり言うと、俺って占いはそんなに信じてないんだよな。いや、れっきとちゃんとしたものは、超心理学や地学を踏まえた根拠あるものだって思うけど、たかがテレビで垂れ流しているだけの星座占いなんて、番組の彩りくらいに捕らえて然りだと思う。だってよ、俺と同じ星座のヤツが、この地球上何万人居ると思うよ。そいつら全員が幸運に見舞われてるだなんて、しかも海に行けばいい事が起きるだなんて、そんな、


「あー、もしもし爆?明日の土曜日、海行かね?」


 人には藁だって喜んで掴みに行きたい時もある訳です。




「こんな時期に海だなんて、何を考えて居るんだ?」
 助手席に座る爆は、憮然として言う。そんな顔だけど、嫌……じゃ、ないよな。だったら来ないだろうし。少し首を捻っている様子が可愛いとかうっかり言ったら、殴り倒されるだろうか(運転中なのに)。
 まぁ爆の疑問も最もで、今の季節、泳ぐのには遅いし、魚を味わうのにはやや早い。行った所で秋風の吹いている浜辺を眺めて終わるだろう。
「んー、まぁでもいいもんじゃね?誰も居ない浜辺でまったりするのもよ」
「そうか?」
「そうだよ」
 絶対にそうです!って顔して、走る道は海へと導く。




 そして海岸に着いた。
 シーズンを外しているとは言え、まばら程度に人は居た。……まさかこいつら、皆俺と同じ星座じゃねーよな……(仲間が居なくてもへこむけど、居たら居たでなんか居た堪れない)。
「で?」
 すぐ隣の爆が言う。
「え、」
「え、じゃないだろ。目的地に着いたんだ。どうする言いだしっぺ」
 あー、そっかー。もう、来る事自体が目的だったしなぁ……
「と、とりあえず……その辺に座る?」
 てへ、と笑って誤魔化してみたけど、段取りが悪いな、という爆の溜息からは逃れなかった。




 今日は風が強くて、海は少し怒っているように見える。が、それは見ている側の勝手な意見だ。波が、船を止まらす程静かだろうと、人を飲み込んでしまうくらい激しかろうと、海は海だ。多分何も変えてはいない。
 ……思えば、こうしてゆっくり海を見詰め返すなんて事、無かったなぁ……
「……初めてのような気がするな。何もしないで、ただ海を眺めるなんて」
 ふと、横で爆が同じような事を言ったので、俺は少し驚いた。そうだな、ととりあえず同意してみて。
「どうして、海は青いんだっけか」
「うーん。まぁ、色ってのは全部光の反射だからな」
 反射って言うと、その色だけ跳ね返ってくる、ってイメージだけど、ちょっと違う。青い物が青色に見えるのは、青色の光線を覗いて他の色全部がその物に吸収されるからだ。だから、実際の物の色と見える色が違う物も、たまにあったりする。
「オレは小さい頃、空が青いのは海の色を映しているからだと思っていた」
 なんて、爆が可愛い事を言ってくれたので、俺は顔を緩むのを堪えるので必死だった。だって、そうしたら絶対殴るだろうし。
 でもそんな俺の努力虚しく、一発殴られてしまった。イテテ……
「思っていたのは覚えているんだが、何時それを訂正したのかが解らん」
 爆は少し寂しそうに言った。
 今持っている物を全部持って大人になるのは、無理な事だよ、と言うべきかどうか。
 結局俺が言えなかったのは、それだけの権利が無いのと。
 爆なら出来そうな気がしたから。
 見届けれたらな、って思った。




 小さな土産小屋があったので、何となく入ってみる。
 シー・グラスって言うんだっけ?小石みたいに削られたガラスの欠片を、ざるに入れて無料配布してたんで、2,3個貰ってみた。そのかわり、と言っちゃーなんだけど、ラムネを買った。
「海で飲むのは、ラムネに限るなー」
「あほか」
 爆の言葉が冷たい潮風より、肌に突き刺さる。
 でもまぁ、実際海に似合う飲み物は、俺的にコーラよりラムネだと思うよ。この色合いがさ、青緑っていうかラムネ色のこの瓶がさ。意図したのか副産物なのか知らないけど、いい色だよな、うん。
 と、爆が俺の手のひらを強引に開いた。
 シー・グラスを握っていた手だった。
「ん?」
 俺の物色したグラスを、ひとつ手にとっては眺めていた。一通り眺めて満足(?)したのか、結局全部また俺の手のひらに収まった。
「欲しい?」
「欲しいなら自分で取る」
 爆はそう返した。




 さーて、そろそろ帰りましょーか。
 爆の年齢考えると、この時間で潮時。
「結局、何しに来たんだって話だよな」
 ほとんど何もしないでぼやーっと海を眺めていただけの気がする……と、いうかその記憶しかない。まぁ、それでも俺は、それはそれで良かったんだけど。
「全くだな。星占いに左右されるだなんて、女々しいにも程があるぞ貴様は」
 いやいやご尤もで。
 って。
 あれ。
「……俺、星占いの結果なんて、言ったっけ?」
「………………」
 爆が沈黙するのは、余計な事を喋らない為だ。
 って事は。
 って事で。
 そっかそっか。
 占いなんて、で馬鹿にしているのに、爆は。
 俺の運勢は気に掛けてくれちゃって、チェックしてくれてるんだ。
 そっかそっか。
「……何をしている!さっさと帰るぞ!!」
「は〜い」
 真っ赤な爆を隣に置いて、俺たちは家路を辿った。




 俺だってこう見えて、世間をもう色々知っちゃってるし?
 これで占いを信じよう!とか思う訳じゃないし
 でも、何か行動すれば何かが起こる訳で。
 何をすればいいのか解んない、って時はこーゆーのに頼ってみるのも。

 ま、アリじゃない?




<END>





爆は自分の事に無頓着でも、相手の事は些細な事でも気にかけると思う。んでもってそれを素直に言わないっつーか出さない。それに気づけるかどーかが甲斐性ってヤツですかね。